【眼】
少し前、理飛と談笑していた時、昏の髪と目の色が突然変化した。
驚いた理飛は思わず叫び声を上げた。
昏の髪は銀色で、風になびくと虹色の光の粒が舞うように見えた。
彼女の右目は赫色、左目は蒼色をしている。
「ええ、その髪と目の色が地毛なのか?」
理飛は驚いて立ち上がって机を叩いた。
「そうなの。お姉ちゃんに髪と目の色を変える魔術をかけて貰ってたんだけど、効果が切れちゃったみたい。一年くらいはもつはずなんだけどなー」
「時空流に呑まれた影響かもな」
昏は、昔は容姿の違いからイジメの被害に遭っていた。智也はいじめっ子と喧嘩になってよくボコボコにされていた。
それでも、いじめっ子を追い払ってニヤリと笑う智也が、昏には支えとなっていた。
智也が尋ねた。
「理飛、昏の左目は何色に見える?」
「え......虹色?」
「理飛には、そう見えるのか。僕には蒼色に見える」
昏の左目は不思議な特徴があった。
見る人によって色が変わるのだ。
ある人は蒼、ある人は赤、ある人は色が見えないこともあった。
(......待てよ、僕には昏の左目が「蒼』に見える。これは僕の"魂の色"と同じなんじゃ無いか? だとしたら、理飛の言った『虹色』って......)
「綺麗な髪と目だな、すげえ!」
理飛は純粋に目を輝かせて憧れの視線を向けていた。
(考え過ぎか......?)
そこに黒戸様がやって来た。
「あれ、色が元に戻っているね」
昏は元の髪と目の色を知っていることに驚いた。
「え、知ってたんですか!?」
「ちなみに、楓には昏の左目は何色に見えるんだ?」
「......赫色だよ」
楓が昏に向けて手をかざすと、魔術陣が瞬時に展開されて髪と目の色が黒色に変わった。
「これ、お姉ちゃんが作った魔術のはず......」
昏は目を丸くしていた。
「まあ、細かいことは言い。とりあえず今日はゆっくり休んで、夕方になったら、君たちを向こうに戻す」
そして、二人は夕方まで休み、ついにその時が来た。日が暮れ始め、空が黄昏色に染まる。
神社までの階段を登ってくる足音が聞こえた。やがて、足音の主が姿を現した。
それは昨日会った、銀だった。
銀は黒戸様に鍵を見せた。
「鍵、持って来たぞ」
黒戸様は今まで見たことないような笑顔を見せた。
「ありがとう。やっぱり、こうやってたまには顔を出してもらわないとね」
黒戸様が祝詞を唱えて鍵に魔力を込めると、鍵が白い光を放ち、鳥居の中に吸い込まれた。
その瞬間、眩しい閃光が辺りを包み、鳥居の境界には黒いゲートが発生していた。
「それじゃあ、ここでさよならだ。彩島智也」
「......ありがとう。必ず、計画を成し遂げてみせるよ」
「残念だが、私は、おそらくもう君に声をかけることは出来ないだろう。だから、ここからは君が頑張るしかない」
「......わかった」
黒戸様は少し寂しそうな智也の目を真剣な表情で見つめた。
「確かに、君には未来を変える力がある。それでも、たった一人の人間に出来ることなんて少ししか無い。だから、仲間を頼りなさい。君は一人では無いのだから」
「......助言ありがとう。そうさせてもらうよ」
「みなさん、ありがとうございました」
昏は深々と頭を下げた。
「二条昏、君に課せられた宿命は重い。けれど、君にしか出来ないことだ。最期の結末に、君が笑っていることを願うよ」
二人は最後に全員に手を振り、鳥居の境界に足を踏み込んだ───
二人の姿が消え、辺りは静けさに包まれた。
血のように赤い夕暮れ、逢魔時がやって来る。
「............やっぱりか」
黒戸様の背後には巨大な【眼】が現れていた。
普段は見えないはずの銀と理飛にも、その【眼】だけは見えた。
【眼】は何かの魔術陣のようにも見える形をしていて、赫い光を放っている。
突如、黒戸様の目から血が溢れ、口から血が吹き出た。
ゴホゴホと苦しそうに咳を出し、黒戸様は地面に片膝をついた。
「次ハ、無イゾ」
その言葉と共に、【眼】は消え去った──




