15 ヘタレ王子の奮闘
ヘンリッキから報告をもらった翌日、イリナに生徒会室へ来てもらった。ヘンリッキが言っていたことを確認する。
「あれだ、ヘンリッキから、その、男子生徒と市井などに行くと聞いたが…その…」
本当のことを聞きたいような聞きたくないような。
「ヘンリッキ殿が心配するので、出かけるのは止めようと思っています。まあ、これから先、誘われるのかさえも疑問なところですが」
イリナは自虐的に笑った。
誘われるに決まっている。僕も誘いたいくらいだぞ。それにしてもヘンリッキ、止めてくれていたのか。昨日はそんなこと一言も言ってなかった。僕の背中を押してくれたんだな。
「そうか。いらぬ噂がたってもつまらないからな。行かぬ方がよいかもしれんな」
これは言って失敗した。僕の首をしめることになった。僕は、イリナが留学するだろうと思っているので、一度くらいデートをしたいと思っていたのだ。
っ!決して、男子生徒たちに影響を受けたわけじゃない。僕の意思で、だ。
だが、その道を自分で断った。がっくりだよ。
イリナは、そんな僕に追い打ちをかけてくる。
「ええ、ですが、騎士団の宣伝のためにも、日々のお話はできたら嬉しいなと思っています」
「えっ!!!」
僕は、思わず声が大きくなった。だって、彼らとの交流をやめるのかと思ってしまっていたのだから。嫌だなと思う気持ちが思わず出てしまった。
イリナが仰け反るほど引いている。これはまずい。
「あのぉ、何かダメなことでも?」
イリナは不安と疑問が入り混じり、複雑な顔をしていた。
「あ、いや、そうではないが、イリナ嬢も忙しいのではないかと思ってな」
言い訳も大変だった。その後、イリナは、『縁』だの『相手を知る』だの、僕を試すようなことばかり…。
いや、本当に試してくれているなら、幸せなんだけどね。はあ〜、一人空回り。
ゲルドヴァスティ王国の留学についてもちゃんと聞いておこう。
「前向きに検討しています。カールロ殿が行かれるようでしたら、行くつもりでいます」
「それは、アルットゥ王子殿下の国だからか?
それとも、カールロが一緒だからか?」
これはダメだ。僕は嫉妬でわけがわからなくなっていた。アルットゥ王子はともかく、カールロは全く関係ないことはわかりきっている。ヘンリッキから、アルットゥ王子の気持ちはなんとなく聞いているが、イリナの気持ちはわからない。と、いうか、わかれば苦労はしないのだっ!
「は??まあ、父からの条件がカールロ殿が行くならというものですので、カールロ殿次第ということになりますが」
「いや、そういう意味ではなくて」
「はあ?」
僕の気持ちを知らないイリナには、どうしても言葉のニュアンスが伝わらないのだ。もどかしい。
「で、どのくらいの期間だ?」
「一年間だと聞いています」
「そ、そうなのかっ?」
「はい、私が思うに剣術留学が一年間では短いと思うのですが、ヘンリッキ殿には、初めての試みだからそれくらいだと言われました」
さすが、ヘンリッキだ!止めてくれたんだな。だが、ヘンリッキは、期間については僕にも言ってこなかった。僕に気を使ったのだろうか?
