終焉の目
二ゾルデは仰向けになって倒れ、屋敷の天井に空いた空を見上げている。
智也と朝霧は男の元へと近づいた。
「二ゾルデ、知っていることを全部話せ」
朝霧の言葉に、二ゾルデは一言『何を聞きたいのですか』と応えた。
「お前の言う、厄災を止める方法とは何だ」
「......それは、【神眼の神】を──」
その時、空から氷の長剣が二ゾルデの首に突き刺さった。
男の首は鮮血を撒き散らし、パッカリと裂けた。
「──二ゾルデ!」
朝霧が声をあげた直後、氷雨が降りだした。
崩壊した屋敷の隙間から白い氷の結晶が降り注ぎ、積もっていく。
「やはり、負けましたか」
智也たちは声のした方を振り向く。
天井に開いた穴から、こちらを見下ろす二人の影があった。
「誰だ!」
智也が声をあげると、二人はゆっくりと着地し、地面に降り立った。
そのうちの一人が前へ出る。
月明かりに照らされ、見えたその姿は、全身に黒い外套をまとった白髪の男だった。
男は一つの眼球の中に三つの目玉があり、白金色のその瞳には十字架のような影が見える。
「ワタシは使徒の目の一人、【終焉の目】ロスト・ルークと申します」
男は周囲に白金色の冷気を纏っており、二ゾルデを殺した人物だとわかった。
飄々とした笑みを貼り付けたその男からは恐ろしいほどに深い虚無感を感じられた。
「終焉の目ってことは、こいつが蛇骨召喚の触媒を守っているやつか」
これから起こるであろう魔術テロを阻止するために、この者の存在は障害になる。しかし、今の智也と朝霧には戦う余力などほとんど残っていない。
(もう一度、原初の炎を使うしかない......!)
朝霧は炎環の神の炎を終焉の目に向けて放つ。
直後、もう一人が終焉の目の前に出て手をかざした。
万物を焼き焦がす炎の奔流がその女の手のひらに収束していき、やがて全て飲み込まれた。
炎の消失と共に姿を見せたのは、黒い長髪に赫い瞳の女、智慧の魔女だった。
(まずい、智慧の魔女には神格の力を得る能力があったはず.......)
智慧の魔女は不敵に笑う。
「ありがとう、朝霧 黎、貴方のお陰で、上位の神の力を得ることができました」
「なぜ、お前が......」
「この方と協力したのですよ。貴方が最も追い詰められ、上位の神の力を手に入れられるこの機会を逃す手はありませんから」
(グリフィンの記憶によれば、終焉の目の力は『未来視』、この未来を予測して、確実に始末しに来たのか)
朝霧も智也も残り魔力はわずかだ。
この二人から逃げ切ることは不可能に近い。
智慧の魔女の背から白い結晶の翼が生み出され、頭上に天輪のような炎の環が顕現する。
「最後の障害を、取り除かせてもらいましょうか」
翼から無数の白い結晶の羽が弾丸のように射出され、智也たちの方へ迫る──
突如、側面の壁が壊され、大男が智也たちの前に現れる。
「ふんっ!」
大男の磨き上げられた筋肉の前に、結晶の羽は突き刺さることすら無く、そのまま砕けた。
その大男は、魔術連幹部のハイパー・ストロングであった。
「助けに来ましたぞ、朝霧さん!」
「ハイパー、なぜここに......!」
その後ろから、小さな人影が現れる。
「屋敷の執事さんから、魔術連に連絡があったんですよ。二ゾルデが朝霧さんを襲っているって」
その小さな人影は魔術連幹部のレミシア・アルバタインであった。
「お二人とも、来てくださったんですね......二ゾルデさんは倒したんですけど、その後に、深淵教団の幹部と、智慧の魔女が来て.......」
智也が状況を説明すると、レミシアは智慧の魔女たちの方を見た。
「なるほど、大ピンチってわけだ......」
「そんなもの、俺の筋肉で吹き飛ばしてみせよう!」
ハイパーは身体強化魔術を発動させ、神の眷属にも届くその身体能力にまかせ、二人に殴りかかった。
(なんて速さだ、力だけなら月の神と同じくらいあるんじゃ)
ハイパーの拳は音速を超え、ソニックブームを発生させながら放たれる。
しかし、その拳は受け止められた。
「おやおや、血の気の多い人ですね」
終焉の目、ロストが智慧の魔女の前に立ちふさがっていた。
男の手には白金色の魔術陣が展開されており、氷結の壁が拳を防いでいた。
(なんという硬い壁、まるで剛体を殴りつけているような感覚だ)
「ロストさん、下がってください」
智慧の魔女の声が響く。
それを合図に、ロストは智慧の魔女の後ろまで後退した。
「炎環の焔」
智慧の魔女の頭上にある炎の天輪がさらに輝きを増し、幾重もの環が重なり合った緋色の炎熱の嵐が放たれる。
その直前、レミシアが目に巻き付けた魔術布を取った。
魔術陣の刻まれたその瞳で、智慧の魔女を睨む。
「【上に向けて放て!】」
レミシアの力強い声が響く。
その瞬間、智慧の魔女の意思に反して、灼熱の焔は智也たちではなく、空に向けて放たれた。
天高くのぼるプロミネンスのごとき炎柱の輝きに、気を取られる中、智也たちはレミシア達の使ったゲートまで走る。
しかし、それを逃さんとロストが迫る。
白金の冷気は周囲に降り注ぐ雨を氷の結晶へと変える。そのさまは、冬そのものが迫りきているようだ。
冷気は周囲の空気すらも凍らせ、絶対零度の氷剣を生み出す。
背後から迫る氷剣を、智也は『流盾』を使って防ごうとするが、剣はそれを貫通した。
直撃する寸前、突如として氷が溶けた。
振り返り見ると、絶命してなおも身体から溢れ出す黒い茨が魔女とロストに襲いかかっているのが見えた。
(二ゾルデ......)
四人はゲートを抜け、危機を脱することに成功した──
お久しぶりです。
今回で第五章は終了になります。
この章からキャラが多いですが、自分で名前を把握できているのでなんとか書けています。
この夏の期間中はもう少し投稿頻度をあげられるように、頑張ってみようと思います。




