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イスファターナ戦記  作者: 結月詩音
八章 十年の月日
95/125

親子の愛


 ルオンが部屋を出てから、リヨルはずっと思い詰めたような顔をしていた。見かねたシウォンはキシュやシーラに部屋を出るように言うと、リヨルに声をかけた。

 

 「何を考えている?」

 

 リヨルは答えず、ソファに座ったまま手を固く握りしめていた。シウォンはリヨルの隣に座る。

 

 「少し話をしようか、リヨル。考えているのはルオンのことなのだろう?」

 「…ええ」

 「どう思う?」

 「あの子は優しすぎます。人にも…今回のように動物にも。私が風邪を引いたとき、あの子は何度も私の部屋に通ってホットレモンティーを作ってくれました。殿下の愛馬のニシェルが老いて死んでしまう時も、ニシェルになんとか食事をさせようと馬医と毎日面倒を見ていたのです」

 

 リヨルは必死に言葉を紡いで言った。

 

 「…でも、国を背負うというのは生易しいことじゃありません。常に誰かの目に入り、皇族として相応しいかと心無い視線を浴びせられる。それに身内や貴族との対立は陰湿なものばかり。あの子はいずれシウォン様の跡を継ぐ存在です。優しいだけじゃきっとあの子は潰れてしまう。そして国を背負うに相応しい人物と誰も認めないでしょう。私は育て方を間違えたのかもしれないと…そう思ったのです」

 

 リヨルはポロポロと涙を流した。シウォンはリヨルを側に抱き寄せると、頬を伝う涙をそっと拭った。

 

 「俺もリヨルも宮殿内の陰湿な争いを目にしているから、そこで生き抜く辛さを知っている。ましてや、俺は勢力的には後見も無く、宮殿での立場が弱いからリヨルにはずっと心配をかけているな」

 「シウォン様、私は…」

 「リヨル。確かに優しいだけじゃ皇族として、国の将来に関わる判断を行わなくてはならない時に判断を誤るかもしれない。だけど今日ルオンが見せた優しさは、皇族とか以前に人として他人を思いやることができるものだろう。皇族としての問題解決の手段は難ありだが、その心は素直に賞賛するべきものだった」

 

 シウォンはリヨルの顔を見る。

 

 「ここ数年、同じ宮殿にいながら俺は子どもの教育になかなか関われなかった。政務が忙しいとかそんなのは理由にはならない。リヨル一人に重荷を背負わせてしまった。すまなかったな」

 「母としての役目を果たしているだけでございます。シウォン様がお忙しいのは当たり前で…!」

 

 シウォンの人差し指はリヨルの口に添えられる。青い瞳に見つめられて、リヨルはその先の言葉を失くしてしまった。

 

 「そう。母の役目を果たしている。そしてルオンは元気に、そして人として恥ずべきところのない子に育ってくれた。こんなに嬉しいことはないよ。ありがとう、リヨル。私達の子を立派に育ててくれて」

 「…っ、シウォン…様」

 

 リヨルはぼろぼろと涙を流して、シウォンの胸に抱かれていた。

 

 「泣いているとルオンそっくりだな。やはり母子だ」

 「…んもうっ!からかわないでください!」

 「からかってなどいない。事実だ」

 

 シウォンはいたずら心満載の目で言った。リヨルがムッと頬を膨らませるとシウォンは面白がってけらけらと笑った。

 

 「それにね、あいつはよくやってるよ」

 

 その瞬間、シウォンはどこか寂しそうな表情を見せた。

 

 「順当にいけば私は十九番目の、ルオンは二十番目の帝となる。よく読む歴史書にこう書いてあるんだ。

 『永遠に続く国など、一体どの歴史が証明できただろうか』とね。

 俺はね、リヨル。その本を読む度に、理解していても永遠を望んでしまう自分自身に心を痛めるんだ。なぜなら、長く続いてきたイスファターナ皇家を次の時代へ繋げることもまた、帝となる者の役目なのだから。俺もルオンも、生まれながらに時期イスファターナ帝となる運命を持っている。それなのに永遠を夢見ることはできても望むことはできないんだよ。

