幕間 爺の記憶
あの方がお生まれになった時は、それはそれは国中が歓喜に沸いた。ルシアン四世帝の御代にようやくの皇子が誕生した。即位から実に八年。
その喜びはルシアン四世帝が一番感じておられた。元々病弱であった帝は子どもができるかも危ぶまれていた。待望の皇子に、帝はその喜びをひそかにわしに吐露された。
「爺よ。ようやく…ようやく子を持つことができた。自分の子とはあんなにも愛らしいものなのだな」
「そうでございましたか。であれば、今後はますますこの国とお生まれになった皇子のため、励まれねばなりませぬな」
わしは帝の友人のようなものになっていた。平民であるわしに、帝が心を開いてくださるのは畏れ多いことと初めは思っていたが、何よりその心に誠実でありたいといつの日か思うようになっていた。
お生まれになった皇子はアレクロイという名を与えられた。
幾度と皇妃様の腕に抱かれている姿を拝見したが、わしが皇子と初めて言葉を交わした時には、皇子が生まれて実に十二年もの歳月が経っていた。その間に帝にはもう一人の皇子が誕生し、アドロフという名を与えられていた。
とにかく、初めてアレクロイ様と言葉を交わしたときのことは忘れることができない。
「そなたは何をしておるのか」
子どもらしい質問だった。
「わしは掃除をしております、殿下」
初めてのアレクロイ様との会話に、わしは感極まっていた。
「掃除とは何だ?書物でも見たことはないし、師匠に聞いたこともない」
十二歳ながらにアレクロイ様はたくさんのことに興味をもたれ、帝もその成長を喜ばれていた。
「はあ、でしたらしばらくわしの仕事を見ていかれますか。何と説明の仕様もございませんからな」
それからわしが掃除、の説明をしていると、アレクロイ様は目を輝かせて言った。
「では、そなたは私の宮殿を綺麗にしてくれていたのか。そのホコリというやつが溜まらぬのは、そなたのお陰なのだな!」
アレクロイ様はそれからあまりにもわしを誉めてくださるものだから、大人げもなく照れてしまった。
それからしばしばアレクロイ様はわしの仕事を見にこられて、かつての帝のごとく色々な話をわしに相談に来た。
そのなかでも一番アレクロイ様が悲しげな表情をされたのは、皇妃様と弟であるアドロフ様のことだった。
アドロフ様はお生まれになってからよく体調を崩され、皇妃様はアドロフ様にお心を向けておられる節があった。それは宮殿に仕える者なら噂になるほどであったし、アレクロイ様のお心に、母親が恋しく感じられるのも当然のように思えた。
「爺、私はアドロフのことは好きだ。だが、恨めしく思ってしまう。そんな自分が堪らなく嫌だ」
「…左様でございますか」
「爺、私は弟を嫌いたくない!どうしたらよいと思う?」
わしとて考えるのは難しかった。だが、わしはかつてこれと似た経験をしたことがあった。
「ではアレクロイ様は今、何ができますかな」
「何…とは。私は今師匠に世界のことを学んでいる。面白いのだぞ!この世界は果てしなく広く、たくさんの考えを持つ者がいる。イスファターナはその世界の一部分で、そこに住む者達を守るのが父上の仕事だ!それから…」
わしはアレクロイ様が、習われたことを嬉しそうにお話になるのを見ているのが好きだった。帝もこの話を聞けばどれほど嬉しく感じられるだろうか。
「…では、アレクロイ様。本がお好きとお聞きしましたが、アドロフ様にお話をたくさんしてあげてはどうですか。アドロフ様は寝台からなかなか起きられずにおられるそうですし、アレクロイ様は話上手です。この爺も、いつもアレクロイ様のお話を楽しみにしております」
「話をか」
「ええ。アドロフ様のお体にも負担はございませんし、よい案かと思われます。それでもダメでしたらまた、爺と考えましょう」
