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イスファターナ戦記  作者: 結月詩音
六章 渦中
68/125

辞令書

本日は少し長めです。


 「兄上!昼に来られるとのことでしたから、昼食のご用意をしておりました」

 

 東宮殿に着くとリフキアが迎えに出ていた。その後ろには側近のアイゼンと復帰したヨルナの姿もあった。

 

 「すまないな」

 「何をおっしゃいますか。兄上が来られるときいて宮殿の皆もいつになく熱心に支度をしてくれました」

 

 リフキアはにこやかにそう言ってシウォンを部屋へと案内した。

 しかし、その場にいた者達はどこか複雑な感情を持っていた。

 シウォン達にしてみれば、これから伝えようとしている重責を与える結果となった後ろめたさが、リフキアの笑顔でより心苦しく感じられた。対してリフキアの側近のアイゼンとヨルナは、シウォンが自ら訪れたことには何かがあると思っていた。今後の進展についての話か、いずれしても重大なことを告げられるのだろうと予期していた。

 当のリフキアはというと、こちらは少し考え方が違った。シウォンに何かを伝えられることは分かっていた。おそらくそれは重大で、だからこそ妃選びに関して言葉を掛け辛かったのだろうと考えていた。でもそれは、リフキアにとって何も嘆くことではないと思っている。それだけ兄に近づける。そのためなら泥沼の道でも進むつもりでいるのだ。

 

 「まずは兄上。妃殿下のご懐妊おめでとうございます」

 

 用意した席に着いたリフキアは初めに言った。

 

 「ああ、ありがとう。こうして祝われるとより嬉しさが増すものなのだと知った」

 「左様ですか。私にとっても甥か姪になりますから聞いたときにはとても嬉しく思いました」

 「そうか」

 「ええ」

 

 用意された食事を食べながら時間は穏やかに過ぎていく。

 

 「リフキア…本題に入ろうか」

 

 切り出したのはシウォンであった。アイゼンとヨルナが察して部屋を出ていこうとしたが、それをナフカが止めた。

 

 「アイゼン、ヨルナ。お前達にも関わることだ。この先リフキアと共に生きるつもりならここにいろ」

 

 シウォンが言うと、二人は息を飲んで元の場所に立った。

 一瞬で空気が冷たくなった。その冷たさに温風を吹かせたのはリフキアである。

 

 「兄上、本題というのは」

 

 その言葉には何の疑念も含まれていなかった。普通ならこんな場所を用意させて、事の深刻さをちらりとでも感じるだろうに、リフキアはどうやらそうは考えていないらしい。シウォンはそんな弟に思わず笑みをこぼした。

 

 「フッ…」

 

 かつてシウォンの元にやって来た何にも怯えていた少年とは全くの別人。シウォンを追いかけると言ってからここまでに成長してくれたことが素直に嬉しい。

 

 「まずはこの書をお前に」

 

 シウォンは書状を渡す。リフキアがその封を受けとると、その後ろには紫紋の封が施されていた。つまり、これは帝直々の通達書であることを指している。

 

 「では、失礼します」

 

 リフキアはその封を解いて中の書状に目を移した。

 

 

『第二皇子リフキア=イスファターナ公

 

 この度、ラドファタスへの赴任を命じる。

 ラドファタスに赴任時の権限として、その地の統治権、商業権、軍事権を与えるものとし、この権利はラドファタス長官よりも先に優先されるものとする。

 また、その地における最重要任務として、ソウェスフィリナ王国と国境を超えて繋ぐ水道橋の建設を委任する。それに伴い、その周辺地域の水道橋建設に関する指令部としてラドファタスを置き、今後二国同盟の主要都市になることを念頭に置き行動すること。

 

 以上、リフキア=イスファターナ公には帝アドロフ三世並びに皇太子シウォン=イスファターナの信頼の元にこの権利を与える。

 この権利の有効はその地における任務終了時とする。

 また、リフキア=イスファターナ公にはラドファタスへの赴任に際して冠号"ウィスラン"を与える。

 

イスファターナ皇国帝 アドロフ三世』

 

 

