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セカンドエンド  作者: 米西 ことる
第6章 魔女の狂騒
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決戦前日 魔術連

教会の鐘が鳴り響く。二人の男女は手を組んで異形の偶像に祈りを捧げていた。


一人は白髪に黒い外套を纏った壮年の男。もう一人は目の刺繍のついた修道女の服装をした女だ。彼らは祈りが終わると立ち上がる。


「信心深いですね。何を祈っているのです?」


二人の男女の後ろから声がした。その声は、智慧の魔女のものだ。


「何も祈っていませんよ。ただ、虚無の来訪を、私は待っているのです」


男は目を開く。男の目には三つの白金色の眼球があり、十字架のような影が目に映っている。この男こそ、【終焉の目】ロストだ。


「……貴方、誰ですか?」


修道女のような姿をした女が智慧の魔女に訊ねた。


「顔を合わせるのは、これで五回目なんですけどね……」


「そうなんですか、私は忘れっぽいようなのですいません」


「流石は、【忘却の目】ですね。アリス・アーメントさん。まあ、私が何者であるかなど大したことではありませんよ」


智慧の魔女は微笑む。忘却の目はポケッとして首を傾げた。


「それで、何の御用ですか?」


「見てもらいたい未来があるんですよ」


「ほお、誰の、ですか?」


「それは──」



◆



ファングと別れた智也は幹部たちと入念な打ち合わせをし終えて疲れた様子の朝霧と遭遇した。


「ああ、智也くん……」


「おつかれですね……」


救世団の作戦への参加と、各部隊の配置が大方決まっている。


今回の作戦の概要は、明日行われる深淵教団の幹部会議の隙に、蛇骨の触媒の破壊及び紗友里の救出を行う。その後、会議から戻ってきた使徒の目メンバーを奇襲して迎え撃つ。これが理想的だ。しかし、一つ懸念点がある。それは終焉の目の『未来視』の力だ。


終焉の目は一度視線を合わせたことのある者の未来を見ることが出来る。そのため、以前屋敷で遭遇した際は智也たちは目線を合わせないように脱出した。そのためこちら側が未来視をされている可能性は少ないと考えられるが、向こう側の人物の未来で襲撃に気づく可能性がある。


それゆえに、今回の作戦では戦闘は行われる想定で動く。使徒の目のメンバーと相性の良い魔術連幹部が相対するため懸念は少ないが、もしもの時のカバー役として救世団には動いてもらう。仮に相手が未知の動きをしてもノックスたち救世団がそれぞれの援護に入ることで戦況が安定するとい腹づもりである。


加えて、念には念を入れ、今回は魔術連の最終兵器である【音の神】リディアロスをも使う勢いだ。音の神は契約者がたった一人であり、その者が死ぬと契約が切れる可能性がある。そのためほとんど使わないが、今回は多くの人命がかかっているため、魔術連は躊躇しない。


「ひとまず、今回の作戦は固まった。あとは魔女たちの動向次第、といったところかな」


智慧の魔女に加え、深淵の魔女も力は怪物である。神の域に近いこの二人の存在は盤面に大きなイレギュラーを生み出す。策はあるが、うまくいく保証はない。


「おや、お二人ともいましたか」

こちらに歩いてきたのは、ノックスだった。


男のことを見ると、智也は不信感を抱いてしまう。昏を殺すのは、ノックスか自分なのだから。


「……ノックスさん、聞きたかったことがあるんです。貴方はどうして、人を助けようとするんですか?」


「私を救ってくれた方が言っていたんだ。『その特別な力で、たくさんの人を助けてあげなさい』と。それが、一番の理由かな。名も知らないあの人は、まさしく私にとっての救世主。だから、私もそうなりたいと思ったんだよ」


「二条家の銀の鍵についてもその人に聞いたんですよね、二条家の人たちに危害を加えようとは、考えていませんよね」


「もちろんだ。何の罪も無い人に対して、力を奮ったりなどしない。それは、正義でもなんでも無い、ただの暴力だからね」


(やはり、ノックスが昏を殺す理由がわからない。操られていたのか? でも僕が殺した時、昏はそれを受け入れているようだった。何か受け入れる理由があったのかも知れない)


