22 騎士ガールの夢
2日前に遡る。ヘンリッキ、カールロ、オイビィ、クリスタがヘンリッキの部屋に集まっている。
「エルスが、『今更どう切り出していいのかわからん。』と言ってるんだよ」
ヘンリッキは、女性二人に相談した。
「え!まだそんなヘタレですの?信じられませんわ」
クリスタは目を見開いてびっくりしていた。
「クリスタ、もう少し、エルスに優しくしてやってくれ」
カールロは、自分の主人たるエルネスティと妻になるクリスタとの間で悩みが多かった。
「ご本人に申し上げておりませんもの。充分に優しいですわっ!」
クリスタはエルネスティを庇うカールロを睨んだ。
「クリスタは、イリナが大好きですものね。ふふふ」
オイビィは、仲の良いと噂の二人をこうして見れてワクワクしてきていた。
「そうですわよ。ですから、王子であっても、イリナを泣かせることは許しませんわ!」
誰もがクリスタは現在最強な気がしていた。ヘンリッキでさえも苦笑いだ。
「泣かせたくないから、ここまで拗れたんだろうけどね」
ヘンリッキが苦笑いのまま、小さなため息をついた。
「とにかく、二人の気持ちが固まっているんだ。誰かが背中を押せばいいだけだろ?」
カールロは、男女の機微など関係なく、スパッとさせたいタイプだ。だからこそなんでこんなことになっているのかわからずに困り顔なのだ。
「あら、どうせなら、イリナからではなく、エルネスティ王子殿下からの方が、後々に幸せなお話になりますわ」
オイビィは、当然だと言いたげにクリスタに、「ねぇ」と小首を傾げて同意を求めれば、クリスタもすまし顔で頷いた。女性にとっては当然のことらしい。
「結果が同じなのに、かい?」
ヘンリッキの質問に、カールロも『ウンウン』と頷いている。意見が、男女に分かれた。
「ふふふ、ヘンリッキ様、ご自分はどうでしたの?」
クリスタは、何も見ていないのに、オイビィの考えから、ヘンリッキがどうしたのかを予測できた。確かにオイビィの言葉の意味がわからずに、家へ呼んで、ダンスをして、あまつさえ、その日にプロポーズまでした。オイビィと母親の手のひらの上で。
「っっ!クリスタさんは魔女なのかい?」
「女には女の夢があるってことですわ」
クリスタはふふんと目を細め、口角をあげてヘンリッキを見た。
「確かにイリナは、ああ見えて女であることを大切にしているところがあるからな」
カールロの大人な発言に3人は目を見開いてしまった。
「カールロにそう言われると、僕の方が負けている気持ちになるのはなぜだろうな」
ヘンリッキは片手で顔を半分隠して小さく項垂れた。
「ヘンリッキ様はわたくしの気持ちをわかっていてくれれば、それだけでよろしいのですわ」
それを聞いたヘンリッキは、「何もわからずに母親に頼りました」とは言えず、さらに項垂れてしまった。
「まあ、オイビィったら、ここで惚気ですのね。婚約したばかりだとお熱いわ」
「クリスタこそ、もう何年も婚約者なのに、お熱いではありませんか。ふふふ、わたくしたちもそうありたいわ」
「オイビィ、いつでも、わたくしの片思いですわ。ね、カールロ様」
クリスタは1年前に泣いていたのが自分だけだったことを未だに気にしていた。そして、こうしてこの国まで来たことも、少しだけやりすぎたと思っていたのだ。
「そ、そんなことはないっ!俺だって!!
