20 騎士ガールの自覚
夜会の夜、東屋でのエルネスティとイリナに話を戻そう。
なんとか、ヘンリッキとオイビィのことを理解したイリナを見て、エルネスティは今日はここまでにしておこうと、判断した。
「そろそろ、会場へ戻った方がよさそうだね。行こう」
イリナをエスコートし、会場へ戻った。イリナを心配していたクリスタに、イリナを預け、エルネスティはヘンリッキとカールロとヨエルを連れて、他国の来賓に挨拶へ、行った。
「イリナ、大丈夫?どうしましたの?」
クリスタはいつの間にかいなくなっていたエルネスティとイリナの心配をずっとしていた。ヨエルから大丈夫だとは言われたが、それでも心配でしかたかなかったので、エルネスティと現れたときに、普通であったイリナを見て、ホッとしていた。
「ねえ、クリスタ。ヘンリッキとオイビィ王女殿下が恋人だったって知ってた?」
イリナは、悩まし気な顔でクリスタの耳元で話を始めた。
「そうですわね。カールロ様から聞いておりましたし、お二人でランチをなさっているところも何度か見ましたわよ。それはそれは、仲睦まじい様子でしたわ」
クリスタにはイリナの質問の意味が全く理解できなかった。ヘンリッキとオイビィの恋物語は、学園では有名な話だった。
「昼休み、ね。私はカールロと鍛錬していたもの。生徒会室には行かなかったし。
ふぅ。そっか。クリスタが言うなら間違いないわね」
ブツブツと呟くイリナがコクコクと頷いたりしているので、クリスタは大丈夫と判断した。
「納得できましたの?それならよかったですわ」
「ち、違うのよ、クリスタ!私、大変なことをわかってしまって、どうしたらいいかわからないの」
イリナが自分より小さな体のクリスタの袖を引っ張って、縋るような顔をした。
「わかったのに、わからないのですの?
あ!エルネスティ王子殿下へのお気持ちを自覚なされたのですわね!ふふふ、良かったではありませんか」
クリスタは、扇で顔を隠して笑顔になった。その笑顔を隠さなかったら、何人の男どもが群がるか予想もつかない。
「よくないわ。私って、嫉妬深い女だったってことでしょ。それも、エルスは私のことを側近ぐらいにしか思ってないのに。片思いで嫉妬深いなんて、最低だわ」
イリナは頭を抱えて小さくなろうとしかたが、さすが侯爵令嬢だここに座り込んではならないと本能で留まった。
「まあ!いつの間にか、愛称呼びに戻ってますのね。クスクス。カールロ様も、イリナの『王子殿下』呼びは、気にしていらっしゃいましたから、よかったですわ」
クリスタは聖母のような微笑みでイリナのことを喜んだ。
「あ、これは、そう、やっぱりまずいわ。私、慌てると公私が混同しちゃうのよ。やっぱり、王子殿下と呼ぶべきだわ」
イリナは半端にパニックをおこしていた。
「あらあら、わたくしに対して『私』だと思ってくださっているのでしょう。イリナは、公私混同などしておりませんわ。大丈夫ですわよ。それにしても、どうやってご自分のお気持ちに気が付かれたのです?」
イリナは、オイビィのことを応援していたこと、それが誤解の応援だったことなどを話した。
「あらやだっ、ふふふ。イリナ様ったらそんな風に思ってらしたの?それなのに、適切にアドバイスしてくださっていたなんて、不思議ですわね。ふふふ」
後ろから声をかけられて二人はびっくりした。そっと後ろを振り返る。
「「っっ!オイビィ王女殿下!」」
イリナとクリスタは、目を丸くした。二人はとても近くで少し下向きで、夢中で話していたので、オイビィが近くに来たことに気が付かなかったのだ。オイビィが、わざと気配を消して近づいていったことも理由である。
