第3話 同情的な女神さま
ボクがガバッと起き上がると、目の前にものすごぉぉぉぉぉぉぉく大きな女の人がいた。
……あれ? ココどこ? ボクは屋敷の応接間のソファーの上にいたはずなのに。
『よよよっ。可哀そうなオパールちゃん。前世も散々だったのに、今生も……アァ、可哀そう』
ものすごぉぉぉぉぉぉぉく大きな女の人は、ものすごぉぉぉぉぉぉぉぉく大きな椅子の手すりに上半身を乗っけてボロボロ泣いていた。
えっとねぇ……右側の椅子のひじ掛けの上に、かなぁ?
体をねじるようにして、上半身をひじ掛けの上に置いた女の人は、床に水たまりが出来そうな勢いで泣いている。
……うん。意味が分からない。
ボクは床の上に寝ていたから、服をパンパンと払いながら起き上がった。
椅子とかベッドの上ならいいけど、床に寝たらダメだからね。
お行儀が悪いから。
えっと……床の素材は大理石かな?
絨毯は敷いてない、すべすべな石の床だ。
ボクは立ち上がると、女の人を見上げて聞いた。
こういう時って、自己紹介が先か、相手の名前を聞くのが先か、悩むね。
「えっと……ボクはオパール・イオネル。あなたは……どちらさま?」
『よよよっ。アァ、なんてお行儀のよい子なのかしらぁぁぁ。よよよっ。でも、わたくしのことは分からないのね。よよよっ。わたくしは女神なのよ。よよっ』
「女神さま?」
大きな女の人は、泣きながら自己紹介してくれたよ。
でも女神さまって?
ここって神さまのいる領域なの?
なぜボクはここにいるの?
ボクは右側に頭を傾げた。
『あぁ、可愛い。可愛いわ、オパールちゃんっ。なのに……アァ、可哀そう。なんて可哀そうなの、この子ってば。アァ』
女神さまはわんわん泣いている。
大人なのにすごいね。
ボクはポカンと口を開けて、大きな女の人の姿をした女神さまを見上げていた。
女神さまはひとしきり泣くと、涙をハンカチで拭って、ついでに鼻をかんだ。
『ああ、泣いた、泣いた。オパールちゃん、よく来たわね。わたくしが力になってあげるわ。といっても、わたくしにはたいしたことはできないけれど』
「はぁ……」
ボクはどう反応していいのかわからず、女神さまの言葉に、なんとなくぼんやりと答えた。
『そうね。まずは前世の知識。記憶はともかく、知識は力よね? 異世界だけど、役立つ知識もあるかもしれないわ』
「知識? 記憶? 異世界?」
『オパールちゃんも前世のことが気になるでしょう? だから……えいっ』
女神さまはボクの答えも聞かずに、肘を折ったまま右手を上げると、人差し指をクルリと回した。
「あ、キラキラ」
不思議なキラキラした光が、女神さまの指先から流れてきて、ボクの体の周りをグルグル回り始めた。
「うわっ⁉」
キラキラした光に囲まれたと思った次の瞬間、ブワッと強い風がボクに向かって吹いた。
「うっ、浮いちゃう、浮いちゃうっ!」
ボクは慌てたし、実際浮いた。
キラキラした光がボクの周りをくるくる回って、ボクの体を包んでいく。
光のドームの中に入ったな、と思った次の瞬間には、その光がボクのなかに流れ込んできた。
「なっ⁉」
くるくる回る。
目が回る。
記憶? 知識? ボクのなかに色々なものがカラフルに流れ込んでくる。
「わわわっ⁉」
あ? なに? この冴えない黒髪で黒い瞳の男の人。
しょぼくれた、この男の人が……ボクの前世?
やだぁー。
ボクこんな……やだぁー!
『わかりますわ。オパールちゃんの前世、ひどいわよね? 前世の世界、ホントにクソだわ。数々の理不尽がありましたが、わたくし、特に女性差別が許せません。けど……オパールちゃんの前世に対する周りの扱いがひどすぎっ』
女神さまも怒っている。
ボクも怒って……いいんだよね?
なんだか怒りというよりも、悲しみが……あ、目から汗がでちゃう。
『うんうん、分かるわよぉ~。オパールちゃんっ。前世のみんなは酷かったわよねぇ~。だからね、今生は……幸せになるのよっ』
女神さまは人差し指でボクをピシィィィと指さした。
するとボクはバンッと弾けた何かに包まれた。
「えっ? ナニ?」
水を浴びたのとも違う不思議な感覚がボクを包んだ。
『ふふふ。わたくしの加護よ。あなたにスキルをあげるわ』
「え?」
スキル?
ボクは何をもらったんだろう?
ボクは改めて自分の体を見た。
服は……屋敷で着てたものと同じだね。
男の子の貴族が着る服だよ。
白いフリル付きのシャツに短い茶色のズボン、白いタイツに黒い靴。
あちらこちらにボクの瞳の色と同じ色の宝石が飾られている。
あれ?……なんでこんな高そうな服着ているのに、お腹ペコペコだったんだろう?
前世の記憶やら知識やらを得たボクは、ちょっとだけ違う不思議な感覚にとらわれた。
なんだろー?
なんだかとっても理不尽な気がする。
自分の体を自分の手でパンパンと軽くたたいて確認しながら頭を右に左にと傾けて考えるボクに、女神さまがエールを送る。
『オパールちゃんっ。今生は幸せになってねぇ~』
「えっ? えっ?」
にっこにこの女神さまが手を振って、どんどん遠くなっていく。
いや、女神さまが遠くなっているんじゃなくて、ボクが移動してるんだ。
シュルシュルと後ろへ後ろへと爆速で進むボク。
こうしてボクは元いた場所へと、女神さまの笑顔と共に送り出されたのだった。




