第17話 薬師アクアマリン
「オレはアクアマリン。薬師です。そこの見事なラベンダーの香りにつられてきました。よかったら薬草を分けてもらえませんか?」
アクアマリンは簡単に自己紹介をすると、庭の植物を物欲しそうな表情を浮かべて眺めた。
「このお庭は、手入れは悪いですが、かなり変わった薬草が色々とありますよね」
ボクはアクアマリンと名乗った男の視線を追いかけながら庭の植物を見た。
でもボクには、枯れかけた植物があちこちにチョロチョロと生えている情けない庭にしかみえないよ。
薬師すごっ。
コーラルの商売になると踏んだ予想すごっ。
こんなに早くお客さんが来るとは思わなかったな。
「ほほっ。お客さまですか。そうならそうとおっしゃっていただければ……ほほほっ」
コーラルの態度がコロッと変わった。
「それならそれで……まぁでも……ん……」
ジェイも何か葛藤を抱えているようだ。
チラチラと水筒君を見ている。
ウーン、水筒君が問題なのかな?
水筒君、便利なのに。
浮いているけど、ただの水筒だよ?
ボクは水筒の中身を飲んだ。
今入っているのは、お茶だね。
お砂糖もはいってないから、ちょっと渋い。
まぁ仕方ないか。
一日中ココアを飲んでいるわけにはいかないもんね。
「ほほほっ。坊ちゃまの魔道具が気になりますか? そうでしょうね。変わった魔道具ですものね。ほほほっ」
コーラルが明らかに何かを誤魔化すように喋っている。
ボクのマジックスキル【お弁当箱】は隠しておいたほうがいいって話だったけど、水筒まで隠すほど神経質になるようなスキルなのかな?
ボク子どもだからわかんなーい。
でもアクアマリンの淡い青い瞳にジッとみられると、秘密を見透かされているようで、ちょっと落ち着かないね。
もう一口お茶飲もうっと。
ボクの水筒をジッと見ているアクアマリンに、コーラルも落ち着かないようだ。
聞かれてもいないことをベラベラと喋り出した。
「ほほほっ。変わった水筒でしょ? あれは坊ちゃまの母方のお爺さまからの贈り物なのですよ。なんといっても坊ちゃまの母方のお爺さまは、商売人にして冒険家のギベオン・ブラックスター男爵ですから。ほほほっ」
「なんですって⁉ 冒険家にして商売人のギベオン・ブラックスター男爵のお孫さん⁉」
アクアマリンが思いのほか反応した。
あー……コレはヤバいやつ。
お爺さまは、ちょっとした有名人だ。
その分、嫌いな人はものすごく嫌うけど、好きな人は病的に好きなんだよねぇ~。
「えっ⁉ ではここは、あのペリドットさまの嫁がれた男爵家だったのですかっ⁉」
うんうん、わかるよぉ~。
イオネル男爵家は、お父さまの髪色と同じで地味なんだ。
だから家名を聞いただけで興味を示す人は少ない。
それがお爺さまの存在が分かった途端、注目されちゃうんだよねぇ~。
それってどうなの? と跡取り息子としては思うけど。
まぁ、お爺さまは大好きなんだけどね。
お爺さまの名前を聞いた途端、態度の変わる人たちを見ちゃうと、ちょっとモゾモゾするところだよね。
「ではこの坊ちゃんは、ギベオン・ブラックスター男爵の血を引かれた方……」
アクアマリンが目をキラキラさせてボクを見ている。
あー……この人、本物だ。
本物の変態さんだ。
お爺さまが好きすぎて、その血をひいたボクにまで過剰な期待をするタイプの変態さんだぁ~。
ヤバいね。
「ということは、もしやこちらの方は、ギベオン・ブラックスター男爵との旅で数々の武勇伝をお持ちの剣豪……あのジェイダイトさまですか?」
「あー……剣豪かどうかは分かりませんが、ワタクシが、そのジェイダイトですね」
アクアマリンのキラキラした視線を浴びながら、ジェイが戸惑ったように答えた。
「うわっ、すげぇ。オレ、薬師になる前は王国の騎士として働いていたんですよ。でも薬への愛も止められなくて。周りの反対を押し切って薬師になったんで、伯爵家の生まれなんですが、勘当されてちゃって。だからって剣が嫌いってわけでもなくて。むしろジェイダイトさまは憧れの人なんです。ギベオン・ブラックスター男爵との数々の逸話は聞いています。凄いです。うわぁ。え⁉ オレ、あのジェイダイトさまと一緒に今いるの? やべぇ。うわっ。オレ、もちろん剣も愛してるんですよ、ジェイダイトさま。それと同じくらい薬も愛していて……あー、ヤバい。薬草とジェイダイトさまがオレの視界に同居している。あー、ヤバい。しかもあの薬草を採ってきたのは、ギベオン・ブラックスター男爵……あーヤベ。男の子の夢じゃん……」
アクアマリンが変な方向へ暴走している。
ボクは立ち上がってお尻をポンポンと払うと、一歩後ろへ退いた。




