荊と蝶
【魂の魔眼】龍岳と名乗った男は幹部四人を見て余裕そうに笑った。
幹部アッシュとレミシアが朝霧とニゾルデに告げた。
「私たちは戦闘では足手纏いだ。あとは頼む」
「了解。任せて」
朝霧とニゾルデは龍岳に近づいた。
「奴は相当に強いですね。油断しないでくださいよ、ミスティファ大叔母様」
「久々に本名で名を呼ばれたよ......というか、大叔母様って言うのやめてくれ」
「では、ミスティファさんと呼びます」
魔術連最強の魔術師が手を組み、深淵教団の大幹部『魔眼』の一人に挑む。
戦闘の火蓋が切られるのと同時に、朝霧は一瞬で五つの魔術陣を作り出し、熱線を放った。
龍岳はそれを避け、不可視の斬撃を朝霧に放った。
「黒薔薇」
ニゾルデがそう唱えると、彼の手の甲に赤黒い魔術陣が形成され、そこから黒金の荊が現れた。
その荊を鞭のように使い、ニゾルデは斬撃を防いだ。
龍岳はそれを見て呟いた。
「魔術陣の五つ同時展開、それにその荊、幾つもの魔術を重ねて作られている......やはり、なかなかの魔術師だ」
龍岳の全身が紫色の魔術文字の刻まれた魔力で覆われた。
「多少、本気を出さねばな」
「来るぞ!」
「流刃・篠突く雨」
紫色の斬撃の嵐が部屋全体を斬り裂いた。
ニゾルデは前方に荊の壁を作り、朝霧と自身を守った。
「流刃・豪天斬」
巨大な紫色の斬撃が二人に迫り、荊の壁を切り裂いた。
二人は右と左にそれぞれ避けて朝霧は熱線を放ち、ニゾルデは地面に手を着き、龍岳の足元の地面を棘状に変化させて攻撃した。
龍岳の体が棘で貫かれ、熱線が腹に風穴を開けた。
負傷した龍岳の肉体は赤い蝶へと変わり、再び再集結すると傷は治っていた。
「こいつは不死身か?」
「おそらくは深淵の神に不死でも願ったのでしょう」
「その通り。俺は深淵の神に不死を願った。その結果、【魂の神】プシューケーの力を得た」
「深淵の神は、別の神格の力を与えられるというのか?」
「そうだ。まあ、簡単に言えば、俺は不死身。お前らに殺すことはできない。お前らはあと何発耐えられる?」
朝霧は笑った。
「なら、本当に不死身か試してやる」
刹那、朝霧は龍岳の頭を掴んでいた。
『空風』を無詠唱で使用したのだ。
そのまま頭を掴んで地面に強く打ち付けると龍岳の頭が弾け飛んだ。
「爆炎」
朝霧が唱えると、龍岳の体が爆ぜ、緋色の火花が舞った。
「琥珀色の彗星」
至近距離で放たれた琥珀色の火球は地面に大穴を開け、火柱を生み出した。
龍岳の肉体は跡形もなく燃えた。しかし、一匹の紫色の蝶だけが生き残っていた。
朝霧がその紫色の蝶を手で掴むと、結界で阻まれた。
「昔、【魂の神】についての文献を読んだことがあった。確か、眷属化すると蝶の姿になる。クラークの死体に入り込み、操っていたが、クラークの血肉で生み出した赤い蝶によって、肉体を自ら構成していたのだろうが、本体はこの姿だった訳だ」
「ふざけるな! あり得ない! この俺がこんなところで死ぬはずがない! 俺は、不死身になったんだ!」
「お前の敗因は、不死身であることに自惚れたことだ」
朝霧は蝶を守る結界ごと緋色の炎で焼き殺した──
◇◇◆◆◇◇
「ああ、やられたか」
「どうしました?」
深淵教団の一室に二人の男女がいた。
男の方は紫色の袴を着た老人で、翁のような顔をしており、女の方は赤い髪をしていた。
「わしの分体がやられたみたいだ」
「おや、貴方を倒すなんて、朝霧でしょうかね?」
「さあな、分体の情報はわからない。ただ、これ以上魂を削るのもまずいからな、しばらくは他の分体も本体《俺》に戻しておく」
その男こそ【魂の魔眼】龍岳であった──




