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セカンドエンド  作者: 米西 ことる
第6章 魔女の狂騒
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腐食の魔人

深夜の静寂がしんと静まり返る部屋の中、智也はベッドの上に横たわったまま、天井をじっと見つめていた。明日へ向けた緊張感からか、どうしても眠たくならない。


そんな時、枕元に置かれたスマートフォンが短く振動し、静寂を切り裂くように電子音を響かせた。画面を覗き込むと、表示されていたのは「昏」の文字。驚きに一瞬目を見張りながらも、智也は息を整えて耳に端末を当てた。


「あ、智也……? 良かった、まだ繋がった」


「どうかしたのか?」


「今日は帰って来なかったから、なんだか心配になっちゃって」


電話の奥から聞こえる昏の声は少し掠れており、不安を押し殺しているのが手に取るように感じられる。明日決行される深淵教団への奇襲作戦は、一部の魔術師だけに知らされた極秘事項だ。昏に本当のことを話すわけにはいかない。智也は内心の動揺を隠し、誤魔化すように曖昧な言葉を返した。


しかし、幼馴染である彼女の鋭い勘を誤魔化しきることはできなかった。短いため息のあと、昏は探るように尋ねてくる。


「なにか、危ないことしようとしてる?」


「まあ、な……でも大丈夫だ。朝霧さんも、他の人達もいるから」


「……無事に、帰ってきてよ。一人じゃ、寂しいから」


消え入りそうなその声色から、智也の脳裏には、寂しげに眉を下げて唇を噛みしめる彼女の表情がはっきりと浮かび上がった。何か勘付いてはいるのだ。


「…………絶対に帰る。今まで僕が約束守らなかったことなんてないだろ?」


「そうだね……信じてる。それじゃあ、またね」


名残惜しさを感じつつも、ぷつりと通話が切れる。智也はスマホを胸元に落とし、深く、重い息を吐き出した。


皆が笑って過ごせる未来――ただそれだけを掴み取るために、、この過去へとタイムリープしてきたのだ。今度こそ失敗することは絶対に許されない。固い決意を胸の奥で燃やしながら、彼はゆっくりと瞼を閉じ、決戦の朝を迎えた。


◆


決戦の時。深淵教団の幹部たちが会議で席を外している一瞬の隙を突き、魔術連は地下深くへ潜入を開始した。


智也、ファング、宇佐寺、純也の四人は少数精鋭の奇襲部隊として、ターゲットである【神の目】ゾルデイラ・ヒューラーの屋敷地下へと侵入する。薄暗く湿った通路を進む中、館内に配置された人造人間《ホムンクルス》たちの警戒網を、ファングの桁外れな隠密術によって完全に潜り抜けていく。


最深部である地下室へ足を踏み入れると、そこには異様な光景が広がっていた。壁沿いの棚には禍々しい魔導書や異形の偶像、未知の生物の標本がズラリと並んでいる。しかし四人はそんなものに一瞥もくれず、目的の場所へと視線を走らせた。


広大な地下室の中央――そこに刻まれていたのは、巨大な深緑色の魔法陣だった。

その中心には、意識を失ったまま冷たい鎖で厳重に縛り付けられている二条 紗由理の姿があった。


「紗由理さん……!」


息を呑む智也。拘束を解くにはあの頑丈な鎖を破壊しなければならない。そして魔法陣のすぐ傍らには、茶色のスーツを身に纏い、ハエの頭部を持つ男が片膝をつき、祈りを捧げるように深く頭を垂れていた。


背後からの奇襲には絶好の機会。ファングはすさまず空間収納魔術を発動し、手元に長剣を呼び出す。気配を殺し、透明化したまま、静かに、そして淡々とハエ男の首元を目がけて一撃必殺の刃を振り下ろした。


しかし、刃が首皮一枚に触れる直前、ハエ男はあり得ない反応速度でそれを回避した。反転しながら、姿を消しているはずのファングへ向けて強烈な蹴りを叩き込む。


槍のような脚と剣がぶつかり、重い衝撃音が地下室に響き渡る。


「殺気も無く、これほどの力で剣を振るうとは……奇妙なやつだ。見たところ、前兆《アルファス》の仲間にいた奴の子孫だな」


ハエ男は、深緑色の複眼を不気味に蠢かせながら低い声を漏らした。ファングは警戒を高めて長剣を構え直す。


「貴様、グールだな。それもかなりの長寿……千年前の者が、よくもまあ生き残っていたものだ」


「他にも三人、隠れているな。主の復活を阻止しに来るとは愚かな者どもめ。まとめて死ぬがいい!」


ハエ頭のグールが叫ぶと同時に、その身体がメリメリと音を立てて膨張し始めた。着ていた茶色のスーツがズタズタに引き裂かれ、露出したのは鋭く伸びた鉤爪と、不気味に湾曲した漆黒の背骨を持つ巨躯だった。背中からはハエの羽が羽ばたき、昆虫の頭部からは狼のような獰猛な顔が滲み出るように浮き上がってくる。その巨大な裂け目のような口が、嗤うように吊り上がった。


