第拾八話「惨殺①」
<登場人物>
影月 十太郎
本作の主人公 少々いいかげんな性格でありながらも、自称「やる時に、たまにはやる男」元締に頼まれた仕事を引き受けたゆえに、闇の地にて闇住者に追われる。お気に入りの小刀は京橋近くの古手屋から購入した甲割『十六夜』
霧雨 九蔵
沈着冷静な霧消流剣術の使い手 十太郎と共に元締に仕事を頼まれたことで、事件に巻き込まれていく。愛刀は中先代の世から霧雨家に伝わる『時雨丸』
六道 三右衛門
江戸の口入れ屋の元締め 旧知の知人 夢戒僧正に依頼された仕事を十太郎に任す
夢戒僧正
『丑寅の関』向こうの地にある旧寺の住職 丑寅の関の乱の原因となった事件を引き起こす
朱説
夢戒僧正を慕う若き修行僧
<奥州青葉藩>
青葉 輝久
先代の暗愚な青葉藩主
葵 頼年
後の藩主青葉頼年 輝久の死去に伴い、水戸藩から迎えた養子 丑寅の関の異変に気付き何とかくい止めようと苦心する
支倉 常継
兼嗣の父 他藩との折衝役を主に引き受けている
支倉 兼嗣
青葉藩筆頭家老 『丑寅の関』の事変に深くかかわりをもつ
明石 右近
青葉の赤鬼と恐れられる青葉藩家臣随一の剣豪 『丑寅の関』の関守に命じられる。
川田 長兵衛
青葉藩家臣 明石の重臣
大谷 古四郎
青葉藩随一の豪商 遣欧使節に乗じた密貿易で得た富で青葉藩に武器を供与
ノーノ・サントス
異国より遣欧使節団とともに密入国した少女 兼嗣の命で大谷家に寄宿している
レイナ・ファルケ
ノーノとともに密入国した修道女 兼嗣の命で大谷家に寄宿している
<江戸幕府家臣>
酒井 久朝
幕府の若年寄り 諸国巡検使として青葉藩に赴くが部下が失態を犯しその責任を負い蟄居となる
市河 助衛門
青葉藩に隠れキリシタンを詮議するために遣わされた郡奉行 夢戒僧正を無実の罪で牢獄に入れ、洞鉛の地を惨劇の場にしたきっかけをつくる
丹羽 勘兵衛
鷹田と同じ獄の囚人 鷹田に丑寅の関内での一端を伝えるも刑死
<鳳凰藩>
鳳凰 隆康
先代の鳳凰藩主で崇宗の父 青葉藩への巡見で崇宗の母となる女すうを妾とする
すう
青葉の地で隆康に気に入られた側女 崇宗を産み 崇宗の時代に代わると城内で大きな権力をもつ
鳳凰 崇宗
鳳凰藩主 爽やかな風貌で家臣の信頼も厚い 人前で声を発さず二人の小姓を使って家臣を動かす
葦毛 坊丸
崇宗の小姓 右目が蒼い 感情を表に出すことなく崇宗の言葉を家臣に伝える
栗毛 峰丸
崇宗の小姓 左目が赤い 感情を表に出すことなく崇宗の言葉を家臣に伝える
鷹田 康三郎
鳳凰藩士 主君の密命を帯び、十太郎と接触する 家臣の砂田と土呂は青葉藩にて捕縛斬首 その後、別命を帯び青葉藩へ向かう
菊川 保知
鳳凰藩家臣 『朝露』の里より、忍びの者『草』を率いる。獄につながれた鷹田の救出を主君から命じられる
月草
『朝露』の一草 年長の少女 数え十五 青葉藩潜入途上で死亡
銭巻
『朝露』の一草 二番目の少年 数え十四 鷹田を獄から奪還する途上で死亡
田菜
『朝露』の一草 三番目の少女 数え十三
茅
『朝露』の一草 四番目の少年 数え十
堅香子
『朝露』の一草 一番年若の少女 数え九つ
<闇住者>
闇住者
詳細不明
射干玉の化生
青葉藩の獄にて保友と対峙 幻術で保友を翻弄する 他にも同じ顔をした者が複数存在している
