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23 騎士ガールの敗北

 エルネスティは、ヘンリッキとカールロたちにヤキモチをやかされたことに気が付き、一通り大笑いして、大きく深呼吸した。


 エルネスティは仕切り直すために、メイドにお茶を入れ直してもらった。二人でお茶を口にする。いい香りが広がり、心が和む。


「プッ!ねぇ、イリナ、僕がイリナに挑む時、なんていうか覚えてる?」


 エルネスティは、自分の姿を思い出して、少し吹き出し笑いしていた。今考えると恥ずかしい。


「『イリナ・ハールシス侯爵令嬢、君に決闘を申し込む!私と剣で勝負をして、私が勝ったら私の願いを聞いてもらう!』だったかな?

初めて言われた時は、びっくりしたわ。ふふふ」


 イリナは、10歳のエルネスティを思い出して、ついつい笑顔になった。とても凛々しい男の子で、イリナに挑んできた目は真剣であった。それは、最近もかわらない。イリナに、挑んでくるとき、エルネスティはいつも真剣だ。でも、あの初々しい姿を思い出すと破顔してしまう。

 

「ふふふ、うん、そうだね、イリナもよく覚えているなぁ。『剣』はイリナの得意なことだろう?」


「そうよ」


 イリナは自信を持ってそうだと言えた。イリナはそんな自分が誇らしいし、これからも剣で『王国を守る立場』にいたいと思っている。


「一度だけでいいんだ。僕の得意なことで挑ませてもらえないかな?」


 エルネスティが右手で『1』を表し、片目を瞑って強調する。


「ふふ、なぁに、それ?ふふふ、もちろんいいわよ」


 エルネスティのその表情がとてもお茶目に見えて、イリナは口に手を当てて笑った。


「じゃあ、いくよ」


 笑顔のイリナに対して、エルネスティは真剣な表情だった。エルネスティは、深呼吸する。


「イリナ・ハールシス侯爵令嬢、君に決闘を申し込む!私と『灌漑設備の知識』で勝負をして、私が勝ったら私の願いを聞いてもらう!」


「え?」


 イリナは、聞きなれない言葉に目をしばたかせた。


「イリナ、受けてくれるの?くれないの?」


 エルネスティが、身を乗り出してイリナの返事を急かした。


「あ、そうね。

エルネスティ王子殿下、もちろん、よろしいですわ。では、参りますよ」


 ………受けたはいいが、イリナは止まった。



「えっと、お先にどうぞ………」


 イリナは手のひらを上にして、エルネスティを先へと促した。


「うん、では、先に」


 エルネスティは持ってきた紙束の一枚を広げた。


「これを見て」


 イリナは、その紙を身を乗り出して見た。

 エルネスティが、イリナに見せたのは、エルネスティの字で書かれたものだった。絵が細かく書かれていて、それに対する詳細なメモもあちらこちらに書かれていた。


「これはね、風車っていうんだよ。風の力で深いところから水を汲めるんだ。汲んだ水を水路に流して、小麦畑で使えるようにしたいんだ。


で、これは貯水池ね。貯水池に水門をつけて、水路にする。雨の降る季節は水門を閉めておけば、雨の降らない季節でも野菜を育てられるよね。


で、これはね…」


 エルネスティは、次々と紙をめくっては、イリナに説明していく。イリナは、最初はその紙を見ていたが、今はエルネスティの顔をポッー

と見ていた。真剣な眼差し。それなのに、楽しそうで、前向きなのがよくわかる。


「ステキだなぁ」


 頭を空っぽにしてエルネスティを見ていたイリナは、心に浮かんだことを口に出してしまった。慌てて口を抑えるが、声が小さかったことと、エルネスティが説明に真剣だったことで、エルネスティには聞こえていなかった。イリナはホッとした。

 イリナは、気持ちを切り替えた。


「エルス、ごめんね。今の私には難しいわ。エルスはどこでこんな勉強をしたの?」


「イリナが学園にいない間、僕も北の国に6月から半年ほど視察留学してきたんだ。北の国は我が国より気候が厳しくてね。その中でどうやって食料維持をしているのかを見てきたよ。水路や水門など、我が国でも充分結果を出しそうなことを沢山学んできたんだよ」


 エルネスティは、嬉しそうにイリナに報告した。イリナは、先程までの説明が農業に関する話だと理解して、とてもうれしくなった。


「エルス!すごいわ!農業の発展は私の夢の1つだもの」


「うん、学園に入る前から、イリナはそう言っていたよね。僕はそれに刺激されたんだ。でも、イリナだって、『今の私には』って言ったじゃないか。これについて、ちゃんと勉強してみたいってことだろう?」


 エルネスティがイリナにウィンクをする。イリナは、そんな小さな言葉をキチンと聞き、イリナの気持ちをわかってくれたことに心が温かくなった。


「そうね。私も知りたいなって思ったわ。そして、どのように使っていくか、考えたいわ」


 イリナは、それを考えている自分を想像した。そして、想像では、自分の隣にエルネスティがいた。イリナは、あまりにも図々しい自分の想像に苦笑いした。


「了解!一緒にやろうね!」


 エルネスティが当たり前のように『一緒に』と言ったことに、イリナはびっくりして、固まった。心を読まれたと思ってドキドキした。

 そんなイリナの気持ちを知らないエルネスティは、勝負の続きを再開した。


「よし、じゃあ、イリナの番だよ!どうぞ!」


 エルネスティは姿勢を正して、笑顔で手を出し、イリナを促した。イリナはふっと小さく息を吐いて気持ちを落ち着けた。


「もう、意地悪ね。参りました」


 イリナは笑顔のまま、ちょこんと頭を下げた。


「この勝負、エルネスティ王子殿下の勝ちよ」


 イリナは困ったというように言っているが、目はとても優しげで口角も少し上がっていて、負けたのに喜んでいるのは一目瞭然だった。


「本当に?じゃあ、

『イリナ・ハールシス侯爵令嬢、私が勝った。私の願いを聞いてもらう!』

いいかい?」


 エルネスティは、まだ不安気に確認をとる。


「クスクス、いいわよ」


 エルネスティが大きく深呼吸して、立ち上がり、イリナの隣に立つ。


 そして、イリナの足元に跪いて、椅子に座るイリナの右手をエルネスティの右手でとる。イリナはそれだけでドキドキして固まってしまっていた。


「イリナ・ハールシス侯爵令嬢、私、エルネスティ・テルヴァハリユと結婚してほしい」



 

