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塵壺の底  作者: みみつきうさぎ
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第拾五話 「射干玉(ぬばたま)①」

<登場人物>


影月 十太郎  

 本作の主人公 少々いいかげんな性格でありながらも、自称「やる時に、たまにはやる男」元締に頼まれた仕事を引き受けたゆえに、闇の地にて闇住者に追われる。お気に入りの小刀は京橋近くの古手屋から購入した甲割『十六夜』


霧雨 九蔵

 沈着冷静な霧消流剣術の使い手 十太郎と共に元締に仕事を頼まれたことで、事件に巻き込まれていく。愛刀は中先代の世から霧雨家に伝わる『時雨丸』


六道 三右衛門

 江戸の口入れ屋の元締め 旧知の知人 夢戒僧正に依頼された仕事を十太郎に任す


夢戒僧正

 『丑寅の関』向こうの地にある旧寺の住職


鷹田 康三郎

 鳳凰藩士 主君の密命を帯び、十太郎と接触する。家臣の砂田と土呂は青葉藩にて捕縛斬首


菊川 保知

 鳳凰藩家臣 『朝露』の里より、忍びの者『草』を率いる。獄につながれた鷹田の救出を主君から命じられる


月草

 『朝露』の一草 年長の少女 数え十五 青葉藩潜入途上で死亡


銭巻

 『朝露』の一草 二番目の少年 数え十四 鷹田を獄から奪還する途上で死亡


田菜

 『朝露』の一草 三番目の少女 数え十三


ちがや

 『朝露』の一草 四番目の少年 数え十


堅香子かたかご

 『朝露』の一草 一番年若の少女 数え九つ


明石 右近

青葉の赤鬼と恐れられる青葉藩家臣随一の剣豪  『丑寅の関』の関守に命じられる。


川田 長兵衛

 青葉藩家臣 明石の重臣


支倉 兼嗣

 青葉藩筆頭家老 『丑寅の関』の事変に深くかかわりをもつ


大谷 古四郎

 青葉藩随一の豪商 遣欧使節に乗じた密貿易で得た富で青葉藩に武器を供与


ノーノ・サントス

 異国より遣欧使節団とともに密入国した少女 兼嗣の命で大谷家に寄宿している


レイナ・ファルケ

 ノーノとともに密入国した修道女 兼嗣の命で大谷家に寄宿している


射干玉の化生

 青葉藩の獄にて保友と対峙 幻術で保友を翻弄する


丹羽 勘兵衛

 鷹田と同じ獄の囚人 鷹田に丑寅の関内での一端を伝えるも刑死


鳳凰 崇宗

 鳳凰藩主 爽やかな風貌で家臣の信頼も厚い 人前で声を発さず二人の小姓を使って家臣を動かす


葦毛 坊丸

 崇宗の小姓 右目が蒼い 感情を表に出すことなく崇宗の言葉を家臣に伝える


栗毛 峰丸

 崇宗の小姓 左目が赤い 感情を表に出すことなく崇宗の言葉を家臣に伝える


闇住者

 詳細不明


 昔栄えた地を代表する寺という格式に相応しい門構えが十太郎らの目の前に建っていた。左右の太い柱は、その一本、一本が大岩のように自己の存在を示している。その奥には入母屋造の巨大な本堂が鎮座していた。桧皮葺の大屋根はつい最近、修繕されたばかりのように真新しさがそこにいる誰の目にも明らかであった。

 さすがにいつもは冷静な九蔵でさえも声を発することができない。


「九蔵さん見えるかえ、あそこの両脇間の連子窓」


 境内に足を踏み入れる前から目を細めていた十太郎はすでに気付いていた。連子窓の奥の暗闇の中に気配を殺した多くの顔が見えていたことを。いや、顔が見えていたというのは正確では無い。その顔の前に一枚の白紙がまるで死者の顔隠しのように垂らされていた。


 足を引きずりながらも保知は、十太郎の支えを必要とはしていなかった。


(先代の奥方様から聞いてはいたが、ここまで大きな寺院とは……殿はこの地のことをご存知でいたのか)


 保知は、藩主の密命を忘れてはいない、この寺に住まう『あの子』を僧侶から拉致する命令を。


(あの子とはどのような者なのか、本当にこの寺内に起居しているのか)


 保知は顔の上半分だけを起こし、目の動きを他者に悟られないようにじっと様子を観察していた。


 本堂の正面にある桟唐戸が、音も無く左右に大きく開いた。途端に香の煙と匂いが地面を滑るように流れてきた。日の光が届かない本堂の奥には百日蝋燭の橙色の炎が揺らいでいるのがなぜか十太郎には見えている。


 白紙を顔の前に垂らす経帷子を着た子どもたちがぞろぞろと堂内から出てきて裸足のまま桟唐戸の両脇に静かに列をつくった。


(何人こもっていたのだ?)


 無言の子らがつくる両の列は八間、三列ほどに延びている。

 九蔵はその様子を見て背筋に本能からくる緊張が走った。


「九蔵さん、はやっちゃいけねぇよ」


 見かねた十太郎が九蔵の左手の動きを静かに押しとどめた。

 左右の藪の中からも同じような服装をまとった大人たちが少なく見積もっても三十人ほど姿を現した。


 保知も忍びのようなかれらの音をたてない挙動にただただ驚愕している。


「ガキを連れ帰る俺たちの依頼はここの坊さんから六道の元締めのじじぃに直々頼まれたものだ、右近や伴天連の嬢ちゃんの動きを見てからでも遅くはねぇ」


 そう言った十太郎は素知らぬ顔をしている。


「仮に六道の元締めの依頼そのものが嘘偽りであったら?」


「その時は、手当をもっと上乗せしてもらえるいい機会じゃねぇか、五倍ほどふんだくりゃいい、東海道上りながら丸子のとろろ飯のうまい店にでも行こうや」


「たとえここが地獄であってもたわけ者が隣にいると心地は悪くないものだ」


「九蔵さん、今更お気付きかぇ、おっと真打ちめぇの二つ目が高座するようだ」


 尼僧が一人、本堂の奥から歩み出ると整列していた子どもたちが合掌をし、一斉に頭を下げた。


「あの尼、人じゃねぇな」


 十太郎がつぶやく。


「どうして分かる?」


「くせぇんだよ」


 九蔵が見る十太郎の顔はこの状況でなぜかとても嬉しそうに見えた。

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