咀嚼(後編)
何かから解放された感覚はとても清々しいです
何かに没頭するのはもっと気持ちがいいです
最近寒いですね。おかげで太りやすく痩せにくいです
筋トレしないとね。風邪やインフルエンザが流行っていますので気をつけましょうね
ニコニコと笑う比嘉に嫌悪感を覚えながら面接を終えてはや十分経とうとしていたときだったウエイターが運んできたのは美味しそうな料理の数々である
「さぁいただきましょうか。せっかくの料理が冷めてしまいますし」
食べる機会がない高級料理に感銘を受けてしまって、吉野が続けている一ヶ月もやし料理チャレンジがアホらしくなってしまった
「美味しすぎる」
なんとも美味たる味わいに吉野は涙を浮かべて夕食の献立を考えてしまう。もやし以外にしようと
もぐもぐと噛みしめているがふと目線を比嘉に向けると姿勢良く、食べている時でも崩すことはなくその高い品格にどうしても孤独であると感じてしまう
「どうかされましたか?私の頬に何か付いていますか」
「いいえ。何も付いていませんが・・・」
どうしたんでしょうかねというが吉野の考えに気がついていたのだろう
それすらをも余裕あるように見せている、そこがどうも釈然としなかった。何を必死に隠しているのだろうか、比嘉の心が全くわからない
「あぁそうだ。忘れないうちに言っておこうと思ったのです。あるバスジャック事件のことを」
そう言われた途端、吉野の背中にいやに冷や汗がたらりと垂れた。思い出したくない過去の記憶がふつふつと思い出してきたのだ。さらに食事が喉を通りにくくなっていく。それを見越してか、比嘉はさらに吉野の心の中を見透かしていくように語り続けた
「あの事件のときさっき言っていた男もいたのですよ。被害者として」
背中の寒気が寒気ではなく恐怖にへと変わっていく、あの事件の体験した記憶が蘇ってきたのだ。
「その男は被疑者に目隠しをされて、腕に傷をつけられました。そして被疑者に様々な暴行を受けたのですよ。しかし、一番被害を受けていたのは女性でした。かわいそうに、性的暴行を受けたと聞いています。」
思い出したくない一番の部分がジワリジワリと吉野の心を侵食し始める
バスの中で自殺した実行犯とは違う別の犯人に乱暴されたのだ
今まで、バスジャックの事件のことは思い出したくないと言う心情があり時をゆっくりかけながら忘れようとしていた。違う思い出さないように心に蓋を閉めたのだ。そうすればきっと自分が壊れないようにと自己暗示をかけたが今その蓋が外れそうになっている
「そういえば、その被害者の左腕には傷がついているそうです。
犯人は変態ですね、何やら小さなハート型と聞きました」
その時、吉野は一瞬ながら比嘉の言うことが理解できなかった
傷をつけられたのはあの時いた刑事たちに話をしたがハート型とは一言も言ってはいないのだ。ましてや大きさなど一言も比嘉には言っていない。
「どうして、傷のことを知っているのですか。」
混乱してしまった、誰にもいっていないはずの情報をなぜ比嘉が知っているのか。ハート形になっていると気がついたのは、あの事件の後に医師の処置が終わり確認した時、つまり吉野以外知り得ないことだった
それなのに比嘉はこのことを知っている。何もかもがおかしかった
「聞いたのですよ、その知人にね。傷のことも何もかも」
比嘉の微笑みが消えて、真剣な表情を見せるとぐっと引き込まれる感覚が吉野を襲った。
「どうやら、過去の事件のことを思い出してきたようですね。」
比嘉は立ち上がって吉野の方まで来ると片膝をつきゆっくりと左袖をめくると比嘉自身の左腕の傷を吉野に見せた
「被害者女性は、左腕に傷をつけられて身体的精神的苦痛を味わった
だが、犯人はそのことを知らず愛の結晶とこの傷を呼び再びであうことを夢見て同様の傷をつけた」