「そうか」
これはかなりショックだった。留学が半年ほどなら、年末のダンスパーティーには、イリナをエスコートしたいと考えていたからだ。
その後は、イリナらしく、生徒会のことまで考えてくれていて、後任を決める約束をした。そして、後日、カールロが留学を決めたとともに、イリナも留学を決めた。
ヘンリッキのいう『万が一』は、やはり『万』が勝ったのだった。
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卒業パーティーの企画のため生徒会室にイリナも集まるようにはなった。だが、引継ぎのため、一年生とともにいることが多く、僕と話す時間などなかった。
そして、卒業パーティーがおわり、簡単に入学式の打ち合わせをすると、その日は解散になった。
僕はイリナを引き止め、話をすることにした。ヘンリッキに、更には母上までにも言われたように、イリナに必ず帰ってきてほしいということをに伝えるためだ。
「私は、君に武術で勝つよりも、将来の国王として、君の役に立つ者になろうと思っている」
「はい」
「だから、私はこの国で君を待っている。必ず帰ってきてほしい」
「はい!必ず帰ってきて、王立騎士団の成長に役に立ちたいと思います!」
一生懸命話したつもりなのだが、伝わっていないなぁと感じて、項垂れてしまったことは、許してほしい。
せめてそれくらいは、と、思い、馬車寄せまで送ったときに、握手をした。剣ダコはあるが、細くて白い指。この手を離したくない。僕は一年後に、この手を再び握るための努力をしていくことを自分に誓ったのだ。
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イリナは勉強のために離れたのだ。だから、僕も、イリナのいないテルヴァハリユ王国で、頑張ることにしたのだ。
4月の入学式は、僕らの生徒会、最後の仕事だ。新入生を快く歓迎し、式辞もきっちりとこなした。
5月に生徒会を引継ぎしてからは、王城で政務を積極的に学び、おこなった。学園の卒業資格は持っているので、問題ない。これもヘンリッキとヨエルも手伝ってくれた。二人とも、来年には、僕の側近になる予定だ。
6月からは新たなことも始めた。これは、きっとイリナに喜んでもらえる成果をだせたと思っている。
12月中旬、僕たちは学園に戻ってきた。
年末のダンスパーティーは、マーリア嬢をエスコートすることで、事なきをえた。さすがにこの3年間、女子生徒とダンスをしてきたので、今回のお相手は、一年生の子爵家または男爵家のご令嬢だけであった。だが、カールロがいなくなった分、ヘンリッキが他のご令嬢のお相手をしていた。
ヘンリッキは、王城の夜会でオイビィ王女とダンスをしたにも関わらず、公の発表をしていなかった。なので、王女と踊ったことを知っているはずの高位貴族のご令嬢が、『宰相子息様は、恋愛するつもりがあるのだ』と考えて、ヘンリッキに押し寄せたらしい。ヨエルがそう言っていた。僕は、ご令嬢を半分引き受けてくれたヘンリッキに、心の中で感謝した。
王城での夜会でも、ヘンリッキは僕と同じくらいダンスを申し込まれていた。
「オイビィには、余計なことを言わないでくださいねっ!」
と釘を刺された。いざというときの脅しに使えそうだ。フハハ
それにしても、今年は王城の夜会にご令嬢を伴う貴族が多くて困った。高位貴族には、許されていることではあるのだが。
「貴方がはっきりしないからですよ。だからイリナが留学する前に婚約だけでもしておけば…」
母上の愚痴は尽きない。
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そして、その12月に、ゲルドヴァスティ王国の王家から、マーリア嬢に正式に婚約の申し込みがあり、マーリア嬢はこれを正式に受けた。
両国の話し合いの結果、アルットゥ王子の卒業式の翌日に夜会を開き、他国の来賓も集め、婚約発表するという。そして、マーリア嬢を一年間留学と王妃教育した後、結婚式を行うこととなった。結婚前のマーリア嬢を一人でゲルドヴァスティ王国へ一年間行かせることを不安に思ったケネスキターロ公爵は、従兄妹のヨエルを一緒に医務局留学させることを提案し、ゲルドヴァスティ王国で、喜んで受けてもらえるとは思っていた以上であった。
ゲルドヴァスティ王国でのマーリア嬢の婚約発表パーティーへ、テルヴァハリユ王国からも祝いの使者を送ることになった。父王は、王女である姉上を考えていたようだ。僕は、1月、2月にものすごく政務を頑張り、それをネタに父王に直談判して、その使者を僕がするようにした。
慌てたのはヘンリッキで、学園長と生徒会に掛け合い、卒業式を一週間早めた。3週間後の卒業式の日取りを変更させるなんて、どんな技を使えばそんなことが可能なのだ?ヘンリッキが恐ろしい。
「ヘンリッキ、もしかして、君も行くつもりなのか?」
「当たり前でしょ。僕はエルスの側近のつもりですよ」
「へ、ヘンリッキ!!」
ヘンリッキが側近候補と呼ばれていることはわかっているが、実際に本人に言われると嬉しかった。
「それに、オイビィのご両親にも挨拶しなければなりませんし」
「おい、側近って言葉に感動した僕の気持ちを返せ」
「ハハハ、それも本気ですよ」
ヘンリッキは僕の怒りにも平気な顔で笑っていた。
卒業式を早めたことで、クリスタ嬢にゲルドヴァスティ王国行きがバレてしまい、彼女も一緒に行くことになった。
前日の夜、父上から、『ヨエルは見合いだから、ちゃんとフォローするように』と言われた時には、びっくりした。
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