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塵壺の底  作者: みみつきうさぎ
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第拾五話「射干玉(ぬばたま)④」

<登場人物>


影月 十太郎  

 本作の主人公 少々いいかげんな性格でありながらも、自称「やる時に、たまにはやる男」元締に頼まれた仕事を引き受けたゆえに、闇の地にて闇住者に追われる。お気に入りの小刀は京橋近くの古手屋から購入した甲割『十六夜』


霧雨 九蔵

 沈着冷静な霧消流剣術の使い手 十太郎と共に元締に仕事を頼まれたことで、事件に巻き込まれていく。愛刀は中先代の世から霧雨家に伝わる『時雨丸』


六道 三右衛門

 江戸の口入れ屋の元締め 旧知の知人 夢戒僧正に依頼された仕事を十太郎に任す


夢戒僧正

 『丑寅の関』向こうの地にある旧寺の住職


鷹田 康三郎

 鳳凰藩士 主君の密命を帯び、十太郎と接触する。家臣の砂田と土呂は青葉藩にて捕縛斬首


菊川 保知

 鳳凰藩家臣 『朝露』の里より、忍びの者『草』を率いる。獄につながれた鷹田の救出を主君から命じられる


月草

 『朝露』の一草 年長の少女 数え十五 青葉藩潜入途上で死亡


銭巻

 『朝露』の一草 二番目の少年 数え十四 鷹田を獄から奪還する途上で死亡


田菜

 『朝露』の一草 三番目の少女 数え十三


茅(ちがや)

 『朝露』の一草 四番目の少年 数え十


堅香子(かたかご)

 『朝露』の一草 一番年若の少女 数え九つ


明石 右近

青葉の赤鬼と恐れられる青葉藩家臣随一の剣豪  『丑寅の関』の関守に命じられる。


川田 長兵衛

 青葉藩家臣 明石の重臣


支倉 兼嗣

 青葉藩筆頭家老 『丑寅の関』の事変に深くかかわりをもつ


大谷 古四郎

 青葉藩随一の豪商 遣欧使節に乗じた密貿易で得た富で青葉藩に武器を供与


ノーノ・サントス

 異国より遣欧使節団とともに密入国した少女 兼嗣の命で大谷家に寄宿している


レイナ・ファルケ

 ノーノとともに密入国した修道女 兼嗣の命で大谷家に寄宿している


射干玉の化生

 青葉藩の獄にて保友と対峙 幻術で保友を翻弄する


丹羽 勘兵衛

 鷹田と同じ獄の囚人 鷹田に丑寅の関内での一端を伝えるも刑死


鳳凰 崇宗

 鳳凰藩主 爽やかな風貌で家臣の信頼も厚い 人前で声を発さず二人の小姓を使って家臣を動かす


葦毛 坊丸

 崇宗の小姓 右目が蒼い 感情を表に出すことなく崇宗の言葉を家臣に伝える


栗毛 峰丸

 崇宗の小姓 左目が赤い 感情を表に出すことなく崇宗の言葉を家臣に伝える


闇住者

 詳細不明

「道理でここまで来るのがあまりに簡単すぎた、実はあんたが何もかも知っていて俺たちをかき集めたんだろうよ、六道の元締めに依頼したのも、骸に襲わせたのも、この鬼、いや右近殿を殺さずに俺たちに引き合わせたのも、鳳藩の疲れたお侍さんもさ、全部、この地に集めるために仕掛けられたのさ」


 十太郎の戯れ言を聞いても夢戒僧正の表情にはまだ菩薩のような微笑が浮かんでいる。


「骸のような死なない足軽は、どこの藩でも喉から手が出るほど欲しくなる一品だ、その甘い罠に気付いたお上は弱みを握られている青葉藩に命じてこんな山奥に秘匿していたのよ」


「何だと、弱みを握られているとはどういうことだ」


 右近は憤怒し、傍らに立つ十太郎をつかもうと歩み寄った。


「右近殿が俺をどうしようが勝手だが、俺もそれなりにはやらせてもらうぜ、まぁ、話しは最後まで聞け、だが、俺はあんたとはやりあいたくないのが本音だ、お互いに利用された者どうしだからな」


 既に右近ののど元には九蔵の刃がこれ以上進むことは許さぬといった体で制止していた。


「俺はこの山に入って心の奥に置き忘れていた幻を何度も見た、女、子供関係なく並ぶ生首、ご神木に逆さに打ち付けられた民、戦のようなふりをしたただ一方的な略奪と殺し……骸や人外の者を生み出した原因、それをすべて仕切っていたのは幕府、そして、野良犬みてぇに言うがまま尻尾振っていたのはおめぇの青葉藩だからよ」


「先代のお上を侮辱すること、あいまかりならぬ!」


 十太郎は右近の顔を一瞥しただけである。


「だが田舎の弱小藩に幕府の命令を断ることなんてできねぇさ、それは分かる、僧正さんよ、あの争いの幻を俺にわざと見せていたのもあんたかい?芸がこまけぇや、旧知の六道の爺ぃに声を掛け、伴天連の女どもを随行させ、何も知らねぇ青葉の若侍と過去に因縁を持つ藩の忍びまで巻き込んだ、もぉそろそろこの寺がやばいと感じたんだろう」


「うむ」


 夢戒僧正の返答は短かった。


「説明するまでもない、勘の良い十太郎、九蔵ならこれを覚えているだろう」


 夢戒僧正は傍らの一抱えあるほどの桐箱を床に立てた。

 僧正が蓋を取ると白い綿の中に一体の木偶人形が入っていた。木も古びていて頭部にはひび割れも見えていた。


「お前たちの兄でもあり、弟でもあるもの」


 それまでずっと黙っていた保知がその人形を見た途端、身体の中が急に熱くなってきた。


(何だ、この火箸を身体にまで入れられた感覚は)


 夢戒僧正は胸を押さえ苦しむ保知に急な哀れみな表情を浮かべ、静かに言った。


「お前の兄でもあったのだな、これも因縁よ、お前たちに話すのはこれが最後じゃよく聞くが良い、そしてこれからの運命(さだめ)をどう変えようがそれはお前たちの選択だからのわしにはそれだけの縛る力はもう持ち合わせてはいない、全てはこの木偶人形から始まったことだけは告げておく」


 彼らしかいない薄暗く冷たい気が渦巻く本堂で、夢戒僧正はぽつぽつと語り始めた。


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