 いつかこの国も滅ぶ時が来るだろう。せめて亡国の憂き目がやってくるのは我が子であってほしくないとそう思う。そのためには国をまとめあげる力が必要なんだ」

 「シウォン様…」

 「母上を亡くした時から、家族と呼べるのは父上だけだった。そのほとんどは帝として接してきたから、親子の愛というものとは縁遠く育ったと思っていた。でも今になっては、帝から与えられる時に理不尽な執務や視察は帝として、父親としての愛だったのではないかとも思う。これは確信していることだ。そしておそらく今回の視察はその最後の課題となるだろう」

 「それは、先程仰せだった…」

 

 シウォンは頷いた。庁舎から帰ったシウォンは、今後起こり得ることについてリヨルに話聞かせていたのだ。

 

 「正直、これ以上ないほど最悪な課題だ。でも、アーヴァインの未来を考えることは、ルオンの治世のためにもなる。そのためなら何としてでもこの課題を成功してみせようと思う。

 リヨル、俺はどれだけのものを子ども達に残してあげられるだろうか。俺の手に載せられるものなら全て残してあげたい。これは俺の欲だ」

 「シウォン様なら必ず帝からの課題にも答えることができます。子ども達にもたくさんのものを残しましょう。私の手とシウォン様の手、二人の手があればかなりのものが残せるはずですわ」

 

 シウォンは苦笑いをした。

 

 「私ができないことはないと、リヨルは思っているんだな。今までに一度でも私に反対したことがあったか?」

 「シウォン様のお心に反対された記憶がないのであればそうなのでございましょう。でも、私もできぬものはできぬと申します。それを言わないのであれば私はできると信じているのです」

 「これほどまでに心強い味方はいないな」

 

 シウォンはそう言うと、リヨルの髪に口づけをした。リヨルは驚きと恥ずかしさにシウォンの顔を見ることができなくなって、目を固く閉じて顔を赤面させた。すると今度は、リヨルの鼻に温かな吐息と熱が帯びる。

 二人の視線が静かに交わる。すると、シウォンの薄い唇にリヨルの柔らかな唇が触れ、ほのかに甘いロカの香りが二人の想いに色を添えた。

 

 

 ▽▽▽▽▽

 

 

 日も暮れる頃、ナフカはシウォンの支度を整えると後をキシュに任せて、ハクの眠る部屋へと向かった。本当はもう少し早く向かいたかったのだが、それもこれも、シウォン達を歓迎する宴が急遽催されることになったためである。

 

 「ハクの容態は?」

 

 ナフカは部屋の前に立つ兵士に尋ねた。

 

 「高熱に魘されております。ルオン殿下も少しお休みになるよう申したのですが…」

 「そうか」

 

 ルオンはずっとハクの隣で熱を下げるために氷嚢を作ったり、魘されては手を握ったりしていた。

 拾った子犬の方は怪我の手当をすると餌を与えて、それを元気に平らげた。当分動けはしないだろうが、こちらは問題なさそうである。

 

 「すまない、ハク…。私のせいだ。必ずそなたを救ってみせるから元気になってくれ」

 

 その時、部屋の戸がノックされた。

 

 「失礼します、殿下」

 「ナフカか。母上はお怒りだっただろう。心配をおかけしてしまったな」

 

 ルオンはハクの額の汗を拭いながら言った。

 

 「ずっとこちらに?」

 「あぁ。私のせいで怪我をさせたも同然だから。母上のご命令でやっているわけではない」

 「殿下、それは先程も…」

 

 ナフカは、否定しようとしたがルオンの表情はそれを言うことを認めなかった。

 

 「あれからいろいろ考えた。そして、私の思いに応えてくれたハクが怪我をしたのだから、私もできることでハクの力になろうと思った。ハクが目覚めるのをじっと待って置くことなどできない。皇子らしくないと言われても、これが私だ」

 

 シウォンと同じ青い瞳は、揺るがぬ決意に深く深くその濃さを増していた。ナフカもこれを見てはもう何も言えない。

 

 「わかりました。実は今夜祝賀が催されることになりましたが、殿下と私は欠席することとなっております」

 「そなたもか?父上のお側にいなくてよいのか」

 「えぇ。キシュに任せて参りました。キシュもあれで元将軍ですから、やるときはやってくれるのですよ」

 

