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第4話 マジックスキルはお弁当箱

「うぅ~ん」


 唸りながら目を覚ますと、お父さまとお母さま、そしてジェイがボクの顔を心配そうに覗き込んでいた。


「オパール? オパール。目を覚ましたか」

「心配したわよ、オパール」

「大丈夫ですか、坊ちゃま?」

「ぐぅ~ぅぅぅぅぅ」

 

 心配そうな大人たちに、ボクより先にお腹が返事をした。


 あぁ。お腹空いた~。


「ごめんね、オパール。そのお腹の虫に与える食べ物はないんだ」


 お父さまが、オレンジっぽい色褪せた茶色の眉尻を情けなく下げてすまなそうな顔をした。


 ん、知ってる。

 でもなんだか今のボクは以前のボクとは違う気がするんだ。

 ボクは黙ってソファーの上にキチンと座りなおすと、天井に向かって右腕を伸ばす。

 そして右手の人差し指をたてて叫んだ。


「マジックスキル、お弁当箱!」

 

 すると、どうだ!

 指先からキラキラした光がピカァと出てきて、何もない空間に【お弁当箱】が現れた。

 お弁当箱は、ボクの髪と瞳の色と同じ深い青色をしている。


「箱⁉」

「お弁当箱⁉」

「お弁当箱とはなんですかな?」


 お父さまは仰け反って驚き、お母さまは両頬に両手を当て口をあんぐり開けてお弁当箱を凝視している。

 ジェイは冷静に突っ込んでいるよ。


 うんうん、そうだよね。

 異世界(このせかい)に【お弁当箱】はないものね。

 しかも空中に浮いているのはタダの箱。

 意味分かんないよね。


「お弁当展開! 対象者ボクっ!」


 深い青色のお弁当箱がピカァァァァッと光った。


「光った⁉」

「え⁉ どういうことですの⁉」

「危険はないのですか⁉」


 大人は口々に叫びながら、お父さまとジェイがお母さまをお弁当箱から隠すようにして前に出た。


 出来上がるのは、ただのお弁当なのにね。


 何ができるのかを知っているボクはふふふと笑った。


 光が収まるとお弁当は空中をすすすっと進みながらボクの手元へとやってきた。


 ボクはそれを手に取ると中身を確認する。


 ふむふむ。


 美味しそうなものが、小さなお弁当箱のなかにぎっしり詰まっているね。

 幼児でも食べやすいように、おかずには楊枝が刺さっている。

 気が利いているね。

 お箸とかフォークなんて使わなくても食べられそうだ。

 カラフルで(いろど)りもよく、それぞれが5歳児でも食べやすい小さめサイズになっている。

 なにより、とっても美味しそうな匂いがするよ。


「食べ物、なのか?」

「美味しそうだけど……安全?」

「危険な感じはありませんが。食べ物……マジックスキル?」


 大人たちは心配そうにこっちを見ているけど、ボクはお腹が空いているのでいただきまーす。

 

 ボクは生活魔法で右手をキレイにした。


 あ、飲み物用意するの忘れちゃったな。


 ボクがそう思った瞬間、何もない空間がキラキラと光ってポンッと水筒が現れた。

 水筒も空中をふわふわと飛んでボクの側に来た。

 テーブルは遠いし、ソファーの上に水筒を置くのもなんだから、君は空中で待機してて。

 なんとなく水筒はうなずいたような気がした。

 

 大人たちはポカンとしてボクを見ている。

 

 でもお腹がぐぅ~ぐぅ~いってるから、まずは食べるね!

 

 まずは小さく切られたパンっぽいのを食べてみる。

 

 パクッ。

 

「あ、食べた」

「ちょ……オパール?」

「坊ちゃま⁉ 食べて大丈夫ですか⁉」


 うんうん。びっくりしちゃうよね。

 でも大丈夫だからね。安心してね。


 ボクはニコニコしながら大人たちにうなずいて見せた。

 今は食べ物で口の中がいっぱいだから説明はあとからね。


 これは蒸しパンだ。中に入っているのは、ホウレンソウかな?

 ちょっと甘くて、ちょっとしょっぱい。

 砂糖とチーズが入っているみたい。


 ああ、美味しい。

 思わず足がブラブラと踊っちゃうね。


 水筒に入った飲み物を飲みながら、次に何を食べようか考える。

 水筒の中身は……ココアかな?

 甘くて美味しいね。


 お弁当箱の中身は、まだたっぷりあるよ。

 赤に、緑に、黄色。

 カラフルなのはうれしいね。

 美味しそうだし。

 

 ン、次はミニトマトにしよう。

 中に何か入ってる。

 これは……甘辛のひき肉そぼろかな?

 

「うんっ、美味しい」


 ボクはウンウンとひとりうなずきながらパクパク食べる。

 

 こっちの煮物は……サツマイモかな? 甘くておいしい!

 卵焼きもあまぁ~い。

 茹でたブロッコリーも食べまーす。


「美味しそうだな」

「オパールは子どもだから食べさせないと……でも美味しそう」

「安全でしょうか?」


 お父さまたちが羨ましそうにボクのお弁当を見ているよ。

 でもちょっと待っててね。

 コレはボクのお弁当なの。


「ごちそうさまでしたー」


 完食。

 出来ればもうちょっとお肉とかタンパク質が欲しかったかなー、と思ったけど、腹ペコのときに欲張って食べるとお腹壊しちゃうからね。

 まずは、このくらいでヨシ。


 ボクはトンッとソファーから降りると、お弁当箱を軽く生活魔法で綺麗にしてから空へ返した。


 ふわふわっと天井に向かって上がっていったお弁当箱は、キラキラとした光に包まれたかと思った次の瞬間にポンッと消えた。


「コレがボクのスキル! マジックスキル、お弁当箱だよ。その人に必要なお弁当を出せるスキルなの」


 ボクの横で水筒も得意げな表情を浮かべてコクコクうなずいている……ような気がする。

 飲み物はまだ飲むから、君はまだそこにいていいよ。

 

「お弁当箱?」

「ピクニックバスケットみたいなものかしら?」

「そのようですね」


 お父さまは不思議そうな顔をして首をひねっているし、お母さまもよくわかっていないみたい。

 ジェイは普段、ボクたちのお世話をしているから、なんとなーくわかるみたいだね。


「お弁当箱は入れ物だよ。この『マジックスキル、お弁当箱』で出したお弁当箱は、食べ物を適量出すための目安になるんだ。『お弁当展開!』って宣言すると料理を用意してもらえる。特定の対象者用の料理を出すときには、その対象者を指定するんだ」

「そうなんだね」


 お父さまはボクの説明にコクコクとうなずいた。


「でも、材料となるものはどこからくるの?」


 あっ、さすがはお母さま。よい質問ですね。


「マジックスキルでお弁当を作るときには、ボクの魔力を使えるの。もちろん食材を用意して使うこともできるよ。そうすると魔力消費が少なくなるから、たくさんのお弁当を作ることができるの」

「ああ。だからまずは自分の分のお弁当を用意されたのですね」


 さすがジェイ。理解が早い。


「うん。ご飯を食べて魔力を回復させたんだ。じゃ、実際にやってみるねっ!」


 ボクは右手の人差し指をたてて叫んだ。


「マジックスキル、お弁当箱!」


 キラキラした光がボクの指先から流れ出るのを、大人たちは期待のまなざしで見つめていた。

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