14 ヘタレ王子のヘタレっぷり
我が校の文化祭には、学園外から多くのお客様が来る。そのため、僕とオイビィ王女には護衛がつくことになったのだが、あまり沢山の護衛がウロウロするのも学園祭らしくないので、僕とオイビィ王女は、一緒にいることで、護衛を少なくすることになった。
アルットゥ王子ももちろん一緒のつもりであった。
「僕はイリナ嬢にお願いするから大丈夫ですよ。学生による自警団というものにも興味がありますから、そのためにも、イリナ嬢に、お願いしようと思っています」
アルットゥ王子の実力もイリナの実力も知っているし、アルットゥ王子が『自警団』に興味を持っていることも知っていた。なので、それを認めないわけにはいかなかった。
文化祭の間、イリナとアルットゥ王子が仲良さそうに歩いているのを何度も見かけて、すごくイライラしてしまったけど、それを出さないテクニックは、身に付きはじめていた。
1日目は、他の自警団も一緒だったのに、2日目はなんと、イリナとアルットゥ王子は二人きりだった。さすがにびっくりとショックで、すぐに声をかけることができなかった。
僕の気持ちを何も知らないオイビィ王女は、二人の元へと急ぐ。僕は小さなため息をつき、見失わないくらいの距離でついていく。オイビィ王女の誘いで、淑女部のブースに来たイリナとアルットゥ王子。二人でお茶を飲んでる姿を見るのもモヤモヤした。
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文化祭の余韻も冷めた頃、僕は自分の気持ちを紛らわすために、バカなことをしてしまった。
「イリナ嬢、しばらく企画もないから、生徒会は休みにする。また企画がはじまったら召集するので、その時は頼む」
まさか、嫉妬するから来ないでほしいとは言えない。
「エルネスティ王子殿下、畏まりました」
イリナは、すぐに納得して教室へ戻っていった。少しくらい残念がってくれてもいいのにな。自分から言い出しておいて、勝手な事を考えた。でも、それくらい、イリナは素っ気ない。僕に気がないからなのはわかっている。
「エルス、どうしたんだよ。用事がなくても集まって、新たな企画とかしたじゃないか。ちょうどそういうことに使える時期だろう?」
ヘンリッキの言いたいことはごもっともで、5月の僕ならそうしていたと自分でも思う。
「そうなんだけど、なんかイライラしてしまって、このままじゃイリナを傷つけてしまいそうなんだ」
僕は、ヘンリッキには僕のイリナへの気持ちがバレていることを知っているので、本音を吐いた。
「は?誰にヤキモチ焼いてんだ?まさか、僕じゃないよな。僕はただの幼なじみだぞ」
ヘンリッキの訝しんだ目は、違う意味で僕をイライラさせる。
「知ってるよっ!」
「もしかして、アルットゥ王子か?」
「……」
返事をしない僕に、ヘンリッキは大きなわざとらしいため息を見せつけた。
「はああ!あのさ、僕は、オイビィ王女には、アルットゥ王子が興味があるのは、武術や自警団で、そのためにイリナとカールロに興味があるとは聞いているよ」
「そ、そうなのか?」
「へんな小細工しない方がいいと思うけどなぁ。大丈夫なのか?」
ヘンリッキが目を細めて僕を非難する。
そして、その日の放課後、いつものように集まるメンバーにもイリナと同じことを伝えた。
「オイビィ、ヘンリッキと会いたいなら、違う作戦にするんだな。ハハハ」
「もう!アルットゥったらおしゃべりね。アルットゥのこともしゃべるわよ」
「わかったわかった。ごめんよ」
アルットゥ王子とオイビィ王女がいつもの兄弟漫才を繰り広げていた。
ヘンリッキとオイビィ王女のことをなんとなく察していた僕たちは笑っていた。
そこへ、ヘンリッキが入ってきて、しばらく話したが、みんな早めに帰っていった。
「なあ、エルス。さっき、イリナはここへ来たか?」
ヘンリッキは最初から訝しんだ顔だ。
「いや、イリナには今朝伝えたから、今日は来てないよ」
「んー、なら、僕が来る前どんな雰囲気だった?」
ヘンリッキの質問の意味はわからないが、普通に答えた。
「ヘンリッキが来る前?ああ、アルットゥ王子がオイビィ王女をからかって、みんなで笑ってたな」
「あ〜、雰囲気よかったってことかぁ。誤解されたかもなぁ。やっぱり小細工はダメだよなぁ」
ヘンリッキが珍しく、頭をくしゃくしゃっとさせて悩んでいた。
「なんだよ?誰に誤解されるんだ?」
今度は僕の方が訝しんで見てやった。
「イリナに、『自分だけが必要ないのでは』と思わせたかもしれない」
「え!」
