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第19話 ボクと泥付き野菜の扱いは同じ

 泥だらけの野菜を抱えたコーラルの後ろに続いて、泥だらけのボクも勝手口から屋敷に入るよ。

 勝手口からなら泥だらけで入っても怒られないからね。

 ボクは5歳児だけど、そこはキチンと守るよ。エッヘン。

 

 勝手口からなかに入ると台所へ繋がるドアと、子ども部屋のほうへ繋がるドアがある。

 子ども部屋に繋がるドアの途中には、着替えのできる小部屋があるんだよ。

 ボクはそこでお着替えをするのだ。

 

 コーラルが野菜を流しに置きながら笑う。

 

 「お昼ご飯は「畑にあった野菜をテキトーに混ぜ込んだオープンオムレツ」でも作りますね」


 名前がいかにもテキトーだけど、なんだか美味しそうだね。

 ボクはコクコクとうなずいた。


「坊ちゃま。ウロチョロしていると、床を汚してしまいますよ」


 ジェイに注意されちゃった。てへぺろ。

 クリーンの魔法をかけてもらって、お着替えが終わるまではウロウロしちゃダメなんだ。

 あんまり動かないようにしないと。


 勝手口から入るのは理由がある。

 流しがあるから、そこで軽く手を洗ったり、野菜を洗ったりできるんだ。

 吐き出し口があるからお掃除も楽ちん。

 

 クリーンの魔法も使えるけど、普通の仕事をしている人で魔力量の多い人は少ないから、何度も使ってると魔力が枯渇して倒れちゃうの。

 魔力量の多い人は貴重だから、特別な仕事に就くことが多いよ。


 貴族でも、平民でも、魔力量は少なくて普通。

 だからって、工夫もせずにすぐ倒れちゃうのは恥ずかしいことなんだ。

 男爵家の跡取りが恥ずかしいことしちゃだめだよね。

 だからボクは、手をキレイにしたい時は流しもちゃんと使うよ。

 

 自分で手を洗っていたら、ジェイに顔を拭かれちゃった。

 そっちも汚れていたのかな? 気付かなかったよ。ちょっと恥ずかしい。

 服が汚れているだけかと思っていた。

 顔が泥だらけのまま、アクアマリンと話してたのかな?

 そう考えると男爵家の跡取り息子らしくなくて、ちょっと恥ずかしいね。

 

「あとはとりあえずそのままで。先に着替えてしまいましょう」


 ジェイがそういうので、ボクはコクリとうなずいた。

 コーラルは野菜を洗いながらジェイに聞いた。

 

「使用人たち用の野菜でも作ってたんですかね? 割と何でもありましたよ。ニンジンに、ジャガイモに、玉ねぎ。パセリやシソなんかもありました。あとは……」


 コーラルが泥を落としながらジェイに説明している。

 ジェイが困ったように眉を下げた。

 

「あそこは畑ではなくて、ごみ捨て場だと思っていたよ。野菜のくずが土のなかで育ったみたいだね」

「そうですね。根っこがあれば土につきますし、ジャガイモなどは芽の部分を捨てておくと勝手に増えたりしますよね」


 そうなのか。

 野菜って商人から買うものだと思っていたよ。

 屋敷の敷地内でも育つのか。

 

「もちろん放置されていたので、野菜は全部弱っていましたけど。わたしの癒しの魔法をかけて、お水をあげたら元気になりました」


 コーラルの説明で納得できた。

 屋敷の敷地内で野菜を育てていたわけじゃなくて、コーラルがいたから食べられる野菜になったのか。


「でも癒しは最低限で済みましたよ。あの辺の土も、栄養豊富なよい土なのでしょうね」


 コーラルの言葉にジェイがうなずく。

 

「ああ。引退した庭師は腕がよかったから。畑というか、庭に入れる土をあそこで育てていたのかもしれないね」


 あー、そうなんだ。

 土も育てるんだね。


 コーラルが泥を落とした野菜を見て、満足そうな笑みを浮かべた。

 

「わたしはコレを使って、パパッと料理しちゃいますね。まだ買ってきた卵とかチーズとかありますから、オープンオムレツは余裕で作れますよ。ほかの食材は、晩の分も考えて使いましょうか。パンはライ麦パンならあります」


 ジェイがふむふむとうなずきながら、少し考えて答える。

 

「そうだね。旦那さま方は、もう固めのパンでも大丈夫そうだ。ジャガイモがあるから、ライ麦パンはまだ重い、となっても支障はない」

「はい。ならジャガイモは多めに入れておきますね。あとそうですねー、甘いチャイでも作りましょうか?」

「ははは。甘いチャイか。それはいいね。でも普通の紅茶も用意しておこう。口をさっぱりさせたい時には、ミルクやスパイスの入っていない紅茶も必要だから」


 コーラルの提案に、ジェイは笑ってうなずいた。


「ワタクシも昼食の支度は手伝うが、その前に坊ちゃまの着替えを済ませてくるよ」

「はい、わかりました」


 使用人らしい打合せを終えると、コーラルは料理、ジェイはボクの着替えの手伝いとそれぞれの仕事に取り掛かった。


 お腹は平和に空いていて、一日に何度もお着替えをする。

 貴族らしい平和な日常が戻ってきたね。


「坊ちゃま。午後はお勉強をして、そのあと鍛錬ですからね」


 ジェイに釘を刺されちゃったよ。

 うへぇ~。

 そっちの貴族らしい平和な日常は、ちょっとヤだ。

 

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