 ルオンは笑った。

 

 「キシュが父上をお守りするのは想像がつくけれど、執務官になるのは想像が難しいな」

 「私もキシュが数時間も同じところに立っている姿など想像できません。あれは動いてこそ本領を発揮しますからもって数分かもしれませんね。今宵は我慢してもらうしかないですが」

 

 すると、ナフカが用意した簡易ベッドに座っていた子犬がベッドから顔を出して外に出ようと体を動かした。

 

 「わっ、そなた!じっとしていないと怪我は良くならないぞ」

 

 しかし、子犬は何度も外へ出ようとしている。

 

 「外に出してみましょうか」

 

 ナフカはそう言って子犬を抱き上げ、そしてハクの眠るベッドの上におろしてみる。すると、子犬はゆっくりと体勢を変えて、そしてハクの手を小さな舌で舐め始めた。

 

 「ナフカ、ハクを舐めている!」

 「…この子犬もハクを案じているのかもしれませんね」

 

 ナフカが微笑ましげに言うと、ルオンは子犬を撫でた。

 

 「そうか、そなたも心配してくれるのか。では今宵は、私とナフカとそなたでハクが目を覚ますのを待とう」

 

 それに返事をするかのように子犬は、

 

 「クゥン」

 

と鳴いてみせた。

 白い毛並みから見える小さな舌がなんとも愛らしくて、ルオンはじっと子犬を観察する。

 

 そんな時間がしばらく過ぎた頃だった。突然、子犬がテラスの窓の外に向かって吠え始める。

 

 「…どうしたのだ、急に」

 

 同様の異変をナフカも感じていた。何者かからの視線いや、圧を感じる。そして空気が少しずつ張り詰めていく。

 

 「殿下、ここでお待ちください。動かれませんよう」

 

 ナフカは、懐の護身用の剣を掴んでゆっくりゆっくりと窓に近づいた。

 その時、突然部屋に青白い光りが差し込んだ。月が雲の切れ間から顔を出したらしい。そして、その光によって浮かんできたのは大きな獣の影だった。

 

 ―バンッ

 

 突然、部屋のテラスの窓が開け放たれて、夜風と共に真っ白な毛並みの大きな犬が姿を現した。

 

 「…私の子はどこだ」

 

 犬から怒りのこもった太い声が放たれた。ナフカもルオンもその圧に身動きすら取れない。

 

 「人の子よ、私の子を返せと言っている。どこにいるのだ。返答如何によってはタダでは済まさぬぞ!」

 

 この獣の纏う圧に、言葉を発するのすら躊躇われた。しかし、相手は本気である。下手をするとルオンに危害が及んでしまう。

 

 「…確かに、あなたの子はここにいる」

 

 ナフカは覚悟を決めた。

 そして、ハクの側に立っている子犬を抱きかかえる。

 

 「私はナフカ。山中で熊に襲われて街まで降りてきたそなたの子を、ルオン様とそこに眠っているハクが介抱した。怪我の手当は終わったが、何ぶん傷が深かった。数日安静にしていれば歩けるようになるだろう」

 

 母親と見られる犬は、子の足に巻かれた布を見て、それからナフカを見るや睨んだ。

 

 「…怪我だと?これは誠に熊による怪我だというのか。大方、そなたらが私の子を連れ去った時の怪我なのであろう!嘘を申せば許さぬぞ!」

 「嘘ではない!」

 「黙れ!お前たち人間は山に罠を張り獣を狩る!時には戦で大地を荒れさせる!我らの住処を奪い、我らの仲間を殺し、他の生き物をも殺してきた。お前たちの非道さを我は知っている!」

 

 空気が震えるような怒りのこもった声だった。ナフカは、何か策はないかと思考を巡らせた。だが、この怒りを前になせることはほぼ無いに等しい。

 

 「我らを謀る人の子ども!お前たちを殺して見せしめにしてやろうか…大地にお前たちの血を注ぎ、先に逝った同胞らの無念を晴らしてやる」

 

 母犬の牙がナフカに向いたその時だった。

 

 「待つのだ」

 

 紛れもなくルオンの声だった。

 