智也はこの騒動が収まり次第、昏についてもっと詳しく調べることに決めた。


「そうだ、私からも質問していいかな?」


「なんですか?」


「君は、第三の厄災はどのように起こると思う?」


智也が体験した一番最初の未来では、突如として生物が死に絶えるという事象が起きた。その原因は、神を見たことだと、その時の朝霧は語っていた。


「おそらく、なんらかの神が顕現すると思います。それも、アルファスの短剣すら効かないような」


以前調べた、その厄災を起こし得る神格は二柱。

【深淵の神(オキュラス)】と【記録を映す神(アカシック)】だ。


【深淵の神(オキュラス)】は深淵教団が崇める神格であり、見たものを精神を殺し、さらに願いを叶える力を持つ。


【記録を映す神(アカシック)】は魔術連の文献ではほとんど見かけなかったが、紗由理が黒戸神社の時空門伝説で見かけた話をしていた。次元の神の持つ、世界の記録を映す神だとされており、その姿を見ると脳が焼き切れる。



「なるほど、どちらにせよ、神が顕現する前に阻止するのが先決だからね。だとしても、君の目にはかなり確信に近いものがあるように感じる。一体、どうして?」


「……気のせいです」


朝霧がパンと手のひらを合わせて音を鳴らした。

「ノックスくん、智也くんにも秘密ある。それは尊重して欲しいな」


「わかりました。明日の戦い、人命のために共に頑張りましょう」


タイムリープのことを知られると怖いが、味方ならばノックスは頼もしい戦力となる。明日の戦いでは大いに力を借りることになるだろう。


「ああ、朝霧さん! 探してましたよ!」


入れ替わるように、魔術連幹部レミシア・アルバタインがこちらにやって来る。


「あ、智也くんもいたのか。そうだちょうどいいから一緒に来て」


手を取られて連れられた場所は魔術連の再生医療魔術の研究所、かつては二ゾルデが使用していた部屋だ。その内部に入り、レミシアが目立たない箇所にあった魔術陣に触れると、研究室の壁にあった魔術陣が起動して扉が現れた。


「中を見てみてください」


智也たちが中へ入ると、そこには二メートルほどの培養液が設置されており、その中の一つに幹部クラークが眠っていた。


「クラークは死んだはず……」


「私もそう思ってたんですけどね……この体にある火傷痕は間違いなくクラークさんのものです。クローンが作られた痕跡があったので、朝霧さんが撃退した【魂の魔眼】が使っていたのは複製体の方だったみたいです」


クラークを培養液から出した。しかし、しばらくは目覚めそうにない。明日の戦いには当然参加できないだろう。


「ハイパーが喜ぶな。だが、どうして生きていたんだ?」


「それともう一つ。探していたらもう一つ培養液内を見つけたんですけど……お二人にみてもらいたいです」


「何だ?」


レミシアが案内された先には白い布を被せられた培養液があった。布をめくると、そこには人の姿をした少女が入っていた。白髪の髪をした容姿端麗な姿をしている。しかし、二人には見覚えがあった。


「月の神……!」


月の神こと星蝕の神の断片は、朝霧たちとの戦いで確実に破壊した。だというのに、この培養液内にそれが残っていた。


「本物なの?」


「そうみたいです。神性のデータも残されていましたから。おそらく月の神が消滅した際に、ごく僅かに残ったカケラを集めたんでしょうね。それでも二ゾルデさんの研究が無ければここまで再生は出来ないでしょうが」


この培養液内の月の神は以前倒した大きなカケラよりもはるかに力が劣っているため解き放っても普通の魔術師だけで対処の使用がある。加えて培養液を操作しない限りは休眠状態を保つようなので、一度何も触れずに放置することになった。



「二ゾルデめ、とんだ置土産を残していたとは……あの月の神のことは明日の戦いの後に考えるとしよう」



「レミシアさんはどうして二ゾルデさんの研究室を探っていたんですか?」


「あそこには沢山の回復薬があるから、探していたら偶然見つけられたんだ。私の目のおかげもあるだろうけど」


レミシアは魔術布の巻かれた目を指さした。


「私の目には、魂を視認する力がある。おかげで、魔力の感知にも優れているんだよ」


レミシアの魔術は、アルバタイン家の相伝の魔術。この力は、智慧の魔女にも通用していた。相手の魂を知覚したうえで命令を与えると相手の行動を一時的に制御することが出来るのだ。


(智慧の魔女は高次の存在のはずだから、僕の次元の神の力以外では干渉出来ないと思っていたけど、レミシアさんの魔術も効いていた。何か条件があるのか……?)


「では、私はここで退散させてもらいます」

レミシアはあくびをしながら去っていく。


「そうだね、私たちも解散しよう。帰って、明日への英気を養ってくれ」


「そうします」


朝霧と別れ、智也は魔術連内部の寝床で眠りについた──


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