小話 相棒
ちょっとした小話です
「体調は大丈夫か?」
事件から一週間。宮殿内の医庁にてヨルナは休養をしていた。
アイーリスの毒を服毒して、城に帰って倒れてから三日は意識が戻らなかったヨルナだったが、四日前に目を覚ましてからは比較的元気であった。その医局にアイゼンは勤務休みの合間をぬって毎日通っている。
「体調は大丈夫。殿下のご厚情で休ませてもらってるようなものだからね。それにしても毎日来なくてもいいよ、アイゼン。忙しいのにさ」
ヨルナは引き出しから何やら菓子を取り出してアイゼンに渡す。
「ご飯、食べてないんでしょ。貰い物だけど良かったらどうぞ」
ちなみに貰い物というのはリフキアの宮殿の近衛兵達、つまりヨルナ達の部下から送られるものである。彼らも休みの合間にやって来てお菓子や花やらヨルナに渡して帰っていく。
そんな話をアイゼンにすると、アイゼンはにかっと笑って「よかったな」と一言。
そしてもらった菓子を頬張った。
「…なんか、今だから思う。昔の私はずっと認められようと、男の人には負けないようにと必死だった。必死すぎて…周りが見えていなかったのかもしれない。一言で言えば自分勝手。そんなので部下がついてくるわけないのにね」
すると、アイゼンは菓子を飲み込むなり言う。
「そういう時もあるさ」
「…ずいぶんと軽いね、アイゼン」
「お前の努力は知っているからな。それに、今のお前は昔と変わったんだろ。その結果がその大量の菓子や花になってるんだ。お前にとっては通るべき道だったんだろう」
何となくその言葉はヨルナの心を温める。変わった要因の一つは間違いなくアイゼンだ。一人で背負う必要がなくなった…頼れる存在が常に近くにいる安心感。たまに抜けているけれど、見るべきところは見ていると思う。いつの間にかそこにいるのが当たり前になっている。
すると、アイゼンがポケットの中から何やら取り出した。アイゼンは取り出して一人それを見つめて、ヨルナに見せるかどうか躊躇いながら、目の前の机にそれを置いた。
「…これは?」
それは少し傷の入った首飾りだった。いかにも安物のそれはヨルナの記憶のどこかに存在していた。
「…フレルドが身に付けていたものだ」
「!」
ヨルナはそれを恐る恐る手に取った。
「今日、彼らは全ての判決を受け終えた。昨日のうちにこれだけは預かってきた」
フレルド―
ヨルナの心の傷が痛む。短い時間、ほんとうに僅かな時間だったけど、もしフレルドと別の形で出会っていたら間違いなく心引かれていたはずだ。目覚めてからの数日、ふと思い出してはヨルナは涙を流していた。
アイゼンが持ってきたフレルドの首飾りを手にすると、ヨルナは静かに涙を流す。アイゼンはそれに気づくと病室のベッドの間仕切りのカーテンを閉めた。
「…やさしいんだ」
照れ臭そうにするアイゼンをヨルナは小さく笑った。
「もしさ、違う出会い方をしていたらなんて…たまに思う。でも私はこの道が間違っていたとは思わない。近衛に入って、結果として殿下にお仕えして背中を預けられる相棒に出会えた」
「…」
「悪かったね。事件の日の朝、あんたに隠し事みたいなことをした。実は様子見に宿場町に行った時に連中に絡まれたんだよ。倒したはいいけど…やっぱり怖かったんだと思う。それをあんたに言うことが、弱い自分を見せるみたいで何だか情けなかった」
すると、ヨルナの手が力強く握られた。
「情けないなんてことあるわけないだろ!」
あまりの迫力にヨルナは涙も止まっていた。
「お前は男に負けたくないと言ったが負けることだってあるだろ!さっきも言ったがそれでも努力するお前を俺は知ってるし、尊敬する。それでも負ける部分は頼っていいんだよ!もっと俺を頼れ、ヨルナ!」
「…」
「そもそも女に手を出すなんてクズのすることだ!男の風上にもおけない!…あぁ、くそ!今となっては謝らせることもできないじゃないか!」
アイゼンは怒りの行き場を失ってうろうろしながら百面相を見せる。
「フフッ」
笑うヨルナにアイゼンは急激に熱が冷める。
「…アイゼン、あんた格好いいね」
「えっ、え…ちょっと…」
今度は別の熱がアイゼンを襲った。
「そっか。頼っていいんだ」
ヨルナは何やら全身から力が抜けたように寝台に倒れ込む。
「おっ…おう、任せとけ」
アイゼンは顔を真っ赤にしていたが、宣言した。
「早く、戻ってこいよ」
「うん。ご厚情とはいえ、いい加減ここも退屈だ」
「殿下も待っておられる」
医局はいつの間にか季節外れの春風が吹き込んでいる。




