シーン 122 / 怪物の紹介(亜人編)
本作に登場する“敵”の紹介。今回は【亜人編】です。
【ゴブリン】
大陸に広く分布する亜人。緑色の体色が特徴で、全身が筋肉に覆われている。
ハンターでない者が相手をする場合、武器を手にした大人数名が取り囲み、やっと倒せる程度の強さがある。また、コミュニティーとよばれる集団を作ることもある。
【オーク】
大陸に広く分布する亜人。ゴブリンと同様、緑色の体色が特徴。
ゴブリンとの違いは単純に腕力の強さが挙げられる。
一人前のハンターとして認められるには、一人でオークを倒せるだけの実力が必要とされている。こちらも、コミュニティーと呼ばれる集団を作ることがある。
【コボルト】
全身を青色の毛に覆われ、顔が面長の亜人。
一見すると魔物に間違われてしまうが、二足歩行をしているため亜人に分類されている。
人間から奪った武器を使うことがあり、知能はそれなりに高い。
【フォーモル】
山羊の頭をした亜人。強さはオークとほぼ同等とされている。
大陸でも北側によく生息している。稀に北以外の地域でも見かけることがある。
ちなみに、ケルト神話に登場する巨人族フォモールとは違い、体長は二メートル前後。
【サンドマン】
砂地に適応したゴブリンの亜種。能力はゴブリンとほぼ同等だが、砂の中に身を隠して近付いてきた獲物を襲う習性がある。
現在確認されている生息域は不干渉領域内の砂地だけ。
【ジャイアント族】
巨人族を総称した名称。定義として身長が四メートル以上の亜人を指す。
現在確認されている種類は、“オーグル”、“ギガース”、“ヨツン”、“ネピリム”、“グランデ”の五種類。尚、グランデと呼ばれるジャイアントは最大で十五メートルほど身長に成長する。また、ネピリムはこの五種類の中で最も知能が高く、下位の亜人を使役できるらしい。
アルマハウドは腹部を押さえて動けなくなっていた。
どうやらグリーンドラゴンから何らかの攻撃を受けたらしい。
見たところ出血はしていないようだが、鎧の上から強烈な一撃をもらったようだ。
このままでは彼が危ない。
グリーンドラゴンの注意を引くため、ポシェットから火薬玉を取り出し、足元に向かって思い切り投げつけた。
火薬玉は硬い床材に接触すると、狙い通りの爆音が辺りに鳴り響く。
それを聞いてグリーンドラゴン驚き、一瞬動きが固まった。
アルマハウドは注意が削がれたのを確認すると、身体を引きずりながら自力で僕の方まで戻ってきた。
「大丈夫か!?」
「…何とかな。だが、内臓をやられた…」
「痛むか?俺のポシェットに鎮痛作用のあるハーブがある。飲めそうか?」
「…すまない」
意志を確認してハーブを手渡した。
このハーブは少し苦いが、それだけ高い効果を発揮する。
即効性があるため、飲んですぐに痛みが治まる優れものだ。
「…助かった、礼を言う」
「効果は一時的なものだ。無理はするなよ」
「あぁ…こいつを倒してゆっくりさせてもらう」
アルマハウドは眉間にシワを寄せてグリーンドラゴンを睨み付けた。
対するグリーンドラゴンも火薬玉が無害だとわかると、再び攻撃の姿勢を取った。
戦闘が長引くのも得策ではない。
これ以上建物を破壊されるわけにもいかなかった。
銃撃で援護射撃をしながら、アルマハウドは剣を真横に引いて駆け出した。
今度は野球のバッティングのように、剣を横薙にする。
剣は勢いよく腹部に叩き付けられ、より多くの鱗を打ち落とした。
同時に、衝撃が内臓まで到達し、身体が大きく揺れている。
「効いてるぞ!」
「まだだ、こいつの生命力を甘く見るな」
よく見ると痛みに耐えて踏みとどまっている。
一度や二度の攻撃では倒れてくれないらしい。
グリーンドラゴンは再び背を向け、尻尾を振り回してきた。
背中の鱗は特に硬いため、アルマハウドが斬りつけでもってなかなか破壊出来ない。
それでも、数を重ねれば勝機は見えてくる。
問題は尻尾の攻撃を避け続ける事だ。
不規則に動き回っているため、避けるタイミングが難しい。
「レイジ、ドラゴンは炎に弱い!何か手はないか?」