それからしばらく、アレクロイ様はわしのもとに姿を現されることが少なくなった。その顔はいつもにこやかである。きっと、アドロフ様との時間を楽しまれているのだろう。わしはそれを思うと嬉しいのと同時に少し寂しくも思った。アレクロイ様と話をすることを、わしは当然のことのように毎日の楽しみにしていたのだろう。
今日も挨拶だけをして笑顔で手を振り去っていくアレクロイ様を、見送って仕事に戻ろうとすると、帝がそれを見ていたようだ。
「…あいつもそなたに相談をしていたらしいな」
「これは帝…。相談というほどのものではございませんよ。かつてのあなた様のように話し相手になっていただけです。それで、珍しいですな。帝がわしのところへいらっしゃるのは。最近はお忙しいとお聞きしましたが」
帝は昔を思い出していたのか、クスッと笑いながら、しかし次にはため息をついていた。
「ああ。反皇国派が動き出しているからな。アレクロイが大きくなるまでに、奴等をどうにかしておきたい」
「親心ですな。ですが、ご無理はなさらないように。お体は大切になさってくださいませ」
「まだ倒れるわけにはいかないさ。やるべきことはうんと残っている。爺、子ども達を頼んだぞ」
帝はそうして帰っていった。
帝の顔にはかつて見られなかった冷たさが時折姿を見せていた。帝になるということはそういうことなのだと、わしは思う。
わしもそれなりに本が好きだ。ジルサ=シュタートの著書はわしのお気に入りでもある。彼が書くのは歴史書だが、歴史書自体はわしは嫌いなのだ。しかし、わしが彼の本を好きなのは、過去に生きた人物を否定しないことである。
よく歴史には正しい人間と悪い人間とに分けられて書かれることがある。確かに、悪人とはどの時代にも必ずいるし、欲のある人間もいる。でも、それだけではないとわしは知っている。人間、そう単純には生きていない。それをよく考えて書いているのがジルサ=シュタートなのである。
わしが偉そうなことを言えた身分ではないが、帝は帝となるために、かつての優しさの一部を冷酷にならざるを得なかったのだと思う。
―自分の役目であるものになるために、人は何かを纏って生きている―ジルサ=シュタート
ジルサ=シュタートは著書の一つでそう述べている。
帝は立派になられた。
わしは、そんな友人を見守ることしかできない。でも、その関係でお互いに十分なのだとわかっている。
六年の歳月が経って、わしも白髪が少し混じり始めるようになってきた。
最近のアレクロイ様はそれはたくましくて、国中の期待を寄せられている。アドロフ様も最近は見違えるように健やかになられて、兄を追いかけるように文武に励まれている。
わしは相変わらず掃除をする毎日だ。
「爺!」
アレクロイ様は最近、決まってわしのところにやって来る。その手には菓子が握られている。
「これは殿下」
「爺、少し付き合ってくれ」
「はいはい」
この方と話すのは楽しい。歳の差はそれこそ親以上にある。でも友人の息子、というより仲間という感覚の方が近しい気もした。
「実は今度、宮の殿から貴族の娘と会うように言われている」
「ほう、それは…」
「私に妃を迎えよと言うのだ」
「兄上!妃を迎えられるのですか!」
アレクロイ様についてきたのだろう。アドロフ様が目をぱちくりとさせて立っていた。
「アドロフ、来ていたのか?」
「…す、すみません。つい兄上のお姿を見ていたら…」
アレクロイ様は手を伸ばす。
「さ、こっちに来い。菓子をもらってきた。お前も食べろ」
アレクロイ様は自分の膝の上にアドロフ様を乗せて菓子に手を伸ばす。
「兄上、私はもう子どもでは…」
「私から見ればお前はずーっと子どもだぞ?」
「えっ!」
「冗談だ。すまん、爺。少し詰められるか?」
テラスの段に三人並んで菓子を食べる。その菓子の甘さは絶妙だった。
「兄上、この菓子の名は何と言うのでしょう?」
「…さて、私も貰い物を持ってきたからとんとわからぬ」
「これは柏餅ですよ」
わしがそう言うと、お二人はわしに説明を求めるようにじっと見てきた。