 「ナフカの言っていることは嘘ではない」

 「嘘ではないだと?お前たちは信用できぬ。いつも小賢しく策を巡らし、非道に狩って行く」

 「…それに関しては、私から謝る」

 「お前が?ただの人の子が何を言うかと思えば、ふざけるのも大概にせぬと我も我慢の限界ぞ…」

 

 ルオンは立ち上がった。

 

 「殿下!動かれては…!」

 

 ナフカは言ったがルオンは言葉を続ける。

 

 「私の名前はルオン⁼イスファターナ。イスファターナ皇国の皇子だ。だから、私達の国の者がそなたの仲間たちに迷惑をかけたこと、心より謝罪する」

 「…」

 「私は幼いゆえまだまだ知らないことが多いが、非道な狩りが行われているのなら、それはあってはならないことだと思う。父上にその件、ご相談することを約束する」

 

 母犬はそれを聞いて嘲るように笑った。

 

 「無力な子どもが一体何ができるというのか。端からそのようなものに期待はしていない。同胞の無念はお前の生まれるずっと昔から存在するのだ。そして、私の子を攫い、傷つけた。その事実だけでお前たちが報いを受けるのには十分なのだ」

 

 母犬からの言葉がルオンの胸に刺さる。無力という言葉はそれだけ鋭いものだった。

 昼間の件から一体自分に何ができるのか、ルオンはずっと考えていたのである。

 

 「どうした?さっきの威勢が無くなったな」

 「…殿下、お下がりください。ここは私が食い止めます」

 

 ナフカがルオンの前に立った。懐剣を抜いて母犬に対峙する。

 

 「できない」

 「殿下!」

 

 ルオンの青い瞳がカッと母犬に向けられた。

 

 「私にはできない!そうだ、私は無力だ。城を出たのも生まれて十年初めてのことだ。私達の国などと言っても何もわかっていない。偉そうなことなど何も言えたものではない」


 膝が震える。体に力が入らない。次第に声さえも震えが伝わりそうで、ルオンはそれを必死に堪えながら言った。

 

 「だけど…私にも引けない理由がある。ここに眠っているハクはそなたの子を熊から守って怪我をした。今は傷口から病になり、今日がその峠と言われている状態だ。そして、ナフカの手当の知識がなければそなたの子は出血が酷くて助からなかったかもしれない。私は何もできなかったけど、獣の命を助けようと自分の命を張った者もいるのだ。その事実をそなたの人間への恨みで嘘に塗り替えるなど、私は許さない。私は何かを成し遂げる力はないけど、その無力に甘えることなどしない!殺るというのなら私を殺るといい。それが今の私にできる唯一のことだ!」

 

 ルオンがそう言い切ったその時、部屋にシウォン達が駆けつけてきた。

 

 「ルオン!」

 

 リヨルはルオンを抱きしめた。

 

 「ナフカ、今のは…。何が起きている」

 「どうやら、殿下がお助けになった子犬の母犬が我々が連れ去り、怪我をさせたと誤解なさったようです」


 母犬は部屋に入ってきたシウォンやリヨルをじっと見つめている。

 

 「今、私の子が殺るなら私を殺れなどと叫んでいたが、幼い子にそのようなことを言わせるとはなかなか穏やかではないな」

 「…」

 「そなたも親なら私の怒りが理解できるだろう。詳しくは知らないが、そなたの子を介抱したのは嘘ではない。嘘と決めつけ、私の子どもを脅したのなら今すぐに謝罪を要求する」

 

 母犬は黙ったままだった。しばらく見つめ合いのような状態が続く。それを破ったのは他ならない子犬だった。

 

 「母上、もうおやめください」

 「ゼン…」

 「私は人の子に命を助けられたのです。もし助けられなければ今頃熊の腹の中でしょう。ご心配をおかけしたことはお詫びします。ですが、母上。誤解はおやめください。彼らは私の恩人なのです」

 「…」

 

 母犬は深く息をつくと、言った。

 

 「我が子がいなくなったことで我を見失っていたようだ。ルオンといったな。怖い思いをさせてしまったことを詫びよう。この通りだ」

 「そなたの怒りと心配は当然のものだ。どうかもう気にしないで」

 「…フッ。殺されるかもしれないのに仲間を守った勇敢で優しい少年よ。こちらへ」

 