「まだ、ポシェットに炸裂弾がある。何とか着火出来ればいいが…」
「熱源か。烈火石はどうした?まさか、まだ封印されたままなのか?」
問題はそこだ。
ホリンズとの戦い以来、僕の持つ魔具はもちろん、サフラやニーナも同様に能力が封印されたままになっている。
そのため、手持ちの烈火石を念じてみても炎は起きないまま。
これでは頼みの炸裂弾も宝の持ち腐れだ。
「…熱源か、あるぞ!あそこだ!!」
アルマハウドはグリーンドラゴンの背後を剣で示した。
そこには照明に使われる松明が赤々と燃えている。
先ほどの崩落にも無事に耐えたらしい。
しかし、すぐに手の届かない場所にある。
松明を手にするには、どうしてもグリーンドラゴンの目の前まで行かなければならない。
「あの炎さえ何とか出来れば…」
「私が出来る限りヤツを押さえ込む。その間に何とかならないか?」
「だが、そんな事をしたらお前の身体が…」
「私を誰だと思っている?“ドラゴンキラー”と呼ばれた男だぞ」
アルマハウドの目が怪しく光った。
何度も自分より遥かに巨大な敵を倒してきた彼の事だ、今回が初めてと言う事もない。
「…わかった。しばらく預ける!」
「任せておけ!」
アルマハウドが再び攻撃を開始したのを確認し、急いで松明を目指した。
松明の位置はちょうどドラゴンの影にある。
そのため、脇を抜けて回り込まなければいけない。
アルマハウドは猛然と斬り掛かり、目を見張る瞬発力で尻尾をかわし続けている。
超重量の大剣と鎧を身に着け、軽々と動き回る姿は圧巻だ。
グリーンドラゴンもさすがに尻尾だけでは対応しきれないと悟り、飛び上がって身体を正面に向けた。
正面を向けば、酸による攻撃の危険性が高くなる。
その恐怖に耐えながら、彼は攻撃を続けた。
しかし、身体が正面に向いた事で、視界に僕の姿が映り、注意を引いてしまった。
危険を感じ取ったグリーンドラゴンは、太い前脚で重い蹴りを放ってきた。
「レイジ、避けろ!」
咄嗟に体勢を低くすると、頭上のギリギリを脚が通り過ぎた。
遅れて風圧が襲ってくる。
ズーの暴風ほどではないが、僅かに砂埃を巻き上げた。
あんなものが直撃すれば、軽い骨折くらいでは済まないだろう。
恐らく身体ごと吹き飛ばされ、全身の骨がバラバラになるに違いない。
「立ち止まるな!狙われているぞ!!」
アルマハウドの注意が耳に届いた直後、今度は別の脚が襲ってきた。
しかし、一度見た攻撃なら対応はそれほど難しくない。
地面を這うように身を低くして攻撃をかわした。
「うおぉぉぉッ」
アルマハウドは大声をあげ、気合いの入った一撃をグリーンドラゴンの腹部に放った。
注意が僕に移っていたため、不意打ちに成功すると、剣は腹部の筋繊維を斬り斬り裂いた。
これにはさすがに悲鳴をあげ、悶え苦しんでいる。
松明を手にするのは今をおいて他にない。
全身のバネを使って地面を蹴り、一息で松明までたどり着くと、炸裂弾の導火線に火をつけて頭上高く放り投げた。
計算ではドラゴンの顔の高さで爆発するはずだ。
「…アルマハウド、伏せろ!」
彼に注意を飛ばした瞬間、爆風と高熱を伴った衝撃が襲ってきた。
炸裂弾は見事狙い通りの場所で爆発すると、ドラゴンの顔全体を覆い尽くす火柱をあげた。
タラスクスの頭さえ破壊する爆発は、グリーンドラゴンにも甚大な被害を与えている。
しかし、恐るべきはその生命力だ。
顔は爆発に耐え原形を留めている。
それでも、意識が飛びかけているのか、ゆっくりとバランスを崩し始めた。
「危ない、倒れるぞ!」
次の瞬間、緑色の巨大は壁にもたれかかりながら、ズルズルと崩れ落ちた。
顔を見ると目を深く閉じ、微かに呼吸をしている。
目を覚ましてしまう前に仕留める他はない。
銃をショットガンに持ち替え、身体を踏み台にして頭まで駆け上り、頭部が原形を留めないほど弾を連射して息の根を止めた。
「…仕留めたのか?」
「あぁ、頭を破壊した。もう動けないさ」
身体から飛び降りると、彼の元に駆け寄った。
当初、炸裂弾の爆発が致命傷になったのだろうと思っていたが、そうではなかった。
