僕、昇進しました!
享禄三年正月。
朽木谷で年を越した義晴のもとに、朝廷から知らせが届いた。
「大舘! 僕、昇進しました!」
知らせを手に、義晴が嬉しそうに声を上げる。
「おめでとうございます、上様!」
「うむ。朝廷も早く僕に京に戻って欲しいってことだよね。僕の外交手腕が買われたわけだ」
満足そうに頷く義晴に、大舘は少し考えてから答えた。
「上様―晴元殿―柳本殿の協力体制が機能しているのを見て、上様が京へ戻るのを期待されたのでしょうな」
「うんうん、ところで大舘くん」
「はい。なんでございますか?」
義晴は手元の知らせへ目を落とした。
「従三位権大納言ってなに?」
「今回昇進した上様の役職でございます」
「そんなことは知ってるよ! どれくらい偉い人なのか聞きたいんだよ」
「あー、めっちゃ偉いですよ?」
「説明するの面倒くさいからって適当に答えないでよ」
「分かりました。では簡単に従三位と権大納言で分けて説明いたします」
「よろしく!」
大舘は姿勢を正した。
「まず従三位とは、位階という身分のランクでございます。三位以上ともなれば公卿、つまり朝廷の最高幹部層ですな」
「ほう」
義晴が少し偉そうに頷く。
「続いて権大納言ですが、これは実は権と大納言で分かれます。権はまあ代理みたいな意味合いですな」
「代理?」
「言い方が難しいのですが、定員外の場合に任じられる官職なのですよ。権限としては本職と同等なのですが、臨時の増員と申しますか」
「ふーん」
分かったような、分かっていないような返事だった。
大舘は気にせず続ける。
「次に進めますぞ。では大納言ですが、大臣に次ぐ朝廷の重職ですな。国政について議論し、天皇への奏上や勅命の伝達などを行ったりします」
「え? 僕、なにか仕事回されるの?」
先ほどまで嬉しそうだった義晴の顔が曇った。
「まあ、天皇や大臣の補佐役ですからな」
「うーん、まあしょうがないか。頼りにしているよ? 大舘くん」
「……」
大舘は何も答えなかった。
◇
正月の昇進から、四ヶ月ほどが過ぎた。
義晴は相変わらず朽木谷にいた。
(そろそろ大舘が『上様!』とか言いながら入ってきて、帰洛の準備をしてくださいとか言われるのかな。京に戻ったらなにを最初に頼もうかな♪)
「上様!」
「お、待ってたよ大舘! 帰洛の日程でも決まった?」
「それが、帰洛どころか協力関係すら危ぶまれております」
「え? またぁ? 今度は急に何が起こったのさ?」
「はい、柳本殿と松井殿、そして伊勢殿との間で上様の上洛に関して、談合しておったのですが、細川晴元殿の側近がそれに対応なされなかったようで」
「今度は誰の反対なの?」
「それが、和睦そのものに反対したのか、単なる手続き上の問題だったのか、そこが分からぬのです。そのため晴元殿が上様を京に迎え入れる話も消えてしまいました」
「むう。それで交渉担当だった柳本さんたちは?」
「はい、柳本殿、松井殿は陣営への抗議として出家いたしました」
「二人も想定外だったんだね」
「そのようですな」
「あれ、僕の従三位権大納言どうなるの?」
◇
それから一ヶ月ほど経ったある日。
「上様!」
「今度はなんだい、大舘?」
大舘は一瞬、言葉を止めた。
「……柳本殿が、遠征中の播磨にて暗殺されました」
ここまでお読みいただきありがとうございます。
第10話で話のストックが尽きてしまいました。
そのため次回からは少し更新間隔が空きます。
3~4日くらいを目安にまた出します。
更新間隔は少し空きますが、また読みに来てもらえると嬉しいです。
よろしくお願いします。




