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イスファターナ戦記  作者: 結月詩音
五章 変革の鐘
57/125

企み


 「お待ちしてましたぜ、ゼルド様」

 

 ロロウは顔を隠すように布を巻いた人物を出迎えた。

 その人物が男であることは声色から確認することができたが、何せ布を巻いた上に仮面まで付けていれば怪しさは比較のしようもない。付き従って来る者達でさえそうである。下っ派の者達は気味が悪いからと、ゼルド達がやって来るとすぐに姿を眩ませるのであった。

 

 「出迎えご苦労。早速話をしたいのだが」

 「もちろんです。さあ、こちらに」

 

 ロロウに案内され、ゼルドとその従者達は建物のなかに入った。

 重大なことを話す部屋は地下にあった。そこには幹部の人間しか入ることは出来ない。よって、部屋にいたのはロロウと二人の幹部、そしてゼルドと連れてきた従者の二人である。

 ロロウとゼルドが席に着くや、すぐさまお茶を出してきたのは幹部の一人タツで、もう一人の幹部フレルドはまるで部屋のなかで行われていることに興味無さげにしている。

 

 「…折角ですが茶は結構。私は私の贔屓のものしか頂かない。心だけは受け取っておこう」

 

 ゼルドがそう言うと、ロロウはさっさと片付けるように促す。そんな様子を見て、フレルドは心のなかでため息をつく。

 

 「本題に入ろう。指示していた物資は集めたか?」

 

 言わずもがな、シウォンが宿場町に届けさせた物資のことである。

 

 「ちゃんとこの隠れ家に隠してありますぜ。まさか、近衛の兵が手を貸してくれるとは思わねぇで驚いたが」

 「ああ、それに関してはすまないな。こちらも急いでいたゆえに確証が持てなかった」

 「何にせよ金がもらえれば構わねぇよ」

 

 ゼルドは懐から包みを露にした。そのなかには今回の報酬が入っている。ロロウとタツは包みから見え隠れする硬貨に目を輝かせた。するとフレルドが口を開く。

 

 「…だが、これからは俺達に情報をちゃんと渡してくれないか。俺達だって生きるためにしてんだ。あんた方だって俺らが捕まっていいことはないだろう」

 

 ゼルドはまるで動かない仮面の表情をフレルドに向ける。

 

 「確かに。次の案件のからはそうしよう」

 「…」

 

 フレルドはその答えに関して、また口を閉ざした。

 

 「それで、次の仕事は何かあるんですか?」

 

 ロロウは言う。

 

 「いいや、しばらくは静かにしていてくれ。知っているかと思うが帝が触れ書を出された。我々としてもしばらくは様子を見ることになった」

 「そうですかい」

 「だから、都での復旧の作業の状況を報告してくれればそれでいい。余計な行動はかえって目的の障害になる」

  

 その後もゼルドとロロウの話は続いた。フレルドは一人その場を離れて台所へと向かった。

 何やら一人、汗をかいている。フレルドは簡易な台所から水を注ぐと、その水をごくごくと飲み干す。汗を拭って深く息を吐ききると、開かれた瞳には何かを覚悟する強い力が眠っていた。

 そしてフレルドは台所を出ると、ロロウ達の部屋には向かわず、ひそかにとある部屋へと向かったのであった。

 

 

 ▽▽▽▽▽

 

 

 目が覚めたときにヨルナは部屋の一室に閉じ込められていた。窓はそもそも開かない種類のもので、扉には鍵がかかっている。だが、普通に人が生活できそうな部屋だ。しかし、見た目に豪勢さはないからもしかしたら普通の平民の家なのかもしれない。

 

 ―どうしたらいいんだろう。

 

 下っ端の四人を倒したときに奴等を切り捨ててでも逃げるべきだっただろうか。でも、相手の数に無理に斬り込んでも捕まってお仕舞いだったはずだ。それより、奴等が反同盟派の人間であることを知ることができたのは大きい。