「わしにもうまくは説明できませんが、柏の葉で餅をくるんだ菓子で、田舎では子どもの成長を祈ってよく食べられるんです」
「そうなのか。こんなにうまいものは初めてだ。クッキーやケーキもうまいが、これを考えた人間はすごいな」
アレクロイ様はモグモグと二つ目に手を伸ばす。わしは手持ちの茶を注いで殿下方に配ると言った。
「アレクロイ様、まずは相手をまっすぐ見て話をなさってください。女性は相手に安心を求めるものです。たとえ国のための結婚であろうと、そこから幸せになるという例を、私はいくつも知っています」
「そうか。そなたにそう言われると安心する。私は国に生きると決めた。この国と他の国が仲良くできるのは、願いではあるがそれには私の才では足りない。私の子やそれに続く者がきっと叶えてくれると信じて、私はこの国を一つにする。爺、アドロフ、そなたらは私の宣言の証人だ」
わしもアドロフ様も、アレクロイ様の宣言にしばらく言葉を失った。アドロフ様がどうかはわからないが、その時、わしはかつて無い光をアレクロイ様に見つけたのかもしれない。
この方なら、国を一つにするどころか本当に分裂した三国と手をとる日が来るのではないかと、そう思わせる何かがあった。
「名付けて『柏餅宣言』だ」
だが、そう言う姿はやはりいつものアレクロイ様だった。
「では、私は兄上の右腕となれるよう一層頑張ります!」
そう言ったアドロフ様が少しわしには羨ましかった。わしは所詮はただの清掃員。それ以上の何者でもない。
「…では、未来へと励まれる殿下方のお住まいをより綺麗にするのがわしの役目ですな」
そう言うと、アレクロイ様は言った。
「それだけではないぞ。そなたは私の爺だ」
「…はぁ」
アレクロイ様はわしのしわしわの手を握って言う。
「私の大切な家族に等しい爺だ。ゆえに、長生きしてくれ」
「…はっ」
「ちなみにだが、わしはそなたの名をまだ聞いてはおらぬ。これだけ長いこといるのに、名を聞く時期を逃した。私が帝となったら、そなたの名を教えてくれ」
満面の笑みをアレクロイ様は浮かべて言う。
「…では、その時を楽しみにしております」
わしは嬉しかった。
お二人が帰られた後も、しばらく握られた手を見つめ続けていた。アレクロイ様の手の温もりがよみがえり、再び感極まる。そしていつの間にか涙を流していた。
しばらくして、アレクロイ様は妃を迎えられた。有力貴族のニクロス家の令嬢を迎えて、皇太子宮殿は以前に増して賑わいを見せていた。連日の儀式で忙しいのだろう。なかなか会うことができなかった。わしは儀式の合間に宮殿の清掃をする。いつもより少し上増しで綺麗にすることで、会えない分の何かを埋めていった。
そんなある日の夜、わしは普段、宮殿に仕える人間の宿舎に泊まっているのだが、その宿舎の部屋の戸が激しく叩かれた。わしは何事かと扉を開ける。そこには帝が立っていた。
「…帝?」
帝の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「…爺、何かを羽織ってすぐに外に出てこい。すぐにだ!」
わしは慌てて上着を着て外に出る。帝の側近の馬に乗せられて、わしが向かった先は皇太子宮殿だった。
皇太子宮殿に入ると、そこは医師達が行き来していて、ただならぬ状態だった。寝室の前には皇妃様とアドロフ様が立っている。帝は皇妃様がわしの存在に驚いて訳を尋ねるのを無視してわしを部屋に入れた。
「アレクロイ、爺をつれてきた」
寝台に寝かせられていたのは紛れもなくアレクロイ様だった。その寝台には所々に血が付着している。
「…爺」
帝はわしの肩に手を置かれた。その手は震えている。わしはその意味を理解してアレクロイ様に目を向けた。
「爺…ここへ来てくれ」
アレクロイ様は少しいつもより力の無い笑顔で言う。わしは言われる通りに側に寄った。
「ああ…ようやく爺に会えた。ずっと…会いたかった」
顔色がうんと悪い。
「ここにおります。爺はここに」
アレクロイ様はこくりと頷かれた。