 冠号というのはイスファターナ皇国独特の称号のことである。自分の名とは別に帝から与えられるそれは、この国最高の栄誉であり、帝の信頼を得る働きをしたという証であった。そして、通常名が与えられたものは与えられた名で呼ばれることになる。

 

 「…ラドファタス赴任」

 

 リフキアはぽつりと呟いた。シウォンはそんなリフキアをただ見つめていた。

 リフキアの内心は与えられた任務の完了が果てしなく高いところにあるかのように思われて、部屋の天井を見上げていた。水道橋の完成にどれ程の月日を要するだろうか。そして与えられた権限は事実上ラドファタス長官と同じことである。

 やりきれるだろうか。そんな不安が押し寄せてくる。

 同時になぜ遠くに行かされるのかも考えていた。しかし、こちらに関してはすぐに気持ちとの折り合いがついた。

 元々第二皇子でありながらこの歳まで宮殿にいられたのは、皇妃の子というそれだけの理由である。もしリフキアが側妃の子なら、宮の殿が管理する皇族典範からすると十三の歳で宮殿の外に出されてもおかしくなかった。むしろ、理由があって都を出るのだから恵まれている。リフキアはそう思うことにした。

 すると、少し苦い顔をしているシウォンが口を開いた。

 

 「今回の決定はお前にとっては覚悟して受けてほしい」

 

 考えを巡らせていたリフキアにシウォンがそう言うものだから、リフキアは兄の言葉に耳を傾けた。

 

 「ここにある栄誉はあくまで建前だ。人として、何より兄としてこの辞令はあまりに酷薄なものだと理解している。それでもお前にこれを渡す決断をした」

 「ラドファタス…都よりずっと北の土地でございますね。酷薄とおっしゃるのは、今後の対立のことですか」

 「…総じて言えばそういうことになる」

 

 シウォンはリフキアから視線を動かすことなく話を続けた。

 

 「このままいけば、私かお前かどちらかはこの世から消える。それはわかるか」

 「…ええ。それだけの身分に私も兄上もございますから」

 「もはやそれは、お前が帝になろうとするしないに関わらず、はっきりと決着をつけなくてはならないこととなった。反同盟の者と反皇太子と叫ぶ者とが結託し、再びこの国を戦禍の時代に向かわせようとしている。私はお前に言った通り、帝となるために彼らに立ち向かわなくてはならない。だが、もう知っていることだろうが反対分子の者達が次期帝と掲げるのはお前だ。本来の図としては私とお前は対立の構図にある。そのため私はお前を遠ざける他に道はない」

 

 

 シウォンはまっすぐに現実を語った。当然、リフキアはその言葉の意味を理解していた。

 おそらく今後、シウォンが帝となってその治世が安泰となるまでリフキアはシウォンの側にいるわけにはいかない。これが側妃の皇子なら臣下として側にいることも可能だろうが、皇妃の子というものはやはり面倒なものである。

 だから、このタイミングでのラドファタス赴任は間違った手ではない。むしろ、正当な手である。

 元々分かっていたことであるからということもあるが、それが告げられてどこか嬉しい自分がいた。

 

 「そして私がこの戦いに勝てば、きっとお前は命を狙われることになるだろう」

 

 それは今のシウォンと立場が変わるということである。シウォンの治世となればリフキアの存在を邪魔であるという者も出てくるかもしれない。

 そう考えてリフキアはあることに気づいた。

 

 「もしや兄上、そのための冠号でございますか」

 

 シウォンは少し躊躇いつつも頷いた。

 冠号は帝に信頼を得た人間の証。それと同時に帝に重大な任務を与えられることがしばしばある。その人物に危害を加えることは帝に剣を向けたことと等しい。書状には丁寧に『帝アドロフ三世と皇太子シウォンの信頼の元に』と記されていた。つまりそれはシウォンの統治下でも変わらないということを意味している。

 

 「…所詮、冠号などというのはそれだけでしかない。実際に危険がないわけではないのだからな。だから、覚悟して受けてほしいと言ったのだ」

 

 すると、リフキアは瞼をゆっくり閉じてそして改めて兄を見た。

 