 死ぬことはできない。死んでたまるものか。ならせめて、奴等が私を利用できないようにするしかない。

 

 ヨルナは部屋を見回した。すると、部屋の角に花が生けられていた。ヨルナはその花を知っていた。

 アイーリスというかわいらしい赤い花だが、見た目に反してその花には毒がある。だが、僅かであれば致死量に達することはなく、古くは薬としても使われたと聞く。だったら―

 奴等もこんなところで病人が出るなんて予想しないだろう。邪魔になってもせっかくの切り札を殺すことまではしない…はずだ。おそらく朝には都の門で検問が始まって、死体の処理が面倒になるからだ。

 

 ヨルナはからだを転がしてその花瓶の下までいくと、棚に向かって体をぶつける。一度で落とさなくては音で気づかれるから思い切り。

 すると、花瓶はうまくヨルナの腹に落ちて割れずに済んだ。ヨルナはその花に顔を近づける。そして、一口、花を口に含んでその汁が出るのを感じるとすぐに吐き出した。すぐに長痛とめまいが現れる。想定内の症状だ。加えてからだが痺れ始めてくる。

 

 そこに、ロロウの手下がやって来た。

 

 「お前!」

 

 そう言ったのはおそらく幹部の人間だ。床に散らばったアイーリスを見てヨルナが何をしたのか理解したんだろう。それから男は部屋の中の水道から水を注ぐとそれをヨルナに飲ませた。そして飲み込んだものを吐かせる。

 

 「…くそっ、余計なことをしやがって」

 「花に詳しいのね…こんなことをせずにその頭をもっといい道に使っていれば…」

 「馬鹿はお前の方だ」

 

 フレルドは静かだった。

 ヨルナは霞む意識のなかで辺りを見る。やって来たのはこの男だけのようである。それにいささか不審がっていると、フレルドは言った。

 

 「お前が毒なんて飲まなけりゃもっと逃がすのも楽なのによ」

 「…どういう…こと?」

 

 フレルドの言葉にヨルナは困惑する。

 

 「このままだとお前、殺されるぞ。死にたいか?」

 

 ヨルナは首を振る。

 

 「だろうな。女の癖にアイリースを飲んで…そこまでして国を守りてぇか?」

 「わから…ない。でも、私の主は守る価値がある」

 

 ヨルナは意識が薄れていくのがわかった。手足にもう力が入らないのだ。手足の震えに気づいた男は言った。

 

 「…ずっと、嫌いだった。国とかいうもんがそんなに偉いともわからねぇのにそいつらのために働いて、貴族には頭を下げ続けて。戦争から帰ってくれば家族は病で死んでいた。誰にこの怒りをぶつけたらいいのか…そう思ってるとすべてが無駄に思えてくる」

 

 フレルドはヨルナに再び水を飲ませる。

 

 「…吐けるなら吐いた方がいい。その方が逃げるときには楽だ」


 それからしばらく吐いて、フレルドはヨルナに気付け薬を飲ませた。

 

 「だいぶ強い薬だ。戦場で負傷兵に支給されるものだからな。薬が切れたら全身が軋むように痛む」

 

 しばらくして、意識が戻ってきたヨルナはフレルドに尋ねた。

 

 「あなた…どうして私を?」

 「俺は女に手を出すような真似はしたくねぇんだ。ましてあんたは皇子の側近ってだけだろ?それに俺はゼルドが嫌いだ。この組織も変わっちまったんだよ。昔は長達とつるんでるだけでよかったが、この前とうとう人殺しまでやっちまった」

 「ゼルドって?それに…人殺し?」

 

 ヨルナはそう言った直後、再び吐き気に苦しんだ。フレルドはヨルナまた水を持ってきて口を濯がせる。

 

 「逃げ出したあとにここを調べればいい。いや…そのまま俺が自供すればいいんだな。お前、動けるか?」

 「…どうするつもり?」

 

