救世
シャール家の屋敷から脱出し、智也たちは魔術連内部で休息をとっていた。
しばらくして、魔術連幹部たちが次々と現れ始める。
魔術連で二番目の実力者であった、二ゾルデ・シャールの死亡。
加えて幹部であったクラークの死亡に対しての危機感をみな抱いているのだ。
「深淵教団との戦いが控えているのに、幹部クラスが二名も殉職とはね......」
幹部レミシアがまいった様子で告げる。
二ゾルデが裏切り者だったことは伏せることになり、あの場にいた四人と、幹部の一人アッシュ・ゴルドーのみが知っている。
「私たちだけの戦力では、不安が残りますね」
「こうなったら、先手必勝で奴らを各個撃破していくのが良いのではないか? 俺は、クラークの仇が取りたい」
ハイパーが机を叩いて進言する。
相棒であり、参謀役であったクラークが殺害されたことを受け、彼も気が気でないようだ。
「だが、敵は深淵教団だけではない。智慧の魔女もおそらく敵だ。その前に、戦力差を埋める必要がある。援軍を求めるべきだ」
「だったら、救世団に援軍を頼んだらどうですか?」
智也が手をあげて告げる。
救世団はノックス・ドームが率いている魔術組織。
世界を救うことを活動理念に掲げているが、魔術の公表を行おうとしている、という点で対立している。
しかし、以前に月の神の事件で助けられたこともある。
人が大勢死ぬかもしれないこの状況ならば、ノックスも手を貸してくれるかも知れない。
「なら、交渉に向かおう」
「肝心の、やつらのアジトなんて、わかってないじゃないですか」
「私の予想では、奴らは第一の前兆、アルファス・ドームの縁のある地に拠点を気づいていると思う。だから、そこを虱潰しにあたる。まあ、こちらから大々的に共闘関係を結ぶことを告げれば、向こうから接触してくるとは思うけどね」
朝霧が告げた。
「わかりました。それでいきましょう」
◆
それから数日後、魔術連は救世団に対して共闘を持ちかけるために接触を試みたが、まだ進展はなかった。
朝霧と智也は、再びシャール家の屋敷へと訪れた。
崩壊した屋敷を見て、朝霧は寂しそうな目をしていた。
二ゾルデが最期を迎えた場所まで移動すると、そこにはただ赤い血溜まりのシミが残っていた。
「おそらく、黒薔薇の再生力が尽きるまで、ここで争ったんだろうね......本当、バカだよ。あいつは」
朝霧は拳を握り固める。
「......二ゾルデさんが最期に言っていた、【神眼の神】について、朝霧さんは知っていますか?」
「私も初めて聞く神格だったよ。ただ、以前に君から渡された魔導書を解読したんだけど、それにその神に関する記述があった」
以前渡した魔導書、千年前から戻ってきた時に見つけた廃教会の魔導書のことだ。
「その魔導書には、【魔女化】の禁忌魔術が記述されていた」
「........................魔女化? どういうことですか?」
「結論から言うよ。魔女は、人間から昇華した存在だ。姿形は人そのもの。だけど、中身は既に上位存在そのものと言って良い。
魔女にはそれぞれ異能がある。【神眼】と呼ばれる力を行使する力だと魔導書には書かれていたけど、詳しい説明は無かった。ただ、おそらく二ゾルデが殺そうとしていた神が【神眼の神】だとするなら、それが全ての元凶なのかもしれない」
「それなら、深淵の魔女や智慧の魔女からその神格について聞き出して、厄災を止めさせれば良いってことですね!」
「そう、だね......ただ、それは困難を極めるだろうね。二ゾルデは、どうしようとしたんだか......」
朝霧と智也は二ゾルデの庭園へ向かった。
誰も手入れするものがいなくなった寂しい薔薇園には青い薔薇が咲き誇っている。
「深淵教団との戦い、どうにか勝利しなければいけない。でも、相手の戦力を考えると、到底こちらが勝利するのは厳しいだろうね」
朝霧は珍しく弱音を吐いた。
「......大丈夫ですよ。青い薔薇の花言葉を知ってますか?」
「なに?」
「『奇跡』です。奇跡を信じましょう! そして、絶対に、誰も悲しまないように、勝ちましょう」
その時、魔術連から朝霧に連絡が入った。
「救世団とのコンタクトが取れた」
場所はアルファス・ドームが魔人と激闘を繰り広げたという古城。
朝霧の読み通り、第一の前兆と由のある場所だった。
◆
数時間後。
「よう、智也」
ふと声がしたので智也が振り返ると、そこには兄弟子である宇佐寺がいた。
「宇佐寺さん! お久しぶりです、月の神の一件以来ですね!」
「お前も色々あったみたいだが、見ないうちに強くなったな」
宇佐寺はワシャワシャと智也の頭を撫でた。
「ノックスのところまで同行するんですよね」
朝霧、智也、そして智也の兄弟子である宇佐寺と共に救世団の拠点、グランベルン城へと向かった──




