第7話 新しい使用人
ボクが『マジックスキルお弁当箱』に目覚めた、翌日の午後。
使用人候補がやってきた。
若い女性だ。
面接はジェイがやっているよ。
お父さまは詐欺師に騙されたばかりだからね。
悪い人をとらないようにジェイがお話するんだって。
ボクは子どもだから分かんないや、ってヘラヘラしてたら、次は坊ちゃまの役割ですよ、って言われちゃった。
うへぇ。
前世の記憶が薄っすらあるから、5歳児だけど意味が微妙に分かるのが辛いや!
とかなんとかごちゃごちゃありながら、ボクはジェイが面接をしている隣の部屋で遊んでいる。
お父さまはお仕事中で、お母さまはお腹の赤ちゃんとお昼寝中だよ。
ジェイはボクの護衛を兼ねた爺やで執事だから、離れちゃダメって言われてるんだ。
ボクは一応、男爵家の跡取り息子だし、いまは没落状態だけどそれなりにお金持ちの家ということになっているからね。
お金目当てに攫われちゃったら大変だ。
それにお母さまはひとり娘だから、お爺さまが亡くなると、そっちの財産も我が家へ入ってくる。
それをボクが引き継ぐとなれば、それなりに警戒しなくちゃならない。
いまはご飯に困るほど没落しているのにね。
びっくりだよ!
お爺さまは冒険家タイプの商人だから、商会長としての権力とかを譲ってもらえる感じじゃないし、お金も……どうかなぁ? って感じだけど。
お爺さまの商売のライバルとか、お爺さまが探し当てた財宝を狙っている人とか、危険を並べ立てたらキリがないよ!
だからボクは割と呑気にやっている。
とはいえ、ボクが呑気にできるのも、爺やで教育係な上に護衛もしてくれて優秀な執事であるジェイの存在があるからだね。
ボクはお金もないのに誘拐とか警戒しないといけなくて、お金ないからってジェイまでいなくなったら困ったことになるんだよ。
びっくりだよ!
なんてごちゃごちゃ思いながら、すっかり相棒と化している空飛ぶ水筒とひとり遊びをしていると、隣から声が聞こえてきた。
ボクはこっそりと廊下に出ると、隣の部屋を少し空いたドアの隙間から覗いた。
ボクの隣には水筒がふわふわと空中を飛んでいる。
部屋の中を覗いているようにも見えるけど、君に目はついてないでしょ水筒君。
覗いてるのがバレるから、いまは突っ込まないけどさ。
顔の側でふわふわされるとちょっと邪魔だよ?
などと水筒と軽く揉めているボクに気付いているのか、いないのか、ジェイは淡々と面接を続けていた。
「えーと……コーラル、といったかな?」
「はい。珊瑚からとった名前だそうです」
「ほう。たしかに見事な珊瑚色の髪だね」
「ありがとうございます」
ジェイの言う通り、面接に来ていたコーラルは見事なピンク色の髪をしていた。
瞳はラピスラズリの色。
中肉中背だけど胸だけデカいという不思議な体型だ。
服装は、メイド服とかではなくて、旅装に近い。
冒険者みたいな恰好だ。
「志望動機に、故郷の実家へ仕送りのため、とある。親孝行な娘さんだ。ご両親にとっては、自慢の娘だろうね」
ジェイの言葉に、コーラルはニコッと笑うと何でもないことのように言う。
「わたし、両親はいないんです。孤児なので。名前も孤児院長につけてもらいました」
「おや、それは……悪いことを言ったね、すまない」
「いえいえ。わたしは孤児院で、職員にも、孤児の仲間たちにも愛されて育ちましたから。気にしていません」
ばつの悪そうなジェイに対して、コーラルはニコニコして答えた。
ジェイは書類を見つつ確認する。
「では、この故郷の実家というのは……」
「わたしの育った孤児院です。わたしは稼ぎの一部を孤児院へ仕送りにしているので、本当に実家みたいなものですよ」
「そうか。仕送り……」
ジェイの表情が曇った。
「どうされましたか? 孤児では、こちらのお屋敷で働くのは無理、とか?」
コーラルの表情が不安含みの剣呑なものになった。
あ、このお姉さん怖い。
ボクは瞬時に悟った。
ジェイは困ったように眉を下げ、曖昧な口調で言う。
「いや、そういうわけでは……ただ、仕送り目的となると、このお屋敷は向かないかもしれないね」
「それはどのような理由で?」
「ん。行儀見習いなどの目的であれば、ワタクシが教えてあげられるのだけど……現金、となるとね。ぶっちゃけ、この家にお金はないので……」
コーラルに詰め寄られて、ジェイは困ったように言った。
うんうん。わかるよ、ジェイ。
食べ物にも困るような屋敷だものね。
ボクは求人票を読んだけど、『食事は自分で用意できること』って記載のある貴族の求人って、なかなかないと思うんだよね。
「あ、それなら大丈夫です。わたしは、お金の稼ぎ方を含めて、このお屋敷のお役に立てると思うのですよ」
「え? それはどのような意味で……」
コーラルの言葉に、ジェイが戸惑っている。
「わたしは治癒師なのですが、薬草や魔法にも知識がありまして。このお屋敷には簡単にお金にできる物が色々とあると考えています」
「なんと⁉ このお屋敷にそんなものが?」
「はい。やはり気付いていなかったのですね。稼げるのに稼がないのはもったいない、と思いまして。それで使用人として立候補しているのです」
コーラルがクルッと振り返って、ドアの影に隠れているボクを見た。
そして呼びかける。
「ねぇ、坊ちゃま?」
「⁉」
え⁉
ボクの存在ってずっと気付かれてたの?
ボクの隣の水筒も焦っているようだけど、安心して。
君はただの水筒だよ。




