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第16話 変態薬師登場

 帽子の存在は偉大だ。

 

 ボクがコーラルを手伝って土いじりをしている間にも太陽はどんどん昇っていき、いまはほとんど真上から太陽光が降り注いでいる感じだ。

 

 汚れてもいい服は汚れ、帽子はボクの頭を守っている。


 用途に応じた服装大事。


 お外はポッカポカを通り越して少し暑い。

 でも気持ちいい。

 時折、ラベンダーの香りがボクの鼻をくすぐる。


「コーラル。昨日お手入れしたラベンダーは、ずいぶんと元気になったね」

「そうですね、坊ちゃま。ラベンダーは雑草みたいなものですから、もともと丈夫なのですが。……あのラベンダーは、ちょっと特別なのかもしれませんね。もしかしたら、あれも坊ちゃまのお爺さまが採ってこられたものではないですか?」


 コーラルに聞かれて、ボクは首をかしげた。

 

 ボク子どもだから、庭の植物とかあまり興味がなかったし。

 あのラベンダーの出どころは、ちょっとわかんないです。

 

「わたしの癒しの力も捨てたものではないのですが、さすがに成長が早いかな、と思うのですよ。ん~。このお屋敷に、鑑定のスキルをお持ちの方はいますか?」

「お母さまが持っていると思うよ」

「そうですか。ではあとで見てもらいましょうね。もしかしたら、ただのラベンダーではなくて、特別な力を持ったラベンダーかもしれません」


 特別なラベンダー。

 前に【特別】って付くと、なんだか分かんないけどスゴイ感じがするよね。

 強い感じもする。

 

 特別なラベンダー、スゴクツヨイラベンダー。

 スゴクツヨイヨラベンダー。

 ん~、イマイチ?


 ボクが首をかしげながらコーラルからちょっと離れて土いじりをしていると、急に手元が陰った。


 雲でも出てきたのかな?

 天気が急変して雨が降るなら屋敷のなかへ入らなきゃ。

 そう思って顔を上げると、視線の先にギラギラと光る青い瞳。

 

「うわっ⁉」


 ボクは驚いて後ろに飛びのき、尻もちをついた。


 あーお尻が泥だらけになっちゃったよ。


「坊ちゃま⁉」


 コーラルの叫び声がする。


 尻もちついたくらいで大げさだなぁ、コーラルってば。


「坊ちゃまっ! 下がってくださいっ!」


 ジェイがお父さまの書斎の窓からヒラリと飛び降りてこちらに向かって走ってくる。

 すごい身体能力だね。

 手には剣を握っているよ。

 ジェイは護衛を兼ねているといっても、白髪のお爺ちゃんなのに。

 あとから腰が痛いとか言っても、ボク知らないからね。


 で、ボクは脅威の対象となっているのは、たぶんこの人だよな? という侵入者を見上げた。


 ギラついているけど、青い瞳は淡い色をしている。

 髪は銀色で長い。

 服装は旅装。

 マントの下にリュックを背負っているし、腰のベルトには剣が刺さっている。

 足元は動きやすそうな皮のブーツだ。

 長いマントを羽織っているけど、引きずっているわけでもないから、身長はかなり高い。

 筋肉もしっかりついているから、体はかなり大きいね。

 ボクは見上げているから、そびえたつ壁のように見えるよ。

 でも顔立ちは整っているから、ボクは脅威を感じていない。

 この人、たぶん貴族だよ。

 鼻息は荒いし、目がギラついていて様子が変だけど、悪意は感じないもん。


「坊ちゃま、ワタクシの後ろへっ!」


 いつの間にかボクの前にはジェイがいた。

 素早い。

 さすがジェイ。

 執事服を着ているし、爺だけど、剣を手にしたジェイは、しっかり護衛の顔をしていた。

 

「我が家のご子息、オパールさまに何用ですかっ⁉」

「あっ、ちょっ……ちがっ……違います、違いますっ。オレは不審者ではありませんっ」


 侵入者がうろたえて大きな体を縮め、胸の前にあげた両手を振りながら、首も左右に振って言い訳している。

 

 ナニが違うんだろうか?

 充分に不審者だよ?


 ボクの顔の横では、水筒君も臨戦態勢をとっているし。

 つか、水筒君。

 君、どうやって戦う気?

 熱いココアでもかけちゃうの?

 それはちょっと勿体ないからやめてね。


「あなた、いったい何なのですか⁉ ここがイオネル男爵家だと知っての狼藉ですか⁉」


 コーラルがめちゃくちゃ怒っている。

 

 でもさ、コーラル。

 ラベンダーを元気にしたのって、君の案だよね?

 さっき見えたリュックの端に、枯れた草みたいなものが見えたから、その人は多分、薬師だよ。

 

 不審者は冷や汗をだらだらかきながら自己紹介した。


「あの……オレは薬師で……薬草を分けてもらいたくて来たんだけど……」


 ほーら、やっぱりお客さんだ。

 お金が欲しいから、ラベンダーで薬草の欲しい薬師をおびき寄せてたんでしょ?

 お客さんなら、むしろ歓迎しないとダメなのにぃ~。

 商人失格だよ?


「あっ」


 コーラルはしまったといった表情を浮かべている。


 ジェイは眉毛を跳ね上げて剣を下げた。

 まだ警戒しているみたい。


「騙されてはいけませんよ、坊ちゃま。薬草が欲しいだけなら、子どもである坊ちゃまではなく、大人であるコーラルへ声をかけるはずです」


 あ、確かに。

 コーラルは若い美人さんでもあるから、最初にボクのほうへ来たってことは、やっぱり不審者?


「そんなこと……オレは、そのふわふわと空中を飛んでいる水筒が気になっただけで……」


 あっ、水筒君。

 君のせいだったよ……。

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