 時が止まったかのように二人は動かない。と、イリナの瞳から涙が溢れた。


 エルネスティはびっくりして、イリナの手を握ったまま立ち上がった。右手はそのままで、左手をイリナの肩に置いて、顔を覗き込む。


「え?イリナ、そんなに嫌だったの?僕が嫌なの?それとも勝負がダメ?あ、泣かないで。ねぇ、イリナ?」


 イリナは、首を振って泣いているだけなので、エルネスティはどうしていいかわからない。慌てたメイドが冷たい飲み物や冷たいタオルを持ってきてくれた。


 その間にみんなが集まってきた。慌てたメイドが呼びに行ったようだ。こんなに早く集まるとは、二人のことが心配でどこかで待機していたのだろう。


 オイビィは心配そうに、クリスタは楽しげにイリナを慰めている。

 ヘンリッキがエルネスティを問い詰め、カールロがヘンリッキを宥めている。

 アルットゥとマーリアは、それをニコニコと眺めていた。


〰️ 


 イリナがやっと、落ち着いたようだ。


「イリナ、真剣なお言葉には、真剣な言葉で返さないと失礼ですわよ。貴女がどんな気持ちであっても、真剣な言葉で応えなさいな」


 クリスタの一言で、みんな、その場を解散した。クリスタは、イリナの気持ちを知っているのに、エルネスティに少し意地悪をしていく。


 みんながいなくなって、メイドがお茶を入れ直し、今度は部屋から退室してくれた。さすが、王宮メイド。


 エルネスティがお茶を口に運ぶとそれに合わせるようにイリナもお茶をいただいた。上の者にさりげなく合わせるテクニックは、いつの間にか、イリナに備わっていた。備わせた者がいるのだが、イリナはそうとはわかっていない。


 エルネスティがゆっくりとカップをテーブルに戻した。


「あのね、イリナ」


 エルネスティが姿勢を正して、隣にいるイリナの方へ膝を向けた。


「はい」


 イリナもそれにならって、膝を向けた。二人は至近距離で見つめ合っている。


「僕は、最初に君に挑んだあの頃からずっと勝ったら君にこの願いを言おうって決めていたんだ」


「え!?」


 イリナは両手を口に当てた。また涙が出そうだった。イリナはエルネスティの気持ちがそんな前からだなんて知らなかった。だが、今までエルネスティがかけてくれた優しい言葉が次々と蘇る。


「僕は君に剣で勝てないと、君を幸せにできないって思い込んでいたんだよね。でも、ヘンリッキに、自分の得意なことでイリナにアピールしろって言われてさ。頭を冷やしたんだ。

いろいろ悩んだんだけど、イリナの夢を1つ叶えられそうなことでアピールすることにしたんだよ」


 エルネスティは、今にも泣きそうに見えるほど真剣な顔だった。


「うん。ありがとう」


 イリナはまた目に涙が溜まっていた。


「僕のせいで、イリナに嫌な思いをさせていたんじゃないかって、思ってる」


 エルネスティは少し視線を下げてしまった。イリナは慌てて、エルネスティの腕に手をのせた。


「そんなことないわ!」


 エルネスティがイリナの目をみた。今度はイリナが視線を下げてしまった。


「ううん、エルスのせいではないけど、私の思い込みで嫌な思いをしていたこともあったわ」


「僕が早くちゃんとしていればよかったんだ」


 エルネスティがさらに自分の手をイリナの手に重ねた。


「違うわ。私が早く自分の気持ちに気が付いていればよかったのよ」


 言い募るうちに、二人は自然に目を合わせた。エルネスティが優しい目でイリナを見つめる。お互いに言い合っていることに、二人で微笑した。もう、そんな言い合いはいらないと二人とも感じた。


「イリナ、僕のお嫁さんになって。それが僕が君に聞いてほしい願いなんだ」


 イリナより大きい体になったのに、体を小さくさせて、上目遣いでイリナを乞うように見つめていた。

 イリナの目から、とうとう涙が溢れた。


「勉強はしてきたけどね、まだ何も始められてないし、勉強してきたことすべてが使えるわけじゃない。君にも知ってもらって、一緒に考えてほしいんだ。学園に入る前のように、一緒に歩んでいきたい。

君もさっきは、勉強したいって思ってくれたろう?

イリナ、どうかな?」


 エルネスティが、少しだけ不安そうにイリナの目を見つめた。

 先程とは違い、今度はイリナがしっかりと応える。


「エルネスティ王子殿下。その願い、お受けします。私も一緒に歩いていきたいの。よろしくお願いします」


「イリナ!」


 エルネスティは立ち上がり、イリナの肩を抱いて立ち上がらせた。そして、寄り添い抱きしめた。


「イリナ、大好きだよ。ずっとずっと大好きだったんだ」


「エルス、私も、ずっと貴方が大好きだわ」


 エルネスティは、イリナの目元に口づけし、唇に軽く口づけした。

 イリナは、エルネスティの胸に寄り添った。


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