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塵壺の底  作者: みみつきうさぎ
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第拾四話 「無念塚」

<登場人物>


影月 十太郎  

 本作の主人公 少々いいかげんな性格でありながらも、自称「やる時に、たまにはやる男」元締に頼まれた仕事を引き受けたゆえに、闇の地にて闇住者に追われる


霧雨 九蔵

 沈着冷静な霧消流剣術の使い手 十太郎と共に元締に仕事を頼まれたことで、事件に巻き込まれていく


六道 三右衛門

 江戸の口入れ屋の元締め 旧知の知人 夢戒僧正に依頼された仕事を十太郎に任す


夢戒僧正

 『丑寅の関』向こうの地にある旧寺の住職


鷹田 康三郎

 鳳凰藩士 主君の密命を帯び、十太郎と接触する。家臣の砂田と土呂は青葉藩にて捕縛斬首


菊川 保知

 鳳凰藩家臣 『朝露』の里より、忍びの者『草』を率いる。獄につながれた鷹田の救出を主君から命じられる


月草

 『朝露』の一草 年長の少女 数え十五 青葉藩潜入途上で死亡


銭巻

 『朝露』の一草 二番目の少年 数え十四 鷹田を獄から奪還する途上で死亡


田菜

 『朝露』の一草 三番目の少女 数え十三


ちがや

 『朝露』の一草 四番目の少年 数え十


堅香子かたかご

 『朝露』の一草 一番年若の少女 数え九つ


明石 右近

青葉の赤鬼と恐れられる青葉藩家臣随一の剣豪  『丑寅の関』の関守に命じられる。


川田 長兵衛

 青葉藩家臣 明石の重臣


支倉 兼嗣

 青葉藩筆頭家老 『丑寅の関』の事変に深くかかわりをもつ


大谷 古四郎

 青葉藩随一の豪商 遣欧使節に乗じた密貿易で得た富で青葉藩に武器を供与


ノーノ・サントス

 異国より遣欧使節団とともに密入国した少女 兼嗣の命で大谷家に寄宿している


レイナ・ファルケ

 ノーノとともに密入国した修道女 兼嗣の命で大谷家に寄宿している


射干玉の化生

 青葉藩の獄にて保友と対峙 幻術で保友を翻弄する


丹羽 勘兵衛

 鷹田と同じ獄の囚人 鷹田に丑寅の関内での一端を伝えるも刑死


鳳凰 崇宗

 鳳凰藩主 爽やかな風貌で家臣の信頼も厚い 人前で声を発さず二人の小姓を使って家臣を動かす


葦毛 坊丸

 崇宗の小姓 右目が蒼い 感情を表に出すことなく崇宗の言葉を家臣に伝える


栗毛 峰丸

 崇宗の小姓 左目が赤い 感情を表に出すことなく崇宗の言葉を家臣に伝える


闇住者

 詳細不明

 九蔵は、尾根筋を下るこの廃道に物の怪の気配が全く感じられないことに拍子抜けをしていた。関所を越えてから続く重い空気の中を貫くような心を刺してくる視線がまるで無いのである。


 保知を背負う十太郎とそれを監視するように傍らにいるレイナは、九蔵らのずっと後方を歩いている。


 山鳥が鳴き交わす中、太い樹木に絡む蔓から伸びる枝にはムツアジサイの青淡色の小さな花が重なるように咲き乱れていた。そこには右近らが骸と呼ぶ小鬼もしがみついていない。

 それまで笹の生い茂っていた山道と言えぬような場所もきれいに広く刈り取られ、ヒヨドリバナが道筋にそって群落をつくっていた。

 道の先には広場があり、街道の一里塚を模した大きな土饅頭の上に桃の木と一抱えもありそうな大きな石が置かれていた。


「右近殿、この塚は?」


 九蔵に問われると杖代わりの大刀を持ち上げた右近は憎々しげに言った。


「そもそもこの塚が青葉藩の因縁のもとよ」


 答えになっていない彼の言葉は九蔵の密やかな好奇心を刺激した。


「『無念塚』この下には多くの屍が埋まっています、数多の怨念とともに、今は『ほうほう様』夢戒僧正の法力によって寺のあるこの地だけが御覧のように静かなのです」


 ノーノが右近の代わりに答えた。


「あなた方の探している子供も、ずっと長い時、あなた方を待っていたはずです」


「待っている?我らが来るのをか?」


「ええ、あの子供は過去から強い力とそれを持つ者を望んでいました、ですので、これだけは言っておきます、下手な情をかけた途端に魂を持って行かれるので、子供だからといってけして油断することのなきよう」


「それをどうして伴天連のお主たちが知っている?」


「右近様があなたたちを気に入っていたようなのでお話ししました」


 そう言って彼女は微笑みながら軽く首を傾けた。


「ノーノ、これ以上は話すな、もう寺は近い、何も出てこないということは僧正も我らと会いたいらしい」


 九蔵の歩く道の先の木立の間に大きな寺社の屋根が見えてきた。


 後方を歩く十太郎も周囲の景色の変化に気付いていた。


「お嬢さん、レイナという名でしたね、心配するこたぁねぇ、この手負いの兄さんを背負っていてあんた方から逃げることなんてできゃしねぇよ、それよか教えてくれねぇか」


 少し前を歩くレイナが歩みを止めた。両の手は修道服の中に収められているが、小さな短筒のような種子島が握られていると十太郎は見抜いている。


「聞きたいこととは何か?」


 彼女は前を見つめたまま十太郎に言葉を返した。


「いや何ね、ここの風景がガキの頃の自分が遊んでいた山にそっくりでさ、とくに、あの街道横の一里塚なんぞ、似た石の上で飛び跳ねたりしていたもんだ、まさに春に来ていたら『桃源郷』だな」


「もう一度だけ聞く、何が知りたいのじゃ」


「あの塚の下には小判がいっぱい埋まっているなんていい昔話は残ってないもんかね」


「それなら掘り返して自分で確かめてみるがよい」


「百姓の死骸なんて掘り出したものなら寝覚めが悪い」


「知ってて聞いておるな、江戸の男とはこのような軽薄な者ばかりなのか?」


「耳塚のようなものなら、だいたい戦場いくさばとなったどこの寺先や街道筋にもありやすからね」


「それなら聞くこともないだろう」


「いやいや、あの地獄のような場所の先に、こんな極楽のような地があることが分かって一人で浮かれているだけでさぁ、おっと青鬼の兄さんを起こしちまったようだ」


 十太郎の冗談交じりの鼻歌に保知はようやく目を覚ました。


「ここは?」


「ああ、青鬼の兄さんが来たかった本当の地獄だそうだ」


 レイナに聞こえないように十太郎がささやいた声は、保知にはとても冷たく聞こえた。

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