第26話 生まれる~
「トパーズ? トパーズっ! ああ、気が付いた」
「よかった、目を開けたわ。トパーズ、大丈夫?」
目覚めたボクは自室のベッドの上にいて、お父さまとお母さまに両側から抱きしめられていた。
「気を失ってしまったから、心配したぞ」
お爺さまもニコニコしながらベッドの脇に立っていた。
ということは、アレは全部、夢ではなくて本当にあったことなんだな。
「もう心配いらん。魔獣は片付けたし、魔獣除けもキチンと設置した」
お爺さまが自慢げに胸を張っている。
お爺さまは無限収納が使えるから、だいたいの物は持っているし、魔力量も多いんだ。
「我が家の魔獣除けは魔力が尽きたというよりも、壊されていたよ」
お父さまが困惑したように眉毛を下げている。
いったい何があったのかな?
「ふんっ。マラカイトの小僧が、またろくでもないことをやらかしたんだ」
お爺さまが吐き捨てるように言った。
マラカイト伯爵?
お母さまに懸想している、あのマラカイト伯爵?
「あの人、馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけれど。まさか魔獣除けを壊した挙句、魔獣寄せの植物を植えていくとは思わなかったわ」
お母さまも困惑の表情を浮かべて眉毛を下げていた。
こんな困ったような戸惑ったような表情を浮かべた時の、お父さまとお母さまは何となく似ている。
お爺さまは軽蔑を込めて憎々し気に言った。
「ふんっ。あの小僧は、わざわざ魔獣をおびき寄せておいて、ペリドットを助けていいところを見せたい、と思っておったんじゃろう」
「まぁ。なんて迷惑でお馬鹿なのっ」
お母さまも呆れている。
お父さまが呆れながら言った。
「あいつは昔からそうだ。ペリドットが素敵すぎて気を引きたい気持ちは分かるが……やり方が毎度のようにとんでもない。頭が悪すぎる」
「ああ。ついでに根性も悪い。いいところがない」
お爺さまも吐き捨てるように言った。
どうやら今回の騒ぎは、マラカイト伯爵が仕掛けたもののようだ。
「しかも登場が魔獣を退治した後、ときたもんだ。まったく役に立たん。救世主面して登場したときには魔獣を片付け終わっておったから、死骸の目玉を投げつけてやったら、あやつは驚いて逃げていったわ」
お爺さまは相当怒っているようだ。
アクアマリンは溜息まじりに口を開いた。
「噂には聞いていましたが、あそこまでとは思いませんでしたよ。魔獣は王都の中心部にまで流れ込んでいたようで……。幸い、騎士団が何とかしたようですが」
「でも死人は出なかったのでしょう?」
コーラルが聞くと、アクアマリンはコクリとうなずいた。
「死人が出なかったことだけが救いだよ。魔獣のせいで、街中はしっちゃかめっちゃかだ。建物の修復だけでも一苦労しそうだと聞いたよ」
「まぁ、それは大変」
コーラルが驚く横で、お父さまがすました顔をして言う。
「そこに商機を感じるのが商売人、でしょ? お義父さま」
「ははは。まぁ、はっきりとは言わんが……そうだな」
お爺さまが豪快に笑った。
すると次の瞬間、お母さまが「うっ」とうめき声をあげながら、お腹を押さえてベッドの端にうずくまった。
「えっ⁉ おかあさま⁉」
ボクは驚いて、ベッドから飛び起きると、ベッドの上を這うようにしてお母さまへ近付いた。
「どっ、どうしたペリドット?」
お父さまが慌ててお母さまに寄り添う。
「うっ……生まれるっ」
「え? ペリドット? 産気づいたのかい?」
お父さまが慌てて言うと、お母さまはうなずいた。
「ん……。ええ。生まれるみたい」
お爺さまが笑って言う。
「おお。よいよか。頑張れ、ペリドット」
ああ。
いよいよボクはお兄さまになるみたいです。
ボクはゴクリと生唾を呑み込んで、お腹を押さえて苦しそうにしているお母さまを見つめた。