吉野は比嘉の左腕のあざのだらけの場所で唯一その場所だけ小さな傷が引き立って見える場所を見てしまった。吉野と同じハート形の傷がそこにはあったのだ。
「ようやく、会えたね。優子ちゃん、君に会えることをずっと待っていた。君が忘れてしまっていても、僕は忘れずに覚えていたよ。」
開いた口が塞がらなかった、今まで一人の警察官としか見ていなかった比嘉が今このようは形であのバスジャック事件の犯人として現れて、今目の前でこのような形でカミングアウトしてきたのだ
今すぐ逃げ出さないと、殺される。直感的に感じた本能が警鐘を鳴らしていたが、逃げることができなかった。
ぎゅっと抱きしめられて身動きが取れない
「思い出してくれるために、チャンスをあげる。橘から何か吹き込まれたんだろうけど、あれは嘘だよ。真に受け止めたらだめだ、君が壊れてしまうからね」
吉野の精神が崩壊しそうになっていた、思い出したくない事件の全貌が今目を閉じれば瞼の裏に映画のワンシーンのように流れてくる。
「いいことを教えてあげるよ、あのバスジャック事件のもう一人の被害者女性について、彼女の名前は榛原沙耶さん。いや榛原沙耶警部だ。
彼女も犯人に右腕を切られてね。小さい傷ができているんだよ。」
もう一人の被害者がこんなに近くにいるとは思いもよらなかった
榛原沙耶という名前に聞き覚えがあったが、どうしてか思い出せないのはあの事件に関係していて、同じ被害者だたということが関係していたのだ
「その事件の後、一度浮気をしてしまったんだよ。というよりも背格好が優子ちゃんに似ていたからついつい手を出してしまったんだ。でも君じゃなかった、前園夏希っていう人だった」
島津が追っていた恋人の仇、彼女を地獄に追いやった犯人が今ここにいる、そう考えてしまうと体が動かなくなってしまう。
「どうして、こんなことを?」
「簡単だよ。ずっと何かが欲しくてようやくその何かに気がついて行動をし、そして君を見つけた。ずっとずっと愛して欲しかった、愛してみたかった運命の人をこの手で」
愛してみたい
同時刻、橘は吉野がかつて受けた被害いや長野バスジャック事件について捜査員たちに話をしていた
皆愕然としていた、犯人が未だに捕まらないこともそうだが己が欲望のために犯行を行ったことに
「吉野は、犯人のことを忘れてなんかいない。思い出さないように心に鍵をかけている。そして、吉野には心の鍵を開けてあの時何があったのか本当のことを知らないといけない。」
橘がその現場にいた時に感じた空気、感覚が吉野の未だに抱える恐怖心が捜査員たちの中で混ざり合っていた
ずっとただ悪夢にうなされているだけだと安易に考えていたのがまるで愚行であると感じるほどだった
「捜査会議中ごめんなさーい。科警研ホットニュースのお時間でーす
あっこの小説を読んでるそこのあなた!小説を読もうを利用されている皆さん、お久しぶりです。下川公平だよーん」
急に何か嫌な悪寒を感じた捜査員は皆橘がいる方をじっと見やる
「そんなことより、ビッグな報告です。みなさん二件目のガイシャ(被害者)の指紋以外の指紋が検出されました」
この報告に全員がどよめきたった、なんせ何も証拠を残さない犯人が唯一この場でボロを出したといっても過言ではなかった
「でもこれが、正直驚きというか残念だったというか」
「もったいぶらないで教えてくれよ、親父」
公平は一つため息をつくとホワイトボードに指紋が付着していた箇所と指紋の主つまりはマルヒ(被疑者)の指紋の鑑定結果の指紋が特定されたものを見せた
「やはり、こうなったか」
橘がぼそりと呟くと同時に捜査員たちにも嫌な汗がツゥっと背中を通った。そして口々に呟くのは、どうしてという言葉だった
「鑑識・科捜研そして科警研が共同で鑑定した結果・・指紋が検出されたのは被害者の股間に入っていた細い鉄パイプ、花をさすために使ったパイプの内側にあった。前科者の指紋と照合しても引っかからず反対に