 「元々、私は何を告げられても引き受けるつもりでございました。しかし、こうして兄上自らこの任を任せに来てくださったことに私は密かに感激しております」

 「リフキア…」

 「兄上、このリフキア=イスファターナはその任によろこんで就かせていただきます」

 

 シウォンは思わず立ち上がった。

 

 「いつ帰れるのか分からないぞ。それでも行くか」

 「ええ。それでも、この国の帝は私にはできません。私もこの国の皇族です。ならば、自らの命の危険よりも国が救われる方を選びます」

 「…」

 

 シウォンはリフキアの真剣さも伝わって言葉を失くした。すると、リフキアは苦笑する。

 

 「とはいえ、私はまだ兄上の作る世界を十分に見ていませんから、今すぐに死にたいわけではありません。そこの辺りは後ろに控える二人が上手くやってくれるでしょう」

 

 リフキアがちらりとうしろを振り返ると、アイゼンとヨルナは深く頭を下げた。

 

 「そうか。ではアイゼン、ヨルナ。お前達にもリフキアを頼むぞ」

 

 シウォンはそう言うと席に着いた。

 

 「それでリフキア、もう一つの話なのだが」

 「私の妃選びのことでしょうか。今の話を踏まえると相手はダナフォート家くらい家格の高いものを兄上は望まれるのではないですか」

 「…その通りだ」

 

 リフキアはシウォンの考えを読めていたことに少し満足げな表情をした。

 

 「しかし、私の母はそれこそダナフォート家の娘を妃にと推しています。兄上にとってはよろしくないのでは?」

 

 シウォンは紅茶を一杯口にする。そしてそれを静かにカップの皿に戻した。

 

 「以前私はお前に、私のもっとも信頼する人間となれと言ったな」

 「はい」

 「リフキア、私はいずれお前と二人でこの国を動かしていく方向で考えている」

 「!」

 

 リフキアは紅茶に伸ばした手を止めた。

 

 「兄上、それは…」

 「同盟が成り立てば国は一時的に混乱する。おそらく帝一人の力では端々まで国を見ることはかなわない。だからこそ、お前にはただの一臣下には成り果ててもらいたくない」

 「それでダナフォートだとおっしゃるのですか」

 「ダナフォートはお前をどうやら認めたらしいな。妃選びの候補にあがったのは、私に将来お前という存在をどこに置くつもりでいるのか決断させるためだったらしい」

 

 リフキアは驚いて思考が追いついていかない。

 

 「私が決断した旨を伝えたとき、ダナフォートはラドファタスにお前が行った際の助力をかって出てくれた。これによって、私自身もダナフォートの力を得ることができるわけだ。不利なことではない」

 「…しかし、それは結果論ではありませんか。やはり世間の目はそうとは思わないのではありませんか」

 「しかしこれしか方法はない。それに、世間にどう思われるかは私の実力の問題だ」

 

 リフキアはしばらくの間黙っていた。このままリフキアがラドファタスに行けば済む話のようには思えないのである。リフキア自身に帝となる気は全くないのに、シウォンはそのために考えを巡らせなくてはならない…。

 その時、リフキアは何かがスパンと割れるような音を聴いた。

 

 「…兄上。ラドファタス赴任の件ですが、条件をつけさせていただいても構いませんか」

 

 その問いに部屋にいた者達は皆、疑問を呈されることとなった。

 

 「聞こうか」

 

 シウォンは冷静に返事をする。だが、内心はどういうことかと疑問に満ちている。

 

 「私には兄上に次ぐ帝位継承権がございます」

 

 リフキアはシウォンから向けられる視線に自ら合わせて言った。

 

 「私は兄上が次期帝たるお方を得られましたとき、この継承権を放棄いたします」

 「な…」

 

 部屋中が時が止まったかのように静まり、冷ややかとなった。リフキアはさらに言葉にする。

 

 「同様に妃に関しても世継たる方が生まれるまでは、たとえ相手がいたとしても婚約者以上の何者にもならぬという条件をお付けください」

 「リフキア。それがどういうことか分かっているのか。仮に俺に息子が生まれたとして皇太子として認められるのは十歳を過ぎてからだ。つまり、今身籠っている子が男子であってもあと十年は妃を迎えないというのか?十年ともなればお前は…」