ドラゴンの腹部を見ると、アルマハウドが突き立てた剣が原因で、内臓が飛び出している。
どう見てもこちらの方が致命傷だ。
「そうだ、陛下をお守りしなくては!?」
アルマハウドは血相を変えた。
安全な部屋に逃がしたとは言え、今は一人のはずだ。
安否を確認するのが先決だった。
皇帝が使った隠し扉の向こうは、セシルが使っていた執務室になっている。
建物の中でも比較的頑丈な部屋のため、まだそこに留まっていれば安全だろう。
真っ先に扉を開けたアルマハウドは、そこで見た光景に絶句した。
「へ…陛下!しっかりしてください陛下!!」
「…こ、これは!?」
部屋の真ん中で皇帝が倒れていた。
近くには犯人と思われる黒光りした小さなサソリが蠢いている。
元々、ミッドランドにサソリはほとんど生息していない。
生息していたとしても、南に近い国境付近の砂漠や森林地帯で見られる。
そのため、どう間違っても、草原地帯にある宮殿の中に現れるはずはない。
アルマハウドはサソリを踏みつけて潰した。
「…呼吸が浅い。クソ、誰か医者を!」
「落ち着けアルマハウド!お前が落ち着かなくてどうする?」
「こんな時に落ち着いていられるか!」
「だから落ち着けと言っている!冷静さを欠くとロクな事にはならないぞ。まず刺激しないよう、身体を安静にしろ。それと、呼吸が楽なるよう、気道確保だ」
僕はその間に医者を呼びに向かった。
混乱しているアルマハウドよりは適任だろう。
医者を始めとした城内の非戦闘員は、地下の食料倉庫に隠れていた。
医者に事情を話すと、察してくれた。
サソリの毒に効く薬は薬品庫にあるらしい。
元々、サウスフォレストに侵攻する際、常備薬として備蓄されているようだ。
事は一刻を争うため、急いで皇帝の元に向かった。
「…連れてきたぞ!」
「い、医者か!?早く陛下を助けてくれ」
アルマハウドはまだ動揺したままだ。
皇帝の容態を確認すると、先ほどよりも呼吸が浅くなっていたため、すぐに処置しなければならない。
アルマハウドが騒いで気を散らさないよう、外に出て治療が終わるのを待った。
「…すまない、取り乱してしまった」
廊下に出るとアルマハウドがポツリと呟いた。
冷静で居られなかった事への謝罪らしい。
誰でも大切な人が危機的な状況になればそうなるはずだ。
僕にも身に覚えがあるのだから。
「心配ない。陛下は死なないさ。お前が信じてやらなくて誰が信じるんだ?」
「…そうだな。すまなかった、礼を言う」
「いや、いいんだ。逆にお前が冷静じゃないのを見て、何とかしなきゃと思ったら妙に落ち着けたんだ。大丈夫、すぐに良くなるさ」
しばらくすると、中から扉が開いた。
処置を終えた医者が中に入るよう言って、扉を大きく開け放たれた。
「危ないところだった。もう少し処置が遅れていたら、手遅れだったかもしれない」
「…では、これで安心と?」
僕の投げかけた疑問を聞いて医者の表情が曇った。
それを見ても、あまり良い状況ではないらしい。
「しばらく安静が必要です。毒の耐性は個人差があるため、このまま快方に向かうかは今後の経過次第になります…」
「それを何とかするのは医者の役目だろう!!」
黙って聞いていたアルマハウドが突然大声をあげた。
自分では感情をコントロールできないほど動揺しているようだ。
「止めろ、今騒いだところで容態が回復するわけでもない。それはお前にもわかるだろう?」
「…くッ」
アルマハウドは悔しそうに唇を噛んだ。
あまりにも感情的になってしまったのか、唇から血が流れるほどだ。
窓から町の様子を確認すると、グリーンドラゴンを倒したことで、空から襲ってきた魔物たちの統制も失われていた。
地上から攻めて来た亜人や魔物たちと同様、逃げ出すものの姿も見える。
町の中に留まっている魔物もハンターたちの活躍でじきに収束するだろう。
前書きに登場する亜人の紹介を載せました。
作中で紹介されてない仕様など、こちらで補完してください。
魔物の紹介は日を改めて行います。
ご意見・ご感想・誤字脱字の指摘等があればよろしくお願いします。