十太郎の前には即身仏が一体、壇上で座禅を組んでいる。うつむきかげんに垂れ下がる頭骨の眼窩はくぼみ、破れた袈裟から茶色く濁る爪だけが目立つ腕が伸び、股の上で絡められていた。
「長い幻灯会を見せてもらった後に、木乃伊の置き土産かい、この坊さんは本当にいかれた奴だったんだな」
十太郎は、突きつけられた過去の事実を気にする素振りも見せず、大きなあくびをした。
九蔵や右近、保知は何も言えずただ黙ったままである。
「お主が兄弟などと……」
九蔵がようやく口を開けた。
「じじいの戯言だ、俺は俺、お前はお前、忍びは忍び、赤鬼様は赤鬼様だ……ただ」
十太郎は即身仏に近付き、語りかけた。
「隠れていないで、出てこいよ兄弟、六道のじじいがお前を探しているんだ」
十太郎の言葉に、即身仏の陰から五歳ほどの幼児が顔をのぞかせた。前髪と頭頂部に残した髪型を結んだ芥子坊主と呼ばれる髪型の幼児がおそるおそる姿を見せた。
瞳の色は銀色で瞳孔の外縁だけが赤く輪を描いていた。
「幻灯会の最後で血の宴が始まると言っていた……」
九蔵が口をようやく開いた。
「残された一人を守れっつぅことなんだろうな」
十太郎はおずおずと差し出された幼児の小さな手を握り、自分の方へ引き寄せた。
彼らがいた豪勢な建物はそこにはなく、屋根から差し込む日の光が十太郎たちの顔を照らした。
「我らは人なのか?」
保知は誰にでもなく問うた。
「そう思っているうちはそうじゃねぇか、ただ、俺たちは闇住者たちにとっては都合の良い人形の役割も担っているってことよ、赤鬼様は人形じゃ無くて良かったなぁ」
「ううむ」
「ただ、初めに賽を振ったのは青葉の殿様だからな、お前様方はそのけじめをしっかりとつけてもらわなきゃな」
十太郎の言葉に、明石右近はうなったまま、ゆっくりと立ち上がった。
「その子供はここに置いておけ、わしが成敗する」
「まぁた、頭の固いお侍様だ、この子供を殺したって何も変わりゃしない」
「なぜ、他藩がこの地に固執している意味は分かるな」
「ああ、幕府が欲しいのは死なない侍、骸だ、そいつらを増やし操ることで、幕府に逆らう藩を簡単に潰すことができる、他の小藩も同じ、骸の作り方を手に入れりゃ簡単に幕府を倒すことができる、その秘密を漏らさぬようにしていたのがあんたたち、青葉の文様を背負った藩だよ」
「この秘密さえ守ることが出来れば、無駄な戦をせずにすむ、嘘だと思うのならこの子の肌を見よ」
十太郎は幼児の首筋から背中まで肌に彫られた文字があるのを見た。
「身体に消えない書き付けかい、いかすかねぇ趣味だ、子供は寺子屋で手習草紙が似合っているっていうのに、気狂いの奴らの考えはとんと理解できねぇ」
「置いていけ!」
右近は両の手を振り上げ、十太郎と幼児に向かって突進した。
突進を避ける十太郎は幼児を九蔵に投げて渡した。
「九蔵さん、いや弟か、いや、兄貴か?どっちでもいいや、この子を頼む、おめぇまでここまで来て殺すなんて言わないでくれよ、赤鬼様のけじめがこれなら、悪いがこいつを殺すしかねぇようだ」
十太郎は、近くの細い木の枝を手に取り、小枝を手で払い落とし腰を低く落とし身構えこう言った。
「俺も言っておきたいことがありやした、ここまでの道案内に心から感謝しやす、青葉藩のあんたがいなけりゃここまで来るのにもっと時間がかかっておりやした」
十太郎の動きは鼬のように速かった。




