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塵壺の底  作者: みみつきうさぎ
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第拾七話「反魂①」

<登場人物>


影月 十太郎  

 本作の主人公 少々いいかげんな性格でありながらも、自称「やる時に、たまにはやる男」元締に頼まれた仕事を引き受けたゆえに、闇の地にて闇住者に追われる。お気に入りの小刀は京橋近くの古手屋から購入した甲割『十六夜』


霧雨 九蔵

 沈着冷静な霧消流剣術の使い手 十太郎と共に元締に仕事を頼まれたことで、事件に巻き込まれていく。愛刀は中先代の世から霧雨家に伝わる『時雨丸』


六道 三右衛門

 江戸の口入れ屋の元締め 旧知の知人 夢戒僧正に依頼された仕事を十太郎に任す


夢戒僧正

 『丑寅の関』向こうの地にある旧寺の住職


鷹田 康三郎

 鳳凰藩士 主君の密命を帯び、十太郎と接触する。家臣の砂田と土呂は青葉藩にて捕縛斬首


菊川 保知

 鳳凰藩家臣 『朝露』の里より、忍びの者『草』を率いる。獄につながれた鷹田の救出を主君から命じられる


月草

 『朝露』の一草 年長の少女 数え十五 青葉藩潜入途上で死亡


銭巻

 『朝露』の一草 二番目の少年 数え十四 鷹田を獄から奪還する途上で死亡


田菜

 『朝露』の一草 三番目の少女 数え十三


茅(ちがや)

 『朝露』の一草 四番目の少年 数え十


堅香子(かたかご)

 『朝露』の一草 一番年若の少女 数え九つ


明石 右近

青葉の赤鬼と恐れられる青葉藩家臣随一の剣豪  『丑寅の関』の関守に命じられる。


川田 長兵衛

 青葉藩家臣 明石の重臣


支倉 兼嗣

 青葉藩筆頭家老 『丑寅の関』の事変に深くかかわりをもつ


大谷 古四郎

 青葉藩随一の豪商 遣欧使節に乗じた密貿易で得た富で青葉藩に武器を供与


ノーノ・サントス

 異国より遣欧使節団とともに密入国した少女 兼嗣の命で大谷家に寄宿している


レイナ・ファルケ

 ノーノとともに密入国した修道女 兼嗣の命で大谷家に寄宿している


射干玉の化生

 青葉藩の獄にて保友と対峙 幻術で保友を翻弄する


朱説

 夢戒を師事する若い僧


闇住者

 詳細不明 心を失った夢戒の前にその最初の存在を明かす

 魂を失ったように焼跡へ佇む師を、いまにも崩れそうにくぼんだ坑道跡へ引きずり込んだのは、この地へ戻って三日目のことだった。

 坑口の外一面には薄っすらと雪が降り積もり、黒く炭化した木々の幹や倒壊を柱ばかりが寒空に浮き彫りになっている。

 朱説は悲鳴を上げる自分の身体に鞭を打ち、必死の思いで炭や薪をかき集めた。幸いにも裏山に点在する村人たちの炭小屋が荒らされずに残っていたため、この狭い洞の中で一冬を越せるだけの燃料はすぐに確保できた。


(食料をさがしに行かなければ……わたしも夢戒様も……)


 だが、若い彼にも体力の限界が訪れていた。山から下ることは出来ても荒れた山道を抜けてくることは至難の業だということは分かっていた。

 坑内の壁に頭を押しつけたまま座る夢戒はおし黙ったままである。


(わたしが行かなければ……)


 むしろを下げただけの入り口からは絶え間なく冷たい風が吹き込んでいる。

 朱説は薪を炉にくべようとした手を伸ばした姿勢のままあまりの疲労のためそのまま寝入ってしまった。


(夢戒……夢戒よ……)


 もう日の落ちた暗闇から夢戒は自分の名を呼ぶ気配を感じた。

 夢戒はよろよろと立ちがり、裸足のまま夜の山の冷たい空気の中に身をさらした。


(ほうほう様!)


 鬼火が洞穴の周囲を明るく照らす。

 揺れる影の中に子どもたちの姿を見た。


「お前たち……無事だったのか……」


 子どもたちは頭を横へ静かに振り、問いを否定した。

 見るとどの子どもたちも腕や足が切られ、肌も焼け焦げている。


(死にたぐねぇ……)


 一人の幼児の発した言葉に、子どもたちはさめざめと泣いた。


「やる、わたしの命をすべてやる!如来よ!もし、この世にいるのならばどうかこの愚僧の願いを聞いてくれ!」


 夢戒がそう叫んでも子どもたちの苦しそうな声や泣き声が消えることはなかった。


 一際赤く大きく燃える鬼火が夢戒の正面に現れた。


「こひしといふてなくこゑは このよのなげきとはことかはり ほねみをひたすばかりなり……」


 鬼火の光が消え、そこに立っていたのは透き通るほどの白い肌をもつ若い女であった。その周囲に小さな蒼い鬼火がまるで引き寄せられるかのように集まってきている。


「お前は」


「やみずみもの……人の世が始まりしころよりすべてに息づくもの」


「闇の者?」


「お前が崇拝する者に疑問を抱いたとき心の奥底でわれらを強く求めたのじゃ」


 夢戒は、女の言葉を否定するほどの気持ちはもうない。今もふつふつと燃えているのは後悔と『恨』であった。


「お前のその根拠無き思いが無数の子の怨念をこうして生み出した……あはれなこと、ろくに求道しなかった者が仏の道を説いたところで何の力があろう、その傲慢(ごうまん)さがこのようなこととなったのじゃ」


 夢戒は何の反論もできなかった。

 途中で逃げ出し、投げ捨ててきた人間にそのような資格はないことは事実である。


 女は長い指で一つの鬼火をつかみ潰した。鬼火は小さく分かれ、また同じように女の周囲を浮遊している。


「お前は命と引き替えにこの子どもたちをこの世に戻したいと願ったな」


 夢戒はうなずいた。


「わしなら、その願いをかなえることができる、わしを信じ、わしの言うとおりにすれば……」


「何でもする、わたしにできることならば」


 女は微笑んだ。


「われらの願いもかなえられるか」


 どのような願いであれ、夢戒は子どもたちをこの世に戻すことができるのであれ、自分にできることは何でも行う覚悟であった。


「すべて受け入れる」


 返事を聞いた女は声を上げて笑った。

 子どもたちの声も泣き声から笑い声に変化していく。

 その笑いの渦が夢戒の頭の中に大きくこだました。


 鳥の声


 まるで季節外れの春のような朝の日が、廃坑に差し込んでいた。

 炉の火は消え、白く細い煙だけが立っている。


(しまった!寝てしまったらしい)


 昨夜までいた場所に夢戒の姿はなかった。

 朱説は飛び起き、すぐに夢戒の姿を探した。


「夢戒様!」


 洞の外に出た瞬間、そこには日の光を背に立つ夢戒の姿があった。それも昨夜までのうちしおれた姿では無く、異様なほどの眼力をもったまるで別人のような姿となっていた。


「朱説よ、わしは聖言を賜ったのだ!」


 朱説は嬉しそうにはしゃぐ自分の師を見て、とうとう気が触れたのだと落涙した。

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