第拾七話「反魂②」
岩山の斜面に穿たれた廃坑跡。夢戒は焼け落ちた廃屋の残骸から、丹念に骨を拾い集めた。山道沿いに吊るされた麻縄の下に転がる小さな破片までも残さず集めるよう、弟子の朱説にも命じた。
小山のように積み上がった骨は、ここで無念の死を遂げた者たちの多さを物語っていた。そして夜ごとに、それらの骨は蒼い燐光を灯すのだった。
あの日から、不思議な出来事が続いた。見たことの無い液体が満ちた壺や、野草を乾燥させたものがいっぱいつまった木箱が落ち葉の下に埋もれていた。特に朱説を驚かせたのは、廃坑の中に置かれた樽である。中には栗やドングリ、粟や稗の実がぎっしりと蓄えられていた。おかげで朱説は、ようやく腹を満たすことができた。冷静に考えれば、そのような場所に何年も腐らずに実の類いが残っているはずがない。だが、空腹の限界を迎えていた朱説にとって、そんな疑問はどうでもいいことだった。
(御仏のご加護である)
そう朱説は勝手に解釈した。
師の夢戒は、そう言った物には口をつけることも無く、ひたすらその骨の山から一本一本手に取り、急ごしらえの石の祭壇に骨の種類毎に並べていった。
そして夜毎、夢戒は骨に壺からすくった深緑色に輝く液を骨に塗り枯れ草の上で人の形に組み上げた。それぞれの骨は山藤や山葡萄の細く切った蔓などで結ばれている。その上に土をかけ香を焚き、一晩中、そのまえに座り、朱説が今まで聞いたことの無い念仏を唱え続けた。
三日目の晩、夢戒は念仏を唱え続けていると、突然、人の息とは違うかすれた笛の音のような音が廃坑の中に不気味に響いた。
朱説は聞いたことの無い音に一瞬腰を抜かして、炉の火がゆらゆらと影をつくる祭壇へ目をやった。
その声のような音は間違いなく骨を埋めた土の中から聞こえている。
(夢戒様は何をつくっておられるのか)
モグラが地上へ這い出るような動きで土が大きく天に向け盛り上がった。
夢戒の力強い念仏は続く。
また、悲鳴にも鳴らないような声がおこり、土が辺りに飛び散った。
朱説は思わず自分の目を疑った。
夢戒の背越しに見えたのは、人とも獣ともつかない奇妙な生き物が、全身を震わせながら祭壇の上に佇む姿だった。




