蒼星の黒薔薇
智也の拳が二ゾルデに命中する。
彼は大きくのけぞるが、傾いた体に茨を巻き付けて引張り上げて元に戻した。
人型の闇のように見える彼の姿は、彼を二ゾルデだと認識していない限り到底誰だかわからない。
(闇の魔眼として二ゾルデさんの契約した【常闇の神】の力は完全な認識阻害。やろうと思えば五感でも魔力でも自身を認識不可能に出来るはずだ。もしかすると、完全な認識阻害には時間制限があるのかも)
と智也は推測した。
二ゾルデは朝霧と智也を交互に睨み、状況把握を済ませた。
「なるほど、これは追い込まれているのは私かもしれませんね。ですが、この好機は逃せない」
気づけば、部屋全体に黒いモヤが広がっている。
壁、天井、床に至るまで全てが黒鉄の茨で覆われ、屋敷がミシミシと唸るように鳴く。
蠢く茨は周囲の魔力を吸い取り、その魔力を糧に黒いバラの花弁が開く。
花弁の中心からは蒼い光が垣間見える。
「この光、まさか、智也くんの......」
魂の色は魔力の色に現れる。朝霧もまたそのことを知っていた。
二ゾルデの魔法『黒薔薇』は先の戦闘で智也の魔力を吸収し、彼の魔力特性【性質変換】により圧縮の魔力特性を持つ智也の魔力を複製する。
「君の魔術、その特異性はその魔力特性にある.......使わせて貰うよ」
(まずい、空間転移が使えない今、あれを使われたら......)
智也は嫌な予感がして朝霧に近づいた。
「蒼星の雫」
二ゾルデが呟いたその魔術は、花弁から高圧縮した蒼い魔力の塊を放つ。
全方位から放たれるその魔力は朝霧の張った障壁を触れるものを塵と化し、智也たちに触れた瞬間蒼い火花と共に弾け、閃光と轟音が部屋全体を覆い尽くす。
その衝撃により屋敷の一部が崩壊し、塵と化す。
蒼天が差し込み闇が照らされる。
智也は全身から血が流れ出る。どろりとした赤い水滴が地面にポタリと垂れ、大小の赤い斑点が広がる。
片膝をついて地面に崩れる。
「智也、くん......」
智也は魔力と『流盾』を使って防御したが、それでも自分自身の魔力を用いた魔術は彼の身に浅くない傷を与えた。
「怪我はない、ですか......?」
朝霧の瞳が小刻みに揺れる。
脳内にグレイストとの別れが蘇る。
「............庇うな」
低い声が響く。
「朝霧さん......?」
朝霧は立ち上り、人型の闇を睨む。
「ごめん...........解毒はもうすぐ終わりそうだ」
「朝霧さん......?」
「大丈夫、落ち着いてるよ......智也くんはここで待っていて」
「朝霧さん!」
二ゾルデが朝霧に向かって歩き出す。
「もう解毒が終えられそうだとは......流石ですね、ミスティファさん」
「二ゾルデ、智也くんごと私を殺そうとするとはな......どこまで堕ちれば気が済む?」
「......神を、殺すまでですよ......」
「二ゾルデ、お前は、何を知った?」
「......真理ですよ」
「深淵の魔女に吹き込まれたようだな......なら、目を覚まさせてやる」
朝霧の周囲の熱気が上昇する。
(朝霧さんは、別の時間軸では闇の魔眼に勝利している......今回も大丈夫なはず)
だというのに、胸のざわめきが収まらない。
「朝霧さん、戦ったらダメです......!」
「ごめん、それは出来ない。こいつはここで、私が倒す」
朝霧は琥珀色の魔法陣を生み出し、十の魔術で一斉砲撃を加える。
黒鉄の茨が密集し、渦巻きのような壁となる。
二ゾルデは茨を塊のように集め、巨大なハンマーのように振るう。
地面に叩きつけられ巨大な茨は地面を砕く。
「琥珀色の彗星」
緋色の火球が二ゾルデに迫る。灼熱を凝縮した琥珀色の炎は周囲の空気を歪め、熱気が肌に迫る。
しかし、黒薔薇はその炎すら呑み込んでしまった。
朝霧の魔力は残り半分。
対して、二ゾルデの魔力は残り四分の三。
一ヶ月に一度の頻度、ギリギリセーフ...ではないですね、申し訳ないです。
次回はもう少し早くする予定です。




