第拾八話「惨殺③」
<登場人物>
影月 十太郎
本作の主人公 少々いいかげんな性格でありながらも、自称「やる時に、たまにはやる男」元締に頼まれた仕事を引き受けたゆえに、闇の地にて闇住者に追われる。お気に入りの小刀は京橋近くの古手屋から購入した甲割『十六夜』
霧雨 九蔵
沈着冷静な霧消流剣術の使い手 十太郎と共に元締に仕事を頼まれたことで、事件に巻き込まれていく。愛刀は中先代の世から霧雨家に伝わる『時雨丸』
六道 三右衛門
江戸の口入れ屋の元締め 旧知の知人 夢戒僧正に依頼された仕事を十太郎に任す
夢戒僧正
『丑寅の関』向こうの地にある旧寺の住職 丑寅の関の乱の原因となった事件を引き起こす
ひそ無
夢戒僧正の寺の最後の稚児 この幼児のもつ力を各藩は欲している
<奥州青葉藩>
葵 頼年
後の藩主青葉頼年 輝久の死去に伴い、水戸藩から迎えた養子 丑寅の関の異変に気付き何とかくい止めようと苦心する
支倉 兼嗣
青葉藩筆頭家老 『丑寅の関』の事変に深くかかわりをもつ
明石 右近
青葉の赤鬼と恐れられる青葉藩家臣随一の剣豪 『丑寅の関』の関守に命じられる。
川田 長兵衛
青葉藩家臣 明石の重臣
大谷 古四郎
青葉藩随一の豪商 遣欧使節に乗じた密貿易で得た富で青葉藩に武器を供与
ノーノ・サントス
異国より遣欧使節団とともに密入国した少女 兼嗣の命で大谷家に寄宿している
レイナ・ファルケ
ノーノとともに密入国した修道女 兼嗣の命で大谷家に寄宿している
<鳳凰藩>
すう
青葉の地で隆康に気に入られた側女 崇宗を産み 崇宗の時代に代わると城内で大きな権力をもつ
鳳凰 崇宗
鳳凰藩主 爽やかな風貌で家臣の信頼も厚い 人前で声を発さず二人の小姓を使って家臣を動かす
葦毛 坊丸
崇宗の小姓 右目が蒼い 感情を表に出すことなく崇宗の言葉を家臣に伝える
栗毛 峰丸
崇宗の小姓 左目が赤い 感情を表に出すことなく崇宗の言葉を家臣に伝える
鷹田 康三郎
鳳凰藩士 主君の密命を帯び、十太郎と接触する 家臣の砂田と土呂は青葉藩にて捕縛斬首 その後、別命を帯び青葉藩へ向かう
菊川 保知
鳳凰藩家臣 『朝露』の里より、忍びの者『草』を率いる。獄につながれた鷹田の救出を主君から命じ
田菜
『朝露』の一草 三番目の少女 数え十三
茅
『朝露』の一草 四番目の少年 数え十
堅香子
『朝露』の一草 一番年若の少女 数え九つ
<闇住者>
闇住者
詳細不明
射干玉の化生
青葉藩の獄にて保友と対峙 幻術で保友を翻弄する 他にも同じ顔をした者が複数存在している
奥州街道の関では、通せ、通さぬという押し問答が繰り広げられていた。
旅人や商人だけではなく、その中心となるのは長く街道に列を連ねる兵であった。近在の村々に住む人々は戦火を恐れ、早々と山中に逃げている。
青葉藩の関守らは「たとえ幕府の命であれ、藩主の許可無くして通せぬ」という苦しい言い訳を続けている。
一般の者たちであれば、この一言で制することは十分であったが、ここで相手をしているのは幕府の命を受けた他藩の軍勢である。
兵たちの殺伐とした雰囲気がこの地に充満していた。
青葉藩としても、彼らを藩内に入れても入れなくとも大きな混乱が生じることは十分理解していた。
そこに芦毛の馬に乗った見目麗しい若武者が、二人のこれもまた若い小姓を連れ関所の大門の前に降り立った。
「開門せよ!」
小姓の一人が鳶のように高く鋭い声で門を開けるよう命じた。
「どう言われようとも、我らはだれも通すなと主上から命じられております、開けぬと言っている訳ではない、しばし、しばし、お待ちくだされい」
若武者はもう一人の小姓に小さく耳打ちした。それを聞いた小姓は大きくうなずくと先の小姓よりもはるかに大きな声で立ちふさがる関守を怒鳴った。
「御上意である、我らを邪魔立てする者は何人にもかかわらず御征伐いたす」
これまでと思った関守は、最後の手段として数人前に歩みいでその場に座り、もろ肌を見せ、有無をいう暇もなく自らの脇差しで腹をかっ切った。
本来、侍であれば、この関守の行動に免じて少しの猶予は与えよう、だが、この血気あふれる鳳藩の者たちにはそのような情に訴えるような小賢しい手は何の妨げにもならなかった。
小姓二人は無表情のまま、介錯も無しに苦しむ青葉藩の関守の身体を足蹴にして道を広げた。
その様子を見ていた青葉藩の侍は怒りの言葉を発しながら小姓に刀を振り上げ襲いかかってきた。
若武者を守る従者たちも間髪を入れず、槍を繰り出すと、汗ばむ馬の肌に血しぶきがとんだ。
いくつもの首が子供の手鞠のように路上に転がる。
若武者は自らのこしらえ刀を地面に転がる切腹した関守の首に何度も突き立てた。他の首と並べて彼らの首を地面に転がしたいような仕草である。
二人の小姓は手拍子をしながら新しい遊びを見付けた若武者を褒め称えた。
両軍の兵に鬱積した不満が、煮え立つ油に水を注したかのごとく噴き出した。
この日、国見の関において、太平の世を打ち破る『青葉の乱』の火ぶたが切って落とされた。