「クリスタ様、ずっとお話したかったのです。オイビィです。近く、そちらに嫁ぐことになりましたので、仲良くしてくださいませね」
美しい二人が、挨拶をし合う姿は眼福であり、注目はされているが、話を聞けるほど近くに寄れる勇者はいない。
「いえ、こちらこそよろしくお願いいたしますわ、オイビィ王女殿下」
「もうすぐ、王女でなはなくなるのです。王女呼びに慣れてしまう前に、敬称をなしでお願いいたしますわ」
二人は笑顔は社交のままで、なかなか際どい話を普通にしていた。
「わかりましたわ。では、この三人のときには、オイビィでよろしいですか?わたくしのこともクリスタでよろしくてよ」
「まあ、嬉しい!イリナ様もオイビィとお呼びくださいませね」
「え、あ、そのうちに、ハハハ」
「イリナは、そういうところは頭が硬いのですわ。そうそう、オイビィ、後で、イリナとのお話聞かせてくださいませね。チグハグなのに伝わっていたなんて奇跡、知りたくてしかたありませんわ。ホホホ」
「いいですわよ。明日にでも、お茶をいたしましょう。お昼の後で。イリナも絶対にいらしてね」
「私の話をするのに、私も行くの?」
イリナも社交として、口調はへの字口風だが、しっかりと笑顔は貼り付けてあった。
「当たり前ですわ。その後、エルネスティ王子殿下について、作戦会議をしますわよ」
「あら?エルネスティ王子殿下のお気持ちなら知って…」
クリスタがオイビィの口を抑える。そして、耳元で呟く。
「オイビィ、それじゃぁ、つまらないですわよ」
『コクンコクン』
「では、明日、中庭に用意してお待ちしておりますわね」
オイビィは、小さく会釈をして、他のところへ挨拶に行った。
「ふふ、オイビィが我が国にいらっしゃったら、楽しくなりますわね」
クリスタがイリナの隣に立ってオイビィの背中を見送った。
「そうだね……。あ!私の野望がっ!」
「どうしましたの?イリナの野望ってなんですの?」
『野望』などという言葉を使いながらも、顔は笑顔のままだ。
「オイビィ王女殿下の女性近衛騎士団」
イリナも夢破れても、今日は笑顔でいる。
「もう!それは、オイビィが相手でなくてもできますでしょ。わたくしも応援しますわ。カールロ様のお父上でしたら、騎士になりたい女性をご存知でしょうし。帰国しましたら、話し合いをいたしましょう」
「クリスタ!大好きよっ!」
イリナがクリスタの袖をクイックイッと引っ張った。
「はいはい。それをかの人にも素直に言えるようになりましょうね」
クリスタがイリナの背中をポンポンとした。
他国との挨拶を終えたエルネスティたちがイリナたちの元へ戻ってきた頃には、イリナはなんとか誤魔化せる程度には冷静になっていた。
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そして翌日のお茶会。
「まあ、そんな風にお話が成り立っていたなんて、本当に奇跡ですわね。ほほほ」
「わたくしも、ヘンリ様とお名前を出すことはまだはばかられておりましたので。それにしても、ふふふ。わたくし、イリナのライバルでしたのね」
3人の淑女は楽しくお茶をしていた。二人はずっと笑っているが、一人は渋顔であった。昨日と違い、笑顔を貼り付けている必要は感じていないくらい、二人のことを友人だと思っている。
「まさか、とんでもございません。ライバルと思っていないから、アドバイスしたんです」
イリナは渋顔で答えた。
「まあ、なのにヤキモチですの?ほほほ!