「爺…私は望みを叶えたぞ」
その目は力強かった。
「…反皇国派の者達を今回のことで一掃できる。イスファターナはこれで一つになる」
「であれば、これからでございますよ。アレクロイ様の願いにもきっと手が届きましょう」
アレクロイ様は首を振った。
「…この傷だ。もはや助からない。私には時間がないのだ」
「…」
わしは溢れそうになった涙を圧し殺した。帝もわしの後ろで必死に声を殺している。
「まだ…わしは名を伝えておりませんぞ」
「…そうであった。そればかりが心残り」
アレクロイ様はわしの頬に手をやった。
「…爺、そなたに頼みがある」
「…っ。なんでございましょう」
「帝となった者の生き様をそなたが見届けてくれ。私が叶えられなかったことをきっと先の者が果たしてくれると…私は信じている。これからも皇族を頼む」
「もったいない…お言葉です」
「何を言うか…そなたは私の家族に等しい爺だ。そう申したであろう。それから、そなたの名は、それを伝えてよいと思えた者に教えよ。誰彼に教えるんじゃないぞ?私が嫉妬してしまう」
アレクロイ様は笑うなりフッと息をつかれた。
「アレクロイ!」
帝はたまらずアレクロイ様に駆け寄った。
「父上…孝行もできぬまま先に逝くこと、お許しください。お体を大切に、これからもこのイスファターナの帝として私の憧れでいてください」
「…アレクロイ」
あとで聞いた話だが、アレクロイ様が妃を迎えたニクロス家は反皇国派と繋がっていたらしい。この日の昼、花の殿では帝のみが出席する儀式があり、その際、突如現れた反皇国派に帝は命を狙われた。そこにニクロス家の繋がりを知ったアレクロイ様が兵を連れてきたのだという。その際に激しい乱闘があり、アレクロイ様は負傷されたのだという。
「…アレクロイ、お前は私の自慢の息子だ。お前がいなくては私はここにはいない。だが、お前を失うことなどあってよいことではない!」
帝は言った。
「…父上、私にはたった今わかったことがあるのです」
アレクロイ様はちらりとわしの顔を見られた。
「…私はきっかけを作る者としてこの世に生まれてきた。私の願いは三国と手をとる日がやって来ること。私の願いは父上始め…、アドロフが知っています。そして…それを見届けてくれる者もいる…私は十分に生きたのかもしれません」
アレクロイ様は何か大きなものから解放されたように大きくため息をつかれた。
「…ああ、もっと世界が知りたかった。もっと、大切な者と話したかった」
「アレクロイ!」
帝は叫んだ。その声に皇妃様とアドロフ様が部屋に入ってくる。
しかし、アレクロイ様の目には誰の姿も映っていない。それどころか声すら届かなくなっていた。
「…幸せだった」
最後に残された声を聞いてしばらくは誰もがからだをその場で固めていた。状況を理解することを拒否したせいかわからないが、事態を知った近衛隊の鳴らした鐘が都中に響き渡るのですら、現実と認めないでいた。
数日後、わしは帝の計らいで本来参列できない皇族の葬式に出席を許された。進言したのは他でもない皇妃様だったらしい。
「…アレクロイはあなたを慕っていたとか。本当にありがとう」
皇妃様から礼を受けて、わしは首を振った。
「アレクロイ様に助けられたのはわしの方でした。これから、あの方無しの人生など到底考えられたものじゃありません」
「…私もです。爺殿。今度、私の宮殿にいらしたら声をかけてください。私の…話し相手になってほしいのです」
皇妃様は美しいことで知られていたが、その美しさは今はどこか儚げであった。
「…私でよろしければ、いつでもお相手をさせていただきます」
「爺殿、あなたに一つ役目を与えたいのです」
皇妃様はわしにアレクロイ様の墓の手入れを任された。わしがやる方が喜ばれるだろうと仰ったのである。
「光栄でございます。私が任されるとは…」
「私からの望みです。頼みましたよ」
それから六年後、皇妃様が亡くなられ、さらに二年後にルシアン四世帝が病床に伏せられた。