来てくれて飛び上がるほど嬉しかったのに……」
カールロが真っ赤になって、言い募る。カールロは、クリスタが自分ではなくイリナに抱きついたことをまだ気にしていた。クリスタは満足そうに笑顔になった。
「カールロ、お前、クリスタさんの手のひらだな」
カールロは、ヘンリッキをチラリと睨んだ。
「「ふふふ」」
女の子たちは嬉しそうだ。
「とにかく、エルスだよ。どうしようか?」
ヘンリッキが話を戻した。
「今まで、エルネスティ王子殿下がイリナのことで慌てたりすることはございましたの?」
クリスタは、この中では1番エルネスティとの接点が少ないので、あまり知らないようだ。
「ん?あー、アルットゥ王子殿下にヤキモチやいて、生徒会室の集合止めたりしたな」
ヘンリッキは、苦笑いして説明した。
「あ、あれってそういう意味だったのか!エルスも大概だな」
カールロにも覚えがあって、呆れるとばかりに両手を脇で広げてみせた。
「さらにあの小細工が失敗して、イリナと余計に離れるハメになったんだ。イリナのこととなると、ヘタレとは、情けない」
ヘンリッキとカールロは、また小さなため息をついた。エルネスティのヘタレは二人にとって悩みの種だ。
「つまり、エルネスティ王子殿下にヤキモチをやかせればいいのですわね。それでしたら、良い方を知ってますわ。イリナにも、その方を紹介してほしいと頼まれておりますの」
オイビィは、満面の笑みであった。
「へぇ、どなたなんだい?」
「女性近衛騎士団をお作りになったタービオ・ヒラカリ隊長様ですのよ。彼なら大変美丈夫ですし、奥様もいらっしゃるので安心ですわ。後は、ニーロ師範様ですわね。ニーロ様は、女性近衛騎士団の専属師範様ですの。女性ならではの剣技を研究なさっているのですわ。奥様は、女性近衛騎士団で1番お強いんですのよ」
「それは、いい案ですわね。お茶会でもしていただいて、それをエルネスティ王子殿下に見せましょう」
クリスタはノリノリだ。
「アルットゥの執務室から中庭が見えますのよ。そこからお見せすれば、声は聞こえませんわ」
オイビィもクリスタもすでに成功すると確信するかのようにクスクスと笑っていた。
「なら、明後日だな。僕たちは交換留学の話を詰めることになっているんだ」
ヘンリッキは手帳を広げて予定を確認した。
「でも、イリナは人気者なんだぜ。『舞姫』って呼ばれてる。お茶会が噂になったら、殺到しないか?」
カールロは、友達の一人にでもそのお茶会を知られたら大変だと大慌てだ。
「そうですのよ。わたくしも何人かに頼まれておりますの。口の硬いメイドに担当させますわ」
オイビィならきっちりやってくれそうだと、3人は任せることにした。
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そして2日後の中庭。
「私はオイビィ王女殿下にこちらに来るように言われました、タービオ・ヒラカリと申します。騎士団隊長を努めております。本日は、少しお話をさせていただきたく存じます」
騎士然とした凛々しい男性がイリナに頭を下げて挨拶をした。
「貴方がタービオ様ですか。よろしくお願いしますっ!」
イリナは、どうしても会いたかった方だったので、少し興奮していた。
「わざわざおいでいただいてありがとうございます。女性近衛騎士団の設立についてお話をお聞きしたくて、オイビィ王女殿下にお願いしましたの」
「そうでしたか。私も『舞姫』様とお話をしてみたかったので、嬉しかったです」
「ふふ、みんな大袈裟なんですよ」
「今度、是非お手合わせをお願いします」
「はい!是非とも。どうぞお座りになって」
イリナが笑顔で自分の向かい側の席を示した。
「失礼いたします」
タービオが軽く会釈をして、座った。 イリナとタービオの楽しいお茶会が始まった。
「それで、女性近衛騎士団なのですが、隊長が男性であるタービオ様であることには、驚きました」
イリナは早速本題に迫った。交渉は世間話からとよく言われるし、イリナも社会学で習ったはずだが、興奮しすぎて、余裕はなかった。
「まだ設立して2年です。任せられる女性がいないというのが現状ですね。まだみんな自分に一生懸命で、まとめるという余裕がないのです。でも、あと数年すれば任せられると考えています。元々、騎士団には数名の女性騎士がいましたので、彼女たちに期待しているところです」
タービオは、真面目に答えてくれる。イリナはメイドが用意してくれた紙にメモをとる。
「タービオ様の奥様も女性近衛騎士団だと聞きましたけど」
