第25話 お爺さま登場
ボクは空に向かって右手の人差し指を立てて叫んだ。
「マジックスキル、お弁当箱!」
ボクの指先からキラキラした光が何もない空に向かって伸びていき、ピカァッとひと際強い光を放った。
そして何もない空間に【お弁当箱】が幾つも現れた。
お弁当箱は全部、ボクの髪と瞳の色と同じ深い青色をしている。
このお弁当箱に、食中毒を起こすお弁当を詰めるのは、心が痛む。
でも今はそんなこと言ってられない。
「お弁当展開! 対象者は魔獣っ! 食中毒を起こす腐ったお弁当、出てこいやっ!!!」
空中に浮いた複数の深い青色のお弁当箱が、あっちこっちでピカァァァァッと光っている。
ごめんよぉ~、お弁当箱。
腐った物なんて入れたくないよねぇ。
ボクも不本意なんだ。
あとでしっかり洗ってあげるから許して。
ポンポンポンと出来上がったお弁当を、ボクは魔獣に向かって、ドンドンドンと投げつけた。
「あ、興味を示している。一番大きな魔獣が、お弁当を食べたわ」
お母さま~。魔獣を見てないで、前を見て走ってぇ~。
「ああ。成功です。成功です、坊ちゃま。魔獣が苦しみだしました!」
コーラルが嬉しそうに報告してくれた。
でもボクは複雑だよ?
食べ物は粗末にしちゃダメなんだから。
……いや、魔獣退治に使うなら、食べ物を粗末にしたことにはならないのか?
でも感覚的に、なんかイヤァァァァァ。
「効いてるっ! 効いてるぞ、息子よっ!」
お父さまが興奮して叫んでいる。
息子の頼もしい能力に気付いて感動しているようだ。
ボクも感動しているよ、お父さま。
お父さまって、剣の腕前が王国騎士並みだったんだね。
「凄いです、凄いです、さすがギベオン・ブラックスター男爵のお孫さんっ! 男の子の夢っ!」
アクアマリンも感動して叫んでいる。
いや、ボクって男の子の夢の立場なの? 自覚ないけど。
「あぁ、坊ちゃま。大きくおなりになられて……」
えーと、ジェイ?
泣いてない?
今は泣いている場合じゃないからね、ジェイ。
みんな感動して興奮してくれるのは嬉しいけど……。
ああ、でもボクには分かる。
断腸の思いで作ったあのお弁当には、軽い麻痺程度の効果しかない。
「あぁ、ダメです。もう立ち上がってしまいました、坊ちゃま」
コーラルが悲痛な叫び声を上げた。
ボクは後ろを振り返る。
魔獣たちは再び立ちあがった。
妊婦であるお母さまと一緒に逃げているボクたちの歩みは遅くて、まだ屋敷のなかに逃げ込めるような距離じゃない。
「ああっ、魔獣がっ」
お母さまが飛び掛かってきた魔獣に怯えた声を上げる。
「奥さまっ!」
ジェイがボクたちを守ろうと、魔獣とボクたちの間に飛び込んできた。
ビュンと風を切るような音がして、羽の生えた魔獣は二つに分かれて地面にドサリと落ちた。
ジェイは強い。
でも魔獣の数が多すぎる。
とてもじゃないが、対処しきれない。
手が足りないから助けも呼びにやれないよ。
「うわぁっ」
血しぶきが上がった。
アクアマリンが、魔獣にやられたのだ。
「アクアマリンッ!」
叫んだって、アクアマリンの傷がよくなるわけじゃない。
だけど叫ばずにはいられない。
「アクアマリンさまっ!」
コーラルも青ざめて叫んでいる。
ああこのままじゃ……やられる――――。
その時だ。
気迫ある雄叫びが響いた。
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
……ん? この声は。
「お父さま⁉」
お母さまの声が響いた。
お母さまのお父さまということは……。
「お爺さま⁉」
ボクは驚いて声のした方を見た。
そこでは右足へ剣を生やしたお爺さまが、両手のそれぞれに剣を握って暴れていた。
えっ⁉
お爺さま、右足どうしたの⁉
お爺さまの右足があるべきところには、何度見ても人間の足ではなくて、切れ味のよさそうな剣が生えている。
お爺さまどうした⁉ という思いと、お爺さまが来たなら安心だ、という思いがボクのなかで交錯する。
そしたらなんだが気が遠くなってきたよ。
安心したからなのかな。
急激に眠気というか、脱力感というか、なんか普通に起きているのが難しい。
「坊ちゃま⁉」
「オパール⁉」
コーラルとお母さまが叫んでいるけど、無理。
起きてられない。
ボクは薄れていく意識のなかで「やったぞー! これでもう安心だ!」と叫ぶお爺さまの声を聞いた。