オイビィ、文化祭からのイリナの様子をご存知かしら?」
クリスタは、イリナをからかい、さらにからかうネタをオイビィに振る。
「もう、もう!私の話は終わりよっ!」
ネタ振りに気がついたイリナは二人の間を大きく手を振って、中止させた。
「クリスタ、それはまた後で教えてくださいませね」
オイビィが可愛らしくクリスタにお強請りした。
「そうですわね、ふふふ。ところで、イリナ、エルネスティ王子殿下とどんなお話になっていらっしゃいますの?」
「どんなって、去年から、エルスは私に挑んで来なくなったんだけど、『武術で勝つよりも、将来の国王として、役に立つ者になろうと思っている』とか」
イリナは宙を見ながら一生懸命に思い出そうとひていた。
「お待ちになって、それは誰の『役に立つ』ですの?」
クリスタは前のめりになった。
「え?国民でしょ?」
「そこですわ!まず、誰に武術で勝つことを諦めましたの?」
オイビィもイリナに詰め寄る。
「私…かな」
「ですわよね。オイビィったら、鋭いですわ。では、イリナ、それと比べているのだから、誰の役に立ちたいとおっしゃっているのかしら?」
クリスタは今度は少し胸を張って質問した。
「え?え?まさか…わ?た?し?」
イリナは自分を指差して固まる。
「それから、なんて言われましたの?」
「『私はこの国で君を待っている。必ず帰ってきてほしい。』かな?」
「まあ!カールロ様はそんなこと言われてませんわよぉ!イリナだからですわねぇ。それで、イリナはなんて応えましたの?」
クリスタは、同じく留学したカールロを引き合いに出してきた。
「『はい!必ず帰ってきて、王立騎士団の成長に役に立ちたいと思います!』って答えたわ」
「「えーー!なんですの、それ?」」
クリスタとオイビィは、肩を落としてがっくりする。
「ねぇ、イリナ。昨日の貴女のドレス、ステキでしたわね。思い出してごらんになって」
オイビィは強引に導くことにした。
「まあ!オイビィ、それにも気が付いていたの?」
クリスタはオイビィと自分に同族の匂いを感じてご満悦だ。
「あれで気が付かないのは、イリナだけですわよ」
オイビィもクリスタに含み笑いをしてみせる。
「え?何?う、うん、思い出したわ」
イリナだけが蚊帳の外。いや、檻の中だ。
「じゃあ、エルネスティ王子殿下の昨日のお姿を思い出してみてごらんなさい」
ボン!何も思い出してないのに、エルネスティの顔を想像しただけで、イリナがショートした。
「クリスタ、これ、お話は進みますの?」
オイビィが、イリナに視線を向けたまま、眉根を寄せてクリスタに寄った。
「ね、オイビィ、楽しいでしょう。ふふふ。イリナ、ゆっくりいくわよ。エルネスティ王子殿下のお靴からいきましょうか」
クリスタは本当に楽しそうに笑った。そして、いつもの慈愛の笑顔でイリナを導く。
イリナは、エルネスティの顔から離れたら、少しはましになった。
「おズボンは、グレーでしたわね。もう少し上がって、黒の燕尾服でしたわ。はい、上がって、そこでストップですわ!何色のカマーベルトでいらしたかしら?」
「あ、青かな?」
「正解ですわ、イリナ!クリスタ、すごいですわね」
オイビィは、クリスタのイリナ扱いに感動していた。クリスタもオイビィに褒められてご満悦で続ける。
「ふふ。じゃあ、イリナ、もう少し上がってぇ。白いワイシャツにぃ、そこでストップですわ。何色のクロスタイでいらしたかしら?」
「あ、青かな?」
オイビィまでワクワクしてきて、クリスタの真似をしてみた。
「正解ですわ!イリナ、そのまま横へ動いて、ポケットチーフは、何色でいらしたかしら?」
「あ、青ね」
イリナはゆっくりとエルネスティの姿を思い出していった。
「「イリナの昨日のドレスは何色?」」
ボン!気がついたイリナは再びショートした。
ドレスは、テルヴァハリユ王国から、エルネスティが用意して持ってきたものだった。露骨ではないものの、見る人が見ればわかるくらいの独占欲が現れていた。
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