警察官が出した指紋には引っかかったのさ、一人目パイプと体に入れた方向には笹野刑事の指紋がそして花をさしたパイプの方には比嘉雅仁の指紋がついていた」
どよめきたっていたその場が静まり返り、落胆の色が見え始めた
信頼していたはずの笹野が犯行に関与していた。それが何よりも苦しかった
「実はもう一つあるんだ。一件目の犯行に使われたロープ
そこに血がついた被害者以外の指紋があった。これも笹野刑事だよ」
「親父、じゃあこの前言っていたゲソこんの正体は」
何度か頷くとカバンにしまっておいた鑑定報告書をホワイトボードに止めるとそこには、比嘉が犯行を行ったという明確な証拠があった
「靴のサイズと体重圧・これらをまとめると身長180〜185センチの間男性。笹野刑事といたとなると・・比嘉くんだね」
開いた口が塞がらなかった。とてつもない化け物が目の前にいた
ずっと探していた犯人が目の前にいた。霞をつかもうと必死であったのが砕かれた
「これは、島津くんにとってのバッドニュース。聞くかい?」
鬼が目覚めようとしていた。それでもギリギリの理性で島津は
耳を傾けるためゆっくりと頷く
「気分が悪くなったら途中で逃げてくれて構わない。君の彼女前園夏希さんの体内に残っていたDNA型と比嘉くんの血液からとったDNA型
それぞれORh-型が一致した。
彼女を苦しめたのは比嘉くんだよ」
長年、彼女を苦しめた犯人。射撃訓練中に現れる幻影。これがぴたりと一致しながらく夢見た敵討ちの相手が、殺したいと願った相手がとうとう見つかったのだ
「ようやく、見つけた。夏希の仇、逃がしてたまるか」
鬼が目を覚まし、ようやく見た夢を現実のものにする
比嘉と吉野が面接を終わらせ、警視庁に戻る最中ずっと吉野は虚構を見続けていた。何を信じ何が正解であったのかそれがわからなくなった
車の中で比嘉と吉野は後部座席に座り、この事件の魂胆を聞いたのである。もちろん運転席には笹野がいた
その間ずっと肩を抱き寄せたり、甘える仕草をする比嘉に何も感じて来なかった
ずっと苦しめていた何かがプツンと壊れそうになっていた
吉野は警視庁に戻ろうとした時、何かを感じて歩み寄ってきたものがいた
「猪又くん・・・お疲れどうしたの」
そこにいたのは猪又優斗、(彼は最初の方で出てきたのでそちらも参考にしてください)何事かと思い近づいてきてくれたのだ
しかし、その道を塞ぐように比嘉が前に躍り出てきた
「あの、自分が言うのもなんですが吉野さん嫌がっています」
そこにある正義感だけでものを言った猪又、比嘉は肩につけた腕章と階級章をみて一つため息をつくと猪又に一言
「お前に彼女の何がわかる。もう少し自分の立場をわきまえろ。餓鬼」
これには猪又も。吉野も何も言い返せなかった
比嘉は人をこのようにしか見ておらず吉野に対する歪んだ感情がそこにはあっただけだ
「さぁ行こうか優子ちゃん。捜査会議があるし忙しいだろ?」
去り際に吉野は猪又にポツリとごめんと言いそのまま会議室に戻った
猪又は比嘉に対する強烈な嫌悪感と一種の恐怖を感じた
「何もを食べつくし、咀嚼するのか」
吉野が始まりの地「長野」に行くまであと15時間
橘殺害未遂まで30時間下川公平殺害未遂まで1日と10時間である
比嘉は吉野に全てを打ち明けました
そして、この先に起こる最悪がもうすぐそこまできています
去年からこの小説を書いて推理的なこと一切やっていないのになんとか持ちました
そろそろこの物語も終盤戦です
島津はどう動くのか
吉野は何を見るのか
李が考えることとは
浅野が感じることとは
下川が声にすることは
一体何でしょうか。そしてそれぞれの悲劇は動いていきます
この小説が終わったらまた新しいことを書こうと思っています
登場人物や内容は違いますが、このキャラクターたちも出てくる予定です
来週は設定紹介をしようと思います




