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第5話 みんなで楽しくご飯

 この世界で魔法は珍しくない。

 でも魔力量が多い人は少なくて、生活魔法がちょっとだけ使える人がほとんどだよ。


 ボクは部屋にいる人たちの顔を眺めながら数えた。

 お父さまにお母さま、お母さまのお腹にいる妹か弟、そしてジェイ。

 

「ボクの魔力量は、そんな多くないけど。このくらいの人数分のご飯なら、出せそうな気がするの」


 さっきお弁当を食べたから、お腹空きすぎ病も回復したよ。


 だからきっとボクは出来る。

 

 ボクは天井に向かって右腕を伸ばし、右手の人差し指をたてて元気よく叫んだ。


「マジックスキル、お弁当箱!」

 

 さっきと同じように指先からキラキラした光がピカァと出てきた。

 詠唱は省略もできるから、お父さまとお母さま、ジェイの分の【お弁当箱】が、ポンッと何もない空間に出てきたよ。


 お弁当箱は、髪の色や瞳の色と同じになるみたい。

 空中には、オレンジっぽい色褪せた茶色と緑色、白に近い灰色のお弁当箱が浮いている。


 オレンジっぽい色褪せた茶色はお父さま。

 緑色はお母さま。

 白に近い灰色はジェイのだね。

 それぞれに同じ色の水筒も浮いている。

 

 「お弁当展開! 対象者はお父さま、お母さま、ジェイッ!」


 それぞれのお弁当箱と水筒がピカァァァァッと光った。


「「「おぉぉぉぉぉぉっ」」」


 部屋が揺れるような、どよめきが大人たちの口から洩れた。


 ふふふ~ん。ボク、すごいでしょ?


 ちょっと得意げな表情になっちゃうね。


 お弁当の準備が終わると、それぞれの手元へお弁当箱がふわふわと飛んでいく。

 水筒も後を追うようにふよふよと飛んでいった。


 お父さまのお弁当は、ボクのと似ている。

 ホウレンソウの蒸しパンに卵焼き、プチトマトにブロッコリー、焼いた鶏肉が入っていた。


 お母さまは妊娠中だからか、量がたっぷり目。

 干しブドウの入った蒸しパンに、ホウレンソウのキッシュ、そしてやっぱりブロッコリーが入っている。

 女神さま、ブロッコリー推しなのかな?


 ジェイは、なぜかサンドイッチだ。

 ハムときゅうりのサンドイッチに見えるけど、やっぱりブロッコリーが入っているのかな?

 

「せっかくだからキチンと座っていただきましょう」


 お母さまに促されて、ボクたちはテーブルについた。


「このお弁当箱というのはすごいね。ナイフとフォークがセットになっている」


 お父さまがテーブルの上にお弁当を広げて感心している。


「旦那さま。ピクニックバスケットと同じでございます」

「そういわれてみればそうか」


 ジェイに言われてお父さまがコクコクうなずいている。


 いつも用意されたものを食べるだけだものね、お父さまは。

 ジェイは用意する側だから、細かいところもすぐ分かるみたい。

 いまも生活魔法で自分の手をキレイにしたあと、お手拭きを魔法で出してお父さまに渡している。

 お母さまは生活魔法を自分で使って、手をキレイにしてからお弁当箱に手を付けた。

 

「とても美味しそうだわ。干しブドウの入った蒸しパンってありそうでなかったわね? 初めて食べるわ」

「ナッツが入ったパンは一般的ですが、干しブドウの入ったパンというとお菓子のイメージでしたね。健康によいのなら、食材が手に入り次第、お作りしますけれど……お味はいかがですか?」

「あら。これ美味しいわ」


 お母さまが目を丸くして驚いている。


「お気に召したのなら、お作りしましょう。レシピを調べておきますね」


 そう言いながら水筒に口をつけたジェイが意外そうに言う。

 

「おや。ワタクシの水筒に入っているのはパンプキンスープのようです」


 お母さまが確認するように水筒の飲み物を飲んだ。

 

「わたくしの水筒にはアーモンドミルクが入っているわ」

「私の水筒に入っているのは紅茶だね。ん、割と普通」


 お父さまは少し残念そうだ。

 でもみんな、とても楽しそう。

 

 ボクは椅子に座って、水筒のココアを呑みながら、みんながご飯を食べるところを見ている。

 美味しそうにご飯を食べている姿を見るのは、とっても愉快な気分になるね。

 ボクはとっても嬉しくなって、椅子の上で足をブラブラさせた。


◇◇◇

 

 森をフード付きのマントを羽織りひとり行くピンク色の髪の女性が、ハッとしたように振り返った。

 

「珍しい魔法の動いた気配がする。これは……お金の匂いがするわね」


 女性はそうつぶやいて、ラピスラズリ色の瞳を煌めかせた。

 

 お金。お金は素晴らしい。

 お金があれば何でもできる。

 愛しい孤児院の子どもたちのお腹を満たすこともできれば、ボロボロの服を買い替えることもできる。

 土を蹴る素足に靴を履かせることもできてしまうのだ。

 お金は素晴らしい。


「行き先変更よ」

 

 森に囲まれた細い道を歩いていた女性は、迷うことなく珍しい魔法の動いた気配のした方角へと進路を変えた。

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