 男はヨルナから離れて部屋の奥の壁を何やら触った。

 

 「ここは元々俺んちだ。俺の親父は大層からくり好きで家の至るところに仕掛けを作った。俺はその親父とよくからくりを作っていたから戦場じゃ技術班にいたんだよ。ここの部屋は唯一外に繋がってる。早く行くぞ。時期に他の連中がやって来る」

 

 男はヨルナの手足の縄を解いて、ヨルナの腕を肩に回す。ヨルナは力のない手足を何とか動かしたが、やがて男は見かねてヨルナを背におぶった。

 

 「そういえばあんた、名は?」

 

 男に尋ねられてヨルナは答える。

 

 「名乗るなら…自分から名乗ったらどう?」

 「フレルド。ほら、名乗ったぞ」

 「ヨルナよ…ヨルナ=シュライン」

 「へえ、お貴族様か。そんな貴族様が剣をとる必要なんてあったのか?」

 「皆に言われた…でも、兄弟に女だと見下されるのが嫌だった…」

 

 それを聞いたフレルドは笑った。

 

 「それで、兄弟よりも出世したってことか。たいした奴だなぁ、あんた」

 「…」

 「ヨルナ?」

 

 ヨルナからの返事がなくてフレルドはヨルナの体を揺すった。

 

 「ヨルナ、疲れてっかもしれねぇが意識を持ってかれるな。俺は今から組織の犯した罪状を並べてすべて言ってやる。近衛騎士と言うなら聞き逃すんじゃねぇ」

 「…」

 

 ヨルナは頷いた。

 もう、全身が眠りを求めている。でも、ここで眠ったら最後、生きていないようなそんな気がする。

 

 「…初めて人を殺したと言ったが、それは小麦屋の一家だ。勘が良ければ気づくんじゃないか?小麦を使った事件があったことを」

 「あなた…」

 「そう。皇太子殿下毒殺未遂事件。命令に従っただけとは言っても俺は、毒の入手と混入を手掛けた。これだけで死罪は免れねぇ」

 

 ヨルナはフレルドの肩に置いた手に力を入れた。

 

 「わかってるよ。無理すんな。毒のルートは命じた貴族様が渡してくれた。そこに取りに行っただけだ。その貴族様の正体も実は俺は知らねぇんだ。ゼルドとかいう奴は主犯じゃなくて仲介役みたいだからな。ゼルドって名前も嘘だろうし」

 

 フレルドは「すまないな」と言いつつ苦い顔をした。

 

 「そんでさっきそいつに会ったら、しばらくは行動を自重することと言われたわけよ。帝が触れ書を出したことで動きにくいらしいが、俺はそれ以上にゼルド達がここで俺達を切ろうとしているように思える…。どのみちあんたはロロウ達にとって一番厄介な荷物になる。その事に気付く前にあんたを逃がさなくちゃならねぇ」

 

 フレルドの先に扉が見えてきた。出口である。

 

 「…ただ、一つだけ奴等の拠点を知っている。俺らが捕まったらそこも使われなくなるだろうが、都の東のルヴェロって宿屋の地下だ。そこに一度呼ばれたことがある」

 

 フレルドは扉に手をかけた。

 そこを開けると、どうやら都のどこか住宅街に出たようである。フレルドは辺りを見回して一息つく。どうやらまだ逃げたことを気づかれてはいないらしい。

 フレルドは出口を近くの荷車で封じた。もし追っ手が来ていてもこれで出ることは出来ないはずだ。

 外は二人の心の焦りと反対にとても静かであった。その静かさは余分な焦りを生んだ。

 

 「ヨルナ、きついだろうが堪えてくれ」

 

 一刻も早く城へ-そういう心理が働いたのは仕方のないことだった。ヨルナとフレルドはそうして城へと向かったのである。

次話でちょっと一段落です。


スッキリの状態で週を始めたいので、

0時にもう一話投稿します。


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