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セカンドエンド  作者: 米西 ことる
第6章 魔女の狂騒
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神の目

ノックス・ドームが長剣を鞘から引き抜き、白いマントが風にはためく。彼の星のような美しい瞳は敵としてではなく、味方として智也に向けられ、覇気のある出で立ちは本物の騎士のように鋭い。


智也はその頼もしさに少し微笑んだ。魔人にも匹敵する彼の戦力ならば、神の目と腐食の魔人という二つの大きな障壁を打ち破れるのでは無いかという希望を彼に感じさせるのだ。

「ノックスさん、どうにか神の目を足止めしてください。難しいかもしれませんが、とにかくモルギドを視界に入れないように戦ってください……」

智也自身、それが困難なことは身にしみてわかっていた。【神の目】ゾルデイラ・ヒューラーの力は魔術連幹部の中でも上位の者たちに匹敵する生まれついての怪物。しかし、同じく怪物であるノックスならば止めることが出来る、智也はそう信じている。


「了解した。託された役目は果たさせてもらうよ」


ゾルデイラはノックスを一瞥すると、訝しげに眉をしかめた。

「……邪魔を、するな」

暗い藍色の魔力が溢れ出す。その魔力に触れた物体は鋭角に湾曲していく。

神の目、ゾルデイラ・ヒューラーの魔力特性は【角度】。その魔力は力のベクトルを捻じ曲げ、波動を操る。この魔力特性こそ、男が使徒の目最強であるゆえんだ。


剣の切っ先をゾルデイラに向け、ノックスは微笑んだ。

「深淵教団、人々の平和を脅かす悪は……この手で粛清しよう」


ノックスの瞳が薄く光を放った。


──直後、ゾルデイラの首元に剣が食い込んでいた。


ノックスはまるで瞬間移動したかのように瞬時に移動し、ゾルデイラはその様子を全く捉えられていない。驚愕したのも束の間、脊髄まで迫る剣を止めるため、ゾルデイラは魔術を発動する。

「反転」

ゾルデイラの周囲に光が纏わる。その光は剣の力を反転させる力を持ち、押し込めば押し込むほど、かえっってノックスの剣は男から遠ざかる方向へ進もうとする。


後方へ跳び、ノックスはゾルデイラを睨む。


「無駄だ、お前の攻撃がどれだけ早かろうと、俺を殺すには至らない」


はたから見ればノックスに打つ手は無いように思える。しかし、彼の目には確かな自信が宿っていた。それをけどったゾルデイラもまた警戒を強める。

(ノックス・ドームの魔力特性は【性質変換】、ならば魔術に込められた俺の魔力特性に対して抗体を作り、突破してくる可能性がある。奴に何度も攻撃させるのは得策ではない。だが、さきほどの一撃、俺にすら動きをとらえることが出来なかった。空間転移とは違う、何か違和感のある攻撃……)


「考える暇は、与えませんよ!」

ノックスの剣がゾルデイラに迫る。それを軽々と避け、ゾルデイラの鋭い蹴りが放たれる。綺麗な弧を描くように放たれたその一撃は、天性の筋力と体幹がなせる技、それに角度の魔力特性を加えることで力を集束させ、さらに威力を増した一撃だ。


剣と蹴りが衝突し、轟音と共に突風が巻き起こる。重く鋭い一撃にノックスは思わずたじろいだ。


「これだけの一撃、人のために使われればどれだけの人が助けられか……!」


「人助けか? くだらないな。低能の世話をして何になる? この渇きを癒してくれるのは、人間では無い……この渇きを満たしてくれるのは、全能なる神だけだ……!」


ゾルデイラは昏く狂気の籠もった瞳をノックスに向ける。その冷たい重さは、ノックスに冷や汗をかかせるほどだ。

「天性の怪物、というわけですか……」



 ゾルデイラ・ヒューラー、生まれついて朝霧並の魔力を持ち、10歳にして五か国語を習得し、13歳にして大学に飛び級で入学した。15歳になると独自の物理理論でこれまで未解明とされてきた超常エネルギーによる亜空間の生成についての論文を発表した。


男は、常に退屈していた。


この世界には自分より秀でた者がいない。


同年代とでは話が合わない。

彼が対等に話せると感じたのは、高名なとある博士くらいだった。


しかし、彼には常に追い求めているものがあった。それは、『神の存在』。

宇宙の起原、生命の起原、あらゆる根本に存在した形跡だけが見受けられるその存在、数式の中でだけいることが証明できるような奇妙な空白。それが男の知的好奇心をくすぶり続けた。


そんなおり、博士の伝手でとある家庭教師をゾルデイラは雇うことにした。

血のように赤い髪を持ち、赫い瞳を持ったその女は、ゾルデイラの知らないことを多く知っていた。女は、ゾルデイラが初めて対等以上に話をすることが出来た人間だった。

魔術の存在、神の存在、人とは違う、自分よりも遥かに優れた存在、それこそが、彼の退屈を癒すものだった。次第に、男の中で欲求は強まる。


『神に会いたい』


『神の存在を証明したい』


それこそが男の、すべて与えられた退屈な人生の最高の終わり方だと狂信するのだ。



「神を降臨させ、俺は神に殺されたい! そして、叶うならば神の使徒として、退屈な人の肉体を捨て、蘇るのだ!」


男の目に映るのは、確信。

自身が神の証明者となり、退屈が終わるという確信だ。


「そのために、何人の死者を出す気だ」


「知ったことか。選ばれた者のみが生き残れば良い。全ては、神のみが知っていればいい!」


ゾルデイラの前方に巨大な魔術陣が出現する。その膨大な魔力を込め、その魔力特性を引き出す。


「界壊の咆哮」


魔術陣から放たれた暗い藍色の光線は周囲のベクトルを無造作に散らし、触れたものを瞬時に瓦解させる。触れることすら許されないそれに対し、ノックスはあろうことか剣を向けた。


ノックスのロングソードの刀身、そこに纏わせた魔力が黄色に染まった。

縦に剣が振り下ろされる。光線は真っ二つに裂け、減衰して消失していった。


「性質変換……俺の魔力特性に抗体を作ったか……」


「その通り。さあ、次で、終わらせましょう」




(多分本編で書かない余談)

グリフィン・ヒューラーが出会った深淵の魔女に出会ったきっかけは、ゾルデイラ・ヒューラーが家庭教師として屋敷に雇ったことです。


あと、グリフィンが初めて魔物と遭遇したのは偶然ではなく、深淵の魔女が意図的に放ったものです。

ついでに言うと、ゾルデイラに絵を描くように諭したのも深淵の魔女です。


あと、とある博士は使徒の目の一人でしたが、青い狼によって知らぬ間に消えています。

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