ヘンリッキのめちゃくちゃな推論に、僕は思わず焦りまくり立ち上がった。
「見たんだ。この部屋の前から踵を返して帰るイリナの後ろ姿」
「う、そ、だろ、う、?」
「ホント。だから小細工はだめって言ったのに」
僕は走ってイリナを探そうとドアの方を向いた。
「やめておけよ」
ヘンリッキが静かな声で僕を静止させる。
「下手な言い訳は余計にそう思わせるからな。少し放っておけよ。年末には、ダンスパーティーもあるんだ。生徒会の仕事なら来るだろう」
僕は頭を抱えて座り込んだ。
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それから年末のダンスパーティー企画まで、僕たち四人は時々集まったが、イリナは全く来なくなった。
ダンスパーティーの企画を本格的に始めることになり、イリナとアルットゥ王子とオイビィ王女にも生徒会室に来てもらうことになった。ヘンリッキが、ヨエルにアルットゥ王子のことを気にかけるよう言ったらしく、アルットゥ王子がイリナに話しかけることは、ほぼなくなっていた。
そんなある日、会議の途中でどうやらイリナの具合が悪そうだという。
「イリナ嬢、具合が悪いときは、無理をするな。今日は帰った方がいい」
僕はできるだけ優しい声で言った。
「そうさせてもらいますね。カールロ、私が必要なときは、また呼んでね。
みなさん、お先に失礼しますね」
イリナはそう言って退室していった。本当は心配でついていきたかったが、仕事はまだ終わっていない。
だが、気になることがあったので、ヘンリッキをチョイチョイと手招きした。
「なあ、ヘンリッキ。イリナって、誰かが呼ばないとここに来ないのか?」
まわりには聞こえないようにヘンリッキの耳元に口を近づけた。
「そうですよ。そうなった原因は、よくご存知でしょう?」
ヘンリッキがジトッーという何とも言い難い目で僕を見てきた。
「嘘だろう……」
僕はさすがに、机に突っ伏し落ちてしまったのだ。カールロに喝を入れられるまで、仕事にならなかった。
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ダンスパーティーは、ドレスやタキシードを格安で貸したり、一週間前から放課後にダンスレッスンをしたりして、平民でも参加できるようにしたら、ほぼ全生徒が参加してくれた。
僕とオイビィ王女、アルットゥ王子とマーリア公爵令嬢がファーストダンスを踊ることとなった。マーリア嬢は、今の学園内の女子生徒で最も高位貴族であるため、母上の采配で、何度か王宮のお茶会へ来て、アルットゥ王子と顔合わせをしているそうだ。お互いに悪い気はしていない様子だと、オイビィ王女からヘンリッキが聞いていた。
そのアルットゥ王子がイリナと踊っていたのには、驚いた。僕より少し背の高いアルットゥ王子は、イリナとピッタリであった。アルットゥ王子が武人としてのイリナに興味があるとは聞いていても、胸の奥に大きな釘が刺さった。
アルットゥ王子が、まさかのパンドラの箱を開けたというのか?イリナは次々と男子生徒と踊っていった。女子生徒の相手をする僕の仮面はなんとか保つことが精一杯であった。今年は去年以上に疲れた。
パーティーの後、カールロに聞いてみた。
「私が、女子生徒と踊ることに、何の疑問もないのだろうか?」
「うーん、義務だって、思っていると思うけど。で?誰の話だ?イリナでいいんだよな?」
「……他にいないだろう」
カールロも、僕の気持ちを知っていることが確定した。それはそれで落ち込む。みんなにバレているのに、なぜ本人にはバレてくれないんだろうか………
僕が告白しないからだとは、わかっています。はい。
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1月になると企画もないとはいえ、イリナは全く生徒会室へ来ない。そんなとき、僕たち四人でいる時に、カールロから相談を受けた。ゲルドヴァスティ王国への武術留学の話であった。もちろん、いい話だ。だが、イリナにも話しているらしい。
「僕がイリナの様子を探ってくるよ」
ヘンリッキが請け負ってくれた。
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「悪い話が2つある。もうすでに手遅れな方と万が一の可能性で手遅れじゃないかもしれない方。どちらから聞く?」
『意地悪にニヤついて』なら怖くもないが、今日のヘンリッキは、真面目な顔だ。それでこの二択は、意味があるのか?