 「二十五歳でございますね」

 

 イスファターナの結婚適年齢はおよそ十八までである。リフキアの条件を飲むことはそれをとっくに過ぎてしまうことでもある。

 

 「兄上。私は妃選びの話を聞いた際に宮の殿の長官オジンと話をしました。彼と話していてこの国のためとなる妃を選ぶつもりでしたが、選ぶための基準にこの条件を当てることにしようと思います」

 「リフキア!」

 

 リフキアはとても満足そうな顔をしている。

 

 「…これでよいのです。元々妃を迎えることを諦めていましたが、それでも可能性によっては迎えられる。ラドファタスに行けば都育ちの娘などは生活の苦労もするでしょうし、結果的によいのではありませんか。それに、兄上もこれが悪い案とは思っておられぬはず」

 

 確かにそうではあるが、そうではない。ここまで大切な者の幸せを奪うことになるのかという思いの葛藤がシウォンの中で巻き起こっていた。

 

 「兄上、上手く私をお使いください。それが私の願いでもあります」

 「…っ」

 

 リフキアにそう言われて少しだけシウォンは思考が冷静になった。

 リフキアを見て、そして入り口近くに控えるナフカやキシュ、アイゼンにヨルナを見て最後にまたリフキアを見る。一連の動作が終わるとシウォンは立ち上がった。

 そして、リフキアの座るところへ向かう。

 

 本当に驚かされてばかりだ。犠牲を負っても自分について来たいと言ってくれる。その気持ちを無下にするわけにはいかない。

 今、手にできなくても、ここで奪ったものはきっと手にする。それが、今のシウォンにできる最大の恩返しである。

 

 リフキアの前にシウォンが立つと、リフキアは自身も立ち上がった。

 

 「…リフキア、許せ。お前の覚悟に俺はきっと応えよう。それができる帝になろう」

 「では、それを楽しみに待っております」

 

 きらきらとした瞳でリフキアは言った。シウォンはそんなリフキアの手をとった。

 

 「いつかここにお前を呼ぶ。その時は夢を…俺とお前の二人でこの国を治める夢を叶えよう」

 「…恥ずかしくないよう精進いたします」

 「ああ」

 

 それから、リフキアはナフカ達側近の分の食事を用意させて、一同で机を囲んだ。先程の深刻さは微塵もない明るい食卓は、季節外れの春風が吹いているかのように温かかった。

 

 シウォン達が東宮殿を去ると、リフキアはアイゼンとヨルナに言った。

 

 「すまないな、二人とも」

 

 その表情はどこか陰っている。

 

 「ラドファタスの件はいい仕事をもらったと思う。私が言うのは私の申し上げた条件のことだ。継承権を失い、妃も早々に迎えないとなれば私はある意味で役立たずの皇族なのかもしれない。だが、そうするしかなかった。私が母上の子である限りこの問題は終わらない。こうするしか…なかったのだ」

 

 妃選びの話が来てからずっと悩んでいた。何が最善で、何が兄のためとなるのか。今の自分にはそれがすべてでそれ以外はもうどうだっていい。それにもかかわらず、こと自分のことになるとその決意が揺らぐ。

 

 「…つらいご決断でしたね、殿下」

 

 アイゼンが言った。リフキアは顔をあげる。アイゼンのその言葉がどこか宙に浮いていて飲み込めない自分がいた。簡単に言えば腹が立ったのである。

 

 「そなた…」

 

 怒りに震えた声はその先伝わることはなかった。

 

 「しかしながら、国のためとお考えを決められた殿下に、私はこれまでの己の甘さを痛感させられました。さすがは私のお仕えするお方だと思った次第でございます」

 

 アイゼンは堂々とそう言った。

 

 「私も、殿下の国と兄君を思われた決断に感服いたしました」

 

 ヨルナも続けて言う。リフキアはそんな二人を見て一つ、また一つと涙をこぼしていた。

 

