第拾五話 「射干玉(ぬばたま)②」
つくられた人の列の中を歩み出た女の貌は、誰が見ても定窯の磁器を思わせるほどに白く整っていた。切れ長の蛇のような眼には自信と知的な光が宿り、微笑を浮かべた薄い唇は銅朱色を呈している。しかし、その端麗な造作の奥底には、この世のすべての生命の温もりを拒絶したかのような、凝固した冷気が衣のように渦巻いていた。
十太郎らを眼下にした瞳の深淵には一点の揺らぎも生じてはいなかった。それは爬虫類的な無機質な冷酷さであり、美貌という本来であれば華やかな装飾をその冷ややかな外殻が、女を形作る欠落をいっそう際立たせていた。
「その業物を今すぐにここにいる者たちへ預けよ、御前様はそのような物を認めぬ」
女は数珠を巻く左手を腰の辺りまで持ち上げ、曲げた指で右近や九蔵を指さし、最後に十太郎の顔の真中で止めた。
子どもたちはそれを合図にそろそろと十太郎たちの前に立ち、地にひざまずき、腰をかがめた姿勢で、両手を差し出した。
「九蔵さん、まずはあの『玉藻の前』の言うとおりにした方が良さそうだ」
十太郎は腰に結わえていた帯を解き、手早く小刀の鞘に巻き付け子供に手渡した。右近は知っていたように子供に大刀をわざと力強く放り投げた。
保知は、武士の魂をそのように無造作に扱う右近の動作に少し顔をしかめたが、その動きはわざと行っていたことにすぐに気付いた。
大人二人でも持ち運ぶことが難しい大刀を、顔を隠した十歳にも満たない稚児がたった一人で軽々と受け止め、隣の稚児にうやうやしく手渡した。
(あの稚児は……)
「『骸』だよ、なりは違ってもな」
保知の直感を十太郎は小声ですぐに口にしていた。
「お前たち、この者らを西の客殿へ案内せよ、伴天連の女は汚れを持ち込ませるわけにはいかぬ、この場で待たれよ」
女に命じられた稚児たちは女に向かって合掌し、一礼すると十太郎たちを囲むように集まると、一人を先頭に境内の中を導いた。
「右近殿、よろしいのか、女たちを残したままにして」
九蔵は前を行く右近に聞いた。
「心配はいらぬ、あの者らが共にいるから、この者らは我らに手出しができぬのだ」
「それは?」
「お主には言っても分からぬ、それよりももそっと近付け」
右近は九蔵にこそこそと耳打ちした。彼の言葉を聞いて九蔵は片眼を少しだけ瞑った。
「まことか?」
「うむ、あの二人は我らよりも先のことをいつも見ている……」
九蔵は空を仰いだ。
この青葉藩の忠犬のような右近がなぜ、自分や十太郎をここまで連れてきたという理由の一端が見えてきたような気がした。
(押さえきれぬものなら……)
風に翻弄されながら雲が低く東に流れていく。
その流れ着いた先の地では青葉藩と鳳藩を中心とした幕府軍との小競り合いがもう既にそこかしこで始まっていた。




