↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セカンドエンド  作者: 米西 ことる
第5章 氷雨の夜に
117/134

世界の真理を知る

 魔術連幹部、ニゾルデ・シャールは、自らが盛った毒により倒れた朝霧を見下ろし、『黒薔薇』を発動させた。赤黒い魔術陣から黒金の荊が現れ、朝霧の頭目掛けて突き刺した。


荊が命中する寸前、朝霧の周囲に張られていた結界によって攻撃が阻まれた。結界が活性化した瞬間、朝霧は目を覚ました。


「いるのか、ニゾルデ?」


ニゾルデは朝霧を警戒して少し距離をとった。


「私は智也くんの服についていた血痕を探知魔術で調べていた。そして、それが"クラーク"のものだとわかった。智也くんの推測が正しいなら、お前は深淵教団の幹部なのか?」


ニゾルデは朝霧の周囲に荊を張り巡らせ、結界を囲んだ。


「どうやら、毒を盛ったようだな......解毒に時間がかかっているよ......お前ほどの魔術師が、なぜ深淵教団の味方をする? まさか、死んだ妻を生き返らせようとしているのか?」


その時、人型の闇が朝霧の前に現れる。

闇は合成音声のような奇妙な声を発した。


「違いますよ。私はただ、厄災を止めたいのです」


◇


 もう何年も前の話だ。

妻は植物の遺伝子と魔術を用いた研究を行っていた。その実験過程で、治癒力を向上させるための薬を薔薇の特異な魔力を用いて生み出し、マウスによる実験が成功したことから、人体での実験を行うことになった。


妻は自らの体でその薬を試し、服用した。

結果は失敗に終わった。


服用直後、彼女の体中から荊が飛び出し、血塗れの荊が周囲にあるもの全てを無差別に襲った。その暴走により周囲の職員が死傷し、その場にいた私は彼女を止めようと近づいた。


無差別に襲いかかる荊に肉を抉られ、骨が砕かれた。

それでも歩みを止めなかったのは、彼女が痛みに悶える悲痛な叫び声が聞こえ続けていたからだ。

彼女は荊によって体を内側からぐちゃぐちゃにされながらも、非常に高い再生能力によって死ぬことも出来ず、痛みによって正気を失っていた。


もはや、彼女を救う手段は無かった。


私は、彼女を原型が無くなるまで潰した。


残った赤い血溜まりには一輪の黒い薔薇が咲き、私はそれを震える手で掴んだ。


それからしばらく経って、私の前に赤い髪の女が現れた。赫い瞳をして薄ら笑いを浮かべるその女は、私に告げた。


「君の妻は魔術連によって殺された」

調べていくうちに、私はそれが真実であるとわかった。妻は実験で使用する薬を魔術連の幹部メンバーによってすり替えられていたのだ。

 

妻の研究は医療に革新を起こすだけのものだった。

魔術連の上層部はその研究データを奪い、当時の世界大戦で軍事転用を行おうとしていた。かねてより妻はそれに反対していたため、狙われていたようだった。


私は幹部を皆殺しにした。

その時期になって世界大戦が終結し、各国の軍部と密接に関わっていた世界魔術連合は解体され、新たに世界魔術連盟となり、その創設メンバーとなった。



私の世界には空虚さが残っていた。一時期は妻を生き返らせようと古代魔術に手を出したこともあったが、結果はどれも失敗だった。その原因は、彼女の魂が既に消失していることだ。


再び、赫い瞳の魔女が私の前に現れた。

「願いを叶えてあげよう」


だが、その時にはもう妻を生き返らせようとは思っていなかった。だから、私はそれを断った。やる気の無い私を見て、魔女は別の提案をすることにした。そして、この世界の真実を語り始めた。



私は知った。この世界が虚無であったことを。

私は知った。この世界が見られていることを。

私は知った。厄災を止める方法を。


私は決意した。神を、殺すと。

そして、願うことにした。【神殺し】を──


◆


願いを叶える条件は、朝霧を殺すこと。

朝霧と二ゾルデの魔術は互角。

だからこそ、先手を打って魔術毒入りの紅茶を飲ませた。実際の毒では、朝霧の手袋に仕込まれている解毒魔術によって瞬時に解毒されてしまう。だからこそ、解毒に時間がかかる魔術毒を使った。


だが、もう一つ破らなければならない障壁がある。それは朝霧の使う魔法。炎の神イズァールの力を使われれば勝ち筋は皆無。ゆえに、使われる前に殺す。

朝霧にとって魔法は切り札。使用後は代償として半身が焼けこげ、眷属化の影響で残りの使用回数も減る。だからこそ、出し渋る。その隙をついて殺すのだ。


そのために、二ゾルデは確実にトドメをさせるタイミングで切り札を使わなければならない。


黒薔薇が朝霧の結界を棘で吸収し、そこから二ゾルデは結界に使用される魔術を分析して瞬時に魔術毒を生成する。


魔術毒とはプログラミングで言うところのウイルスであり、直接結界に魔術毒を注入することで術式を狂わせ、崩壊させる。朝霧の『術式崩壊』も似た理論を使っている。


黒金の荊が結界を破壊し、朝霧は間一髪で短距離の『空間転移』を発動して避けた。転移した瞬間に新たに荊が迫り、防御魔術を貫通して朝霧の脇腹に突き刺さった。


「焦っていましたね。貴方は空間転移の魔術陣を隠せていなかった。熟達した魔術師同士の戦いならば、魔術陣は隠す。一目見ればどのような術式かわかってしまいますから」


朝霧は荊を熱で溶解させて破壊し、刺さった荊は消滅した。


(空間転移で逃げられ続けるのはそれはそれで厄介。なら、対策しますか)


二ゾルデは魔術を発動させる。

「空間遮断結界《アンチテレポート》」


その瞬間、屋敷全体に空間転移魔術を阻害する結界が張られた。


(まずいな、助けを呼びたいところだが、空間転移で逃げようとしていたのを対策されたようだな。解毒の傍ら二ゾルデと戦闘するのは厳しい。誰か増援が来てくれれば)



刹那、人型の闇の背後に人影が現れた。

その人影は拳に蒼い魔力を纏わせ、渾身の一撃を頭部に叩き込んだ。


闇は僅かに吹き飛び、床に手をついて着地するとその人物を見た。それは智也であった。


「助けに来ました、朝霧さん」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。