「さあ、主の復活のための供物として、貴様らを捧げてやろう!」


グールから放たれた深緑色の魔力が、毒の霧となって地下室全体へ一気に拡散する。空気に混ざった禍々しい魔力を吸い込んだ智也たちの体は強い拒絶反応を示し、激しい咳き込みとともに視界が狂いそうになる。かつて病魔のグールとして名を馳せた化け物が、雄叫びをあげて襲いかかってきた。


「ファングさん、ここは僕が食い止めます! 紗由理さんをお願いします!」


智也は蒼い魔力を全身に纏い、前に躍り出た。


「了解した」


ファングが疾走し、紗由理の拘束を解くべく魔法陣へと向かう。智也は迫り来る巨大なグールへ向けて視線を固定した。


「俺たちも忘れてもらっちゃ困るぜ!」


宇佐寺が刀に激しくうねる流刃を纏わせ、グールの右腕を一刀両断する。続いて純也が黒魔槍を放ち、残った左腕を深く穿ち抜いた。ボタボタと緑色の気味が悪い体液が飛び散り、グールは苦悶の叫びを上げる。しかし勢いは死んでいない。


「舐めるなよ、小僧どもがァ!」


肉が爆ぜる音とともに、グールの背中から新たに二本の巨腕が突き出し、智也の頭上から振り下ろされた。



智也に目の前で紗由理を奪い去られたあの瞬間が脳裏をよぎり、彼の全身に力が満ちる。

「あの時の借りは……ここで返す!」


手のひらをグールの巨軀へと向け、魔術陣を展開する。そして、唱えた。


「不可視の衝撃!!」


智也の放った目に見えぬ魔力の塊がグールの上半身を直撃した。爆音とともに肉塊が吹き飛び、残された下半身が力なく血の海へと崩れ落ちる。


あまりにあっけない決着。千年間生き抜いてきた魔術的な脅威にしては、手応えが小さすぎた。智也の胸に強烈な違和感が走る。


その時、床に転がったグールの頭部が、ガチガチと歯を鳴らしながら残酷に嘲笑った。


「貴様らの侵入は、気づいていた……ゆえに、先手は打たせてもらったぞ……!」


「── ファングさん、そこから離れて!!」


智也が叫びながら振り返る。だが、その制止はほんの一瞬、遅すぎた。


魔法陣の中心――ゆっくりと、二条 紗由理の瞼が開かれる。

だが、そこに宿っていたのは静かに光る深緑色、そして人間のものではない狼のように細く鋭い瞳孔が、目の前に迫っていたファングを冷酷に捉える。



ファングが咄嗟に防御姿勢をとった瞬間、鮮血が宙を舞った。


紗由理の指先から伸びた深緑色の魔力を纏う鉤爪から赤い血が垂れている。ファングが構えていた鋼鉄の長剣はいとも容易く粉々に砕け散っており、身体を護っていた防御魔術の装甲すら、紙屑のように切り裂かれていた。


鮮血を撒き散らし、信じられないものを見る目で倒れ込むファング。その横で、紗由理の姿をした“何か”が、僅かに口角を上げる。


紗由理の体から肉や骨が蠢いているような不気味な音が響く。彼女の手には鋭利な鉤爪が伸び、裂けた口元からは狼のような牙が覗く。茶髪だった髪は黒へと変色し、その頬には深緑色の不気味な痣が浮かび上がっていた。頭部からは獣の耳が、腰元からは尾が生え神経がつながっているように動く。


「ああ……千年。遂に、お会いできた……! 我が主よ……!!」


かろうじて残っていたグールの頭部が、歓喜に震える声をあげた。主の復活という悲願を見届けたその肉体は、満足しきったように霧散して崩れ去っていく。


気付けば、紗由理の肉体を奪った“何か”は、智也の目の前へと移動していた。それは、消えゆくグールの亡骸を優しく掴んだ。


「大義であったぞ、フォルジェイドよ」


死した忠臣の名を呼ぶその声は、重く、低く、人間という種の領域を遥かに超越していた。全身から溢れ出る深緑色の魔力が、地下室の空気を重圧で押し潰す。


「死こそ、我らが魂の回帰。骸こそ、我らが贄……今度こそ、築き上げてみせよう。我らが墓標の聖域を──」


胸の傷を押さえ、血を吐きながらファングが絞り出すように問う。


「お前は……誰だ……!」


それは冷たく、そして誇り高く宣告した。


「私は――【腐食の魔人】モルギド。かつては、そう呼ばれていた」



今回は質を高めるためにAIを参考として一部使いました。

元の文よりもかなり地の文が増えましたが、セリフと展開は全て自分で書いたものですね。いずれはAIに負けないくらいの文密度で書きたい…この話の最後までにはその域に達せるように頑張ります。ちなみに119話の前半部分も展開やセリフ以外の部分でAIを利用しています。それ以外は全部使っていません。

打倒AI!! 

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