過去への清算
「お、見えたぞシウォン!タンベルクだ!」
キシュが指を指した先に町の建物が見えていた。ソウェスフィリナ国境に一番近い町、タンベルクである。
あれから一週間、まもなくソウェスフィリナから使者として第一王女がやって来る。シウォンはその出迎えのために、国境に一番近いこのタンベルクに来ていた。
いつもと違うのはそこにリフキアが同行していることである。疲労による風邪で倒れていたリフキアであったが、二、三日で回復し、この数日は正式にシウォンの補佐として働いていた。
「ところでシウォン、ここまで来たら少し寄りたいところがあるんだが」
キシュが言った。
「構わないがどこへ行くんだ?」
「…ウィジュグラードだ」
このタンベルクはウィジュグラードの目と鼻の先にある町だった。
六年前、そこでキシュは将軍として軍を率い、ソウェスフィリナの侵攻を食い止めた。一躍『雷帝キシュ』の名を諸国に広めた戦いであったが、同時に多くの犠牲を出したこともまた事実。今回のソウェスフィリナとの同盟は、あの戦いを知る者には辛いものであることも確かである。
シウォンはウィジュグラードに寄ることを許可した。
ウィジュグラードに到着すると、そこはまっさらな平原が広がっていた。血で血を洗うような凄惨な場所であったとはとても思えない、とても静かな場所だった。
キシュはまじっと大きな木の下に設置された石碑を見ていた。
『ウィジュグラード戦場跡地
イスファターナ皇国とソウェスフィリナ王国両国の兵士の安らかなる眠りをここに祈る…』
そう書かれた石碑に手を合わせ、花を手向けると、キシュは少し歩いた先の小さな木碑に手を合わせた。
「…来るのが遅くなった、すまない。もうみんな知ってるか?今度、ソウェスフィリナと同盟を結ぶことになった。あの時戦った敵と仲良くしようだなんて、信じられない奴もいるだろう。でも、この同盟が成功することであの時、俺達が守ったものはこれからも守られる。その足がかりになると思えば少しは許してくれるか?血を流すこの時代を終わらせるために、みんな見守っていてくれ」
まるで友に語りかけるような口調でキシュは言った。そして手にしていた酒を木碑にかける。
「…これはお前が作ったものか?」
シウォンが言う。
「そうだ。あっちの立派なやつは軍が作ったものだ。あの戦いにおいて俺のせいで失われた命がある。俺はそれを生涯忘れちゃいけないんだ」
「だが…」
「いいや、何と言われようとこれは俺の気持ちの問題だ。個々人の主張を無視して、俺はそう思ってる。この木碑は俺のみんなに対する覚悟を誓うためのものだ…自分勝手なのは承知の上だ」
シウォンはキシュをぎゅっと抱きしめた。
「お前は…少しは背負わせろと言ってもそれを頼ろうとしないな…」
「すまん、性分だ」
シウォンはキシュから離れると言った。
「…もうすぐ日が落ちる。タンベルクに戻って宿を探そう」
「ああ」