イリナはイタズラするような顔で訪ねてみた。女性騎士がどのような縁があるのかは、気になるところだった。
「ハハ、そうですね。彼女は、女性近衛騎士団を設立させるきっかけになった人なんです。でも、彼女は武術は何もできませんでした」
「どういうことですか?」
これにはイリナは驚いた。鍛錬場など騎士たちが男女問わず集まる場所での出会いだとおもっていたからだ。
「彼女は、王妃殿下のメイドでした。王妃殿下が他国に外交に赴いた際、野盗に襲われました。護衛はしっかりしていたので、事なきは得たのですが、王妃殿下の馬車のドアを開けると、彼女が王妃殿下に被さっており、他のメイドは、隅で震えておりました。その時、馬車内にいる者が皆、丸腰であったことに気がついたのです」
イリナはその女性の勇気に感心していた。やるようにと指導されても、なかなかできるものでもないのに、一般のメイドにその気概があるとは恐れ入る。
「被さっているとは、勇気のいることですね。まず狙いは王妃殿下のはずですから」
「そうなのです。私は、その勇気に惚れまして、彼女を一生懸命口説きました。頷いてくれるまで、一年かかりました。ハハ」
「ふふ、ごちそうさまです」
話を聞いただけのイリナでも感心している出来事なのだ。目の前で見たタービオがその女性に魅せられるのは納得だ。イリナはからかいながらも、そんな出会いが羨ましいと思った。
「あっと、失礼。そんなつもりでは。ハハ。
口説けたはいいですが、その条件が彼女を女性近衛騎士団に入れることだったのですよ。入団する実力がつくまで、僕が指導することになりましたし、それまでは婚約もしてもらえませんでした」
「ふふふ、それは大変でしたわね。でも、そこまでして王家を守るおつもりの奥様ですのね。素敵な奥様ですわ」
「ありがとうございます」
タービオが頭をかいて照れていた。
「ともかく、中の者が騎士訓練を受けた者なら、最悪、王妃殿下を馬に乗せて逃げることも可能なわけです。また、宿などの部屋に同席できたり、レストルームにも同席できますので、護衛に女性は必要だと思われました」
必要性については、イリナも同意見なので、強く頷いた。
「以前は王妃殿下や王女殿下が外交や地方へ公務に行かれることは少なかったと父から聞いておりますが、こちらの国はどうですか?」
「そうなのです。馬車も揺れがひどかったり、耐久性がなかったりしていました。地方の治安も不安がありましたし、街道事情もよくなかった。それらの問題が減ってきたことで、女性王族の方の活躍が増えたのです。
それは良いことなのですが、騎士団がそれに追いついていなかった。近衛として王妃殿下には何度もお供していたにも関わらず、あの事件が起きるまで考えもしていなかったのです」
タービオは、腕を組んで真面目な表情だった。
「何でも先を見据えるなど、不可能ですわ。気がついた時が大切だと思いますわ。それに、我が国は更に2年遅れているということですもの。タービオ様のお考えは素晴らしいです」
「ですが、やってみたものの、やはり、男と女では剣技を変えなければ、みなに浸透させることは難しいようです。午後からニーロ師範殿にお会いになるとか」
タービオの表情が和らいだ。ニーロは、そういう表情をさせる御仁であるのだろう。
「あ、私は聞いていないのですが、オイビィ王女殿下が手配してくれているのかもしれません」
「ニーロ師範殿も、『舞姫』様のスピードを使った剣技に興味を持たれておいででした。是非、お話をしてみてください」
それから、女性近衛騎士団の認知についてや、辺境伯からの女性が多いこと、イリナが今の剣技に辿り着いた話など、二人の話は尽きることがなかった。
「とにかく、始めてみないことには、改善点も見つけられません。机上ではわからないことはたくさんあります。10年後、やってよかったと、思えればいいと思ってやっています」
タービオは、今はまだ途中なのだと言っていた。
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ヘンリッキたちの作戦では、ヘンリッキが窓際にエルネスティを呼ぶことになっていたのだが、何も知らないアルットゥがエルネスティを呼ぶ役になったため、自然さが増し、エルネスティがまんまと作戦に引っかかることとなった。アルットゥの煽りの一言も強烈だった。
上から見ただけのエルネスティには、ずいぶん楽しそうに見えたことだろう。実際、イリナにとっては、とても楽しく、とてもためになるお茶会であった。
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