 「…本当は怖いのだ。ラドファタスの長官とも等しき権限を与えられ、もしかすれば命を狙われるかもしれない。だが、同時に楽しみでもある。私がこの国に大きく関われるのはこれが初。水道橋を主体とした都市を作り上げるのは夢がある」

 「支えさせてください、殿下。我々はどこまでもついていきますから」

 

 アイゼンが言った。リフキアは頷くと溢れさせている涙を拭った。

 

 「アイゼン、ヨルナも戻ったことだしもういいだろう?」

 「…」

 

 初めは何のことを言われているのかわからなかったアイゼンだが、それはすぐに思い出された。

 

 「では、早速都に出る許可をとって参ります。ご予定はいつにしますか」

 「妃選びより前がいい。叶うなら私の赴任の辞令が知れわたる前が嬉しいな」

 「承知いたしました。それでは」

 

 アイゼンは部屋を出ていった。リフキアはほっと一息をついた。ヨルナはそんなリフキアをみて微笑んだ。

 

 「何やら殿下、少し大きくなられましたね」

 「ん?」

 

 リフキアは身長のことだと思ってヨルナを見る。リフキアはヨルナよりまだ背は低い。これはリフキアが低いというよりも、ヨルナの背が一般的に女性としては高いことが理由だ。

 

 「身長もですが、休暇を取っている間に少し大人びた風格を身に付けなさったかと」

 「そうか?」

 「ええ。正直を申しまして、皇太子殿下との本日のやり取りも随分とご成長された発言だったと思いました」

 「正直か。ヨルナの素直な発言は私は嫌いではないな」

 

 リフキアは笑った。

 

 「申し訳ありません。やはり失礼ですね」

 「構わない。言っただろう、嫌いでないと。回りくどい言い方よりも素直な言葉の方が伝わることもある」

 

 やはり大きくなられた。ヨルナは思った。言葉の端々がちゃんとリフキアなりの理論がある気がする。十五歳の自分が今のリフキアのようであったかというと、まずそうではないという答えになるだろう。

 

 「殿下、重ねて失礼かもしれませんが、少しだけ年長の人間として申し上げさせていただいてもよろしいですか」

 

 ヨルナが尋ねると、リフキアは苦笑いした。

 

 「何だ?よそよそしいな」

 「皇族として生きられるからには目先以外にも先を見ることは避けられないかと思います」

 「うん」

 「ご無理だけはなさらないでください。大人になられるのは喜ばしいことであると同時に…その、子どもでしか見ることのできないものを見られなくなるということでもあると思うのです…。大人としての目は多少なり我々が補いますから…どうか今を大切に」

 

 リフキアはヨルナの発言に驚いていた。お陰でしばらく目が見開かれて、瞳がまんまると丸まっていた。

 

 「…うん。やっぱりヨルナは面白いな」

 

 リフキアは何度も頷いた。

 

 「確かに、私の周りは兄上はじめその側近に至るまで大人を超越した人ばかりだからな。兄上を目指すのは変わらないけどヨルナの言っていることも理解できるし、大切だな」

 「…はい」

 「ではヨルナ。たまには私の子どもらしいことにも付き合ってくれるか。とはいえすぐには思いつかないけど、時にはもう少し子どもを楽しんでみようと思う」

 「はい、殿下」

 

 すると、リフキアは何かを思い出したようで言った。

 

 「ヨルナ、時間があるときに妃殿下にお会いしてきてくれないか」

 「妃殿下ですか」

 「そなたのことを気に掛けておられた。あの事件の時は何かとお世話になったのだろう。アイゼンの話ではそなたを特別だとおっしゃったそうだ」

 「…特別ですか」

 

 確かに例の都での事件の時にリヨルのお陰ではやくミュンツェルと会うことができたが、とはいえ話したのはそのくらいのものである。

 ちょっと特別というのは言い過ぎな気がするのだが、ヨルナはリフキアに理解した旨を伝えた。

 

 「では、妃殿下のご体調の良いときにお伺いいたします。お気遣いありがとうございます」

 「ああ」

 

 二日後、アイゼンが都への外出許可を何とか取ってきたこともあり、一行は都へ出た。そこでまた今後に発展する出会いをすることになるということを、彼らはまだ知らないのであった。

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