 母犬は前足でルオンを自分のもとに呼んだ。そしてやってきたルオンの頬にキスをする。

 

 「この先、危機に瀕したときは山犬の加護がお前を守る。我が名は山犬マナ。護りし力は我が名に応えよ」

 

 突然、ルオンと母犬マナの間に風が巻き起こる。部屋中の家具がふわりと宙に浮いた。

 

 「…これでよい」

 「加護…って」

 「山犬は地に生きる生命のための神の遣いだ。まぁ、簡単なおまじないだと思って受け取ってくれたらよい」

 

 マナはシウォンとリヨルに近づくと言った。

 

 「先程はそなたらの子に大変失礼なことをした。改めて心からお詫びを申す。将来が楽しみな子だな。意思が強く芯がある。この幼さで何がそうさせているのか。子は親であるそなた達を見て育つ。そなたらの徳だな」

 「こちらこそ、神の遣いに失礼なことを。お許し願いたい」

 

 マナはベッドに眠るハクを見た。

 

 「心配するな、ルオン。まだ生命線は切れていない。この男は朝には目覚めるだろう」

 「本当か」

 「本当だ。ここで嘘を申す理由もなかろう」

 

 それを聞くとルオンは膝からストンと崩れ落ちた。

 

 「ルオン!」

 「殿下!」

 

 リヨルが駆け寄る。すると、ルオンはぼろぼろと涙を溢していた。

 

 「…ずっと怖かったんだ。でも、良かった」

 

 一気に緊張から解放されたのだろう。そしてリヨルはそんなルオンを力強く抱きしめた。

 すると、こちらの親子も話を始めた。

 

 「母上、お願いがございます」

 「なんだ」

 「私をルオンの側にいさせてはいただけませんか」

 

 マナはゼンを大きな瞳で凝視した。

 

 「恩人である彼らに私は何も返せていません。何より、ルオンの側にいたいと思いました」

 「地の者として生きるのなら、二度と山犬としては暮らせぬぞ」

 「承知しております。うまくは言えません。でも、仲間を守ろうと母上に立ち向かったルオンの心の強さに私は惹かれたのだと思います」

 

 ゼンの意思は固かった。マナはそれを見て大きなため息をつく。

 

 「子が親の元を離れるのは存外早いものだな」

 

 そうぽつりと呟くと、ルオンの前で頭を下げた。

 

 「ルオン、ゼンはこう言っているのだが母としては子の願いは叶えてやりたい。どうだろうか」


 ルオンはシウォンに確認を求めるような視線を送る。

 

 「お前のことだ。お前が決めるといい」

 

 ルオンは少し考えて、それからゼンの頬に触れた。

 

 「本当に私の側にいたいのか?」

 「あなたの隣がいい。あなたを私の主と決めたんだ」

 「…わかった。これからよろしく、ゼン」

 

 ゼンはそれを聞くとルオンの顔をペロッと舐めた。

 

 「フフッ…くすぐったいよ、ゼン」

 

 ルオンはゼンとじゃれ合った。マナはその様子を外目に、別の人間に意識を向けていた。

 

 

 

 ――明け方、誰にも見つからず私に会いに来い

 

 

 

 朝日はあと一時間程度といった頃、アーヴァインの山中で二人は対峙した。

 

 「よく来たな、待っていたぞ…」

 

 マヤが迎えたその人間は、夜明け間際の白い月のような怪しさを秘めた髪を風になびかせ、岩の上に立つマヤを睨み、黙していた。二人の間に走る緊張に、森の木々はざわめく。

 

 (出会うはずではなかったのだ…出会ってはいけなかった)

 

 マナは苦い笑みをしながらその思いを飲み込んだのであった。

いつもイスファターナ戦記をお手にとって下さりありがとうございます。

この続きは次話にて。どうぞ、お楽しみに。


感想やご要望、誤字脱字等ございましたらお知らせいただけると幸いです。

結月詩音


改稿(2021.5.10.18時現在)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最後、マヤ?マナ?どちらでしょう? 呼び出されたのはナフカだと思ったのですが違うのでしょうか? 誤字なのかがわからないのでこちらで指摘失礼しますね [一言] いつも更新楽しみです 続き…
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