「は?どちらも聞きたくない選択だね。
じゃあ、手遅れじゃないかもしれない方から」
僕はすでに死んだような顔をしていたと思う。鏡はないから、わからないけど。
「エルスって、こういうときもヘタレだな。先にそっち聞くのか?まあ、いいけど」
ヘンリッキは、自分から二択にしておいてそんなことを言うのだ。死んだ顔のまま怨めしそうに見てやった。
「そんな顔するなよ。じゃあ、1つ目な。イリナは、ゲルドヴァスティ王国の話はまだ、決めたわけじゃなさそうだが、前向きだったよ。武術に興味があれば、当然だな」
「そうか。そうだよな。てか、それのどこが手遅れじゃないかもなんだよ」
僕は机の上に突っ伏した。顔をあげる気力もない。
「だから、万が一だって。ゲルドヴァスティ王国に行かないって可能性は、0ではない」
「イリナの前向きな性格を考えたら、0でもおかしくないぞぉ………」
僕は床に向かって愚痴った。
「オイビィ王女から聞いた話では、アルットゥ王子は、マーリア嬢にかなり本気らしい。もうヤキモチも心配もいらないだろ。イリナに気持ちを伝えたらどうだ?」
突然の助言にびっくりして起き上がってしまった。そして、しばし長考。
「いや、イリナがゲルドヴァスティ王国へ行くなら、伝えない。負担になるだけだからな」
「じゃあ、『帰ってきてほしい』は伝えた方がいいと思うぞ」
「そうだな。そうするよ」
僕は項垂れて返事をした。そしてため息が出てしまった。
「はぁ。もう一つの方を………聞きたくないな」
「ヘタレるか?」
ヘンリッキは片目を釣り上げて僕を憐れみの目を向けた。僕はまたため息が出た。
「はああ………聞くけどさ」
「最近、イリナが男子生徒とお茶とか食事とかしてるのは、知ってるよな。僕と一緒に見てるんだから」
「……知ってるよ」
僕はこのタイミングで嫌なことを思い出させるものだと眉根を寄せて、ヘンリッキを睨んだ。が、ヘンリッキの報告はそれを超えていた。
「その内の誰かと市井デートしているようだ」
「何?!?」
「騎士団に、連れていってるヤツもいるらしい。イリナの父親が見たら、どう見えるんだろうな?」
「……」
僕はもう戦意喪失の屍と化した。
イリナは美しく、凛々しい。誰にでも平等で誰にでも優しい。武術だけでなく、勉強も優秀で、それなのに威張ったりしないし、自慢もしない。
モテないわけがないんだ。
なのに、僕は、イリナと比べて自分に自信が持てなくて、気持ちを伝えることもできないでいる。イリナに恋人がいないことが奇跡なのに。
なんで、『僕がイリナに追いつくまで、僕がイリナに勝つまで、イリナは待っていてくれる』なんて思っていたんだろう?
そんな時に、遠くへ手放すことになるなんて……
「とにかくさ、お前の言葉で話してみろよ。僕から何を聞いたって、僕に何を話たって、イリナには伝わらないぞ」
ヘンリッキの言葉が重くのしかかる。
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