第21話 妹に浮かれる
食堂内は一瞬、時間が止まったようにシーンとなった。
だが次の瞬間には、おぉぉぉぉぉっ! というどよめきに包まれた。
最初に口を開いたのはお父さまだ。
「いや、やっちゃってない、やっちゃってないよ、コーラルッ! いまちょっとお金がなくて、診てもらえてなかっただけだから……女の子? 女の子なのかい? ペリドットのお腹にいる子はっ」
「はい、旦那さま」
お父さまの勢いに、コーラルが引いている。
「お嬢さまが……このお屋敷に、お嬢さまがやってくる……」
ジェイはハンカチを取り出すと目元を拭った。
泣いてるの?
ちょっと待ってよ、女の子だとしても、泣くほどのことじゃないでしょ?
「女の子……ここに女の子がいる……」
お母さまがポロポロと涙を流し始めた。
ちょっとぉ、お母さまぁ。ここに男の子いますけど?
あんまり感動されると、男の子のほうがすねちゃうよ?
「坊ちゃま。口元が緩み過ぎて、食べ物がこぼれてますよ」
「あっ」
コーラルに指摘されて、ボクは慌てて口元を拭いた。
女の子。妹。妹だって。
ふふふ。妹~。
ボクに妹ができるんだ。
わーい。うれしいー。
ボクは浮かれた。
勉強をしていても、鍛錬をしていても、ボクは浮かれていた。
ジェイのしごきは厳しいけれど、ボクの口元は緩んでいる。
ついでにいうと、ジェイの口元も緩んでいる。
だけど手抜きはしない。
ジェイ、厳しいねぇ~。
でもボクは妹から尊敬されるお兄さまになりたいから頑張るよ。うん。
でも浮かれているからさ。
「妹の色は、何色だと思う? ねぇ、水筒君」
水筒にだって話しかけちゃう。
「妹の水筒をだしたら、水筒君にだって妹ができるんだよ? 楽しみだよね、妹」
水筒君もコクコクとうなずいている。
ボクはとっても、とっても、有頂天に浮かれた。
夕食の席でも、みんなぽわぁ~んと浮かれていた。
だから気付かなかった。
夜は密かに悪事するのによい時間帯で。
庭の隅の隅のほう。
コーラルが畑と呼ぶ一角の、奥のほうに、そこにあってはならない植物が、そぉ~っと植えられたことに誰ひとり気付かなかったのだ。




