25/125
キシュの手記
今でも、あの光景が消えることはない。
目で、耳で、鼻で、触覚で感じたあの場のすべての情報が記憶されている。月日が経てば記憶は風化すると言うけれど、恐らくあの場で起きたほとんどのことを今でも鮮明に思い出し、語ることができるだろう。
『ソウェスフィリナ』とそう聞くだけでもこの身の何かが蝕まれる。
あのときの俺に出来たことは、あれ以上にはなかった。こうしていれば…!という後悔がよぎるのは、騎士として重ねた日々で思うことだからだ。
あの日、何万という命が奪われた。
その根源は俺だ。
この記録が俺の全て。
俺が俺であるための戒めの記録。
そして、シウォンの願う未来を共に歩くために、己が何者であるかを記したもの。
この記録に、シウォンに仕えはじめてからの日々も綴ることにしよう。
失った命の分、俺には生きる意味があるはずだから。