「…爺、昔の病が今ごろになってまた現れた。私の人生の三分の一は病との闘いだったな」
「気弱になられますな」
「…爺、そなたは何歳からここで働いている?」
「十歳からでございます。もう四十年以上ここで掃除をし続けております」
そう言うと、帝はわしにアドロフ様を託された。
「あの子はきっといい帝になる。幼い頃は体が弱かったが、シヴァの腹にはアドロフの子がいる。元気に育ってくれて何よりだ」
「まもなくシヴァ様のお子も生まれます。帝の孫に当たられるお方が誕生するのです。まだまだ元気でいらっしゃらねば」
「…そうだな、私の孫か」
三ヶ月後、アドロフ様とシヴァ妃のお子が生まれ、帝はそのお子を抱かれた。シヴァ妃たっての希望でシウォンと名付けることを帝は快く許可した。
だが、国中の喜びもすぐに収まることとなった。シウォン様がお生まれになって一ヶ月後、ルシアン四世帝は崩御された。
帝はわしに手紙を残されていた。
― 爺へ ―
四十年近い付き合いで、文を書いたのはこれが始めてだな。なんだか気恥ずかしい。
友よ、私はそなたに出会った頃は、私は寝台での生活を主としていたな。そなたが私の寝室に来たとき、同じ年頃の少年が働いていると目を見張ったものだ。なんとか、そなたを引き留めたくて毎日苦心したものだ。今思えばそなたの仕事の邪魔でしかないが。
それと、お前は昔っから爺と名乗り、わしと自分を呼んでいたが、若い頃から老ける努力ばかりしていたのではないか?理由を聞きそびれてしまった。だが、結果としてそなたが一番長生きだったな。長生きしてくれ、友よ。そして、その目で見た者を、こちらに来た時に私やアレクロイ、皇妃に教えてくれ。
友よ、そなたがいなければ私は帝になれなかった。
感謝している。
―ルシアン=イスファターナ―
わしはしばらく立ち直れなかった。そして喪の間、四十年近い勤務時間の中で始めての有休を使った。
わしは喪が明けてから、アレクロイ様の墓に掃除に向かった。これまで定期的に行っていたが、喪の間は行くことができなかったのである。
「アレクロイ様。そちらで皆様元気になさってお出でですか」
わしは柏餅を墓前に備えた。
「八年とは早いものですね。帝からお聞きになりましたか?アドロフ様にシウォン様というお子がお生まれになりました。あなた様の甥に当たられます」
わしは皇族の方々を見送る役目にあるのかもしれない。ふと、そう思った。
「爺!」
呼ばれて振り返ると新帝アドロフ三世が墓のあるこの丘まで登ってこようとしていた。
「休暇を取っていると聞いた」
「はい…この四十年で初めての有休を使いました」
「…イスファターナ皇家はそなたに皆助けられているな」
「もったいないお言葉です」
「いいや、間違いない」
アドロフ三世帝は墓前の柏餅に気がついた。
「懐かしいな。そういえばあの日に食べて以来、口にしていない」
「…よかったらいかがですか。いくつか持ち帰ろうと思っていたので」
アドロフ三世帝は懐かしそうに柏餅を頬張った。そして、食べ終えるやクスクスと笑った。
「これを食べたからには宣言しなくてはならんな」
アドロフ三世帝は墓前に向かうと手を合わせて言った。
「私は兄上の願いをきっと引き継ぎます。せめて一国と同盟を結びます。ゆえに、見守ってください」
アドロフ三世帝は「よし!」と言うとわしに仰った。
「爺、これからも頼む。そなたには皆が重い荷物を背負わせていくようで悪いが」
「…いいえ、それがこの爺の役目でございます」
わしはこれからもイスファターナの皇族の方々を命のあるかぎり見届けていくんだろう。
友人である先帝ルシアン四世帝、故皇太子アレクロイ様、僅かな間ではあったが話し相手であった皇妃様。どうか安らかに。
そして、イスファターナをお守りください。
こんばんは、結月詩音です。
本日はここまでです。
今後は少し投稿の間隔が空きます。
お待ち下さい。




