シーン 121
ドラゴンとワイバーンには外見的に大きな違いがある。
ドラゴンは身体の一部または大部分が、蛇やトカゲなど爬虫類に似た姿で、脚が四本以上ある怪物の事を言う。
それに対し、爬虫類の身体に“翼”を持ち、脚が四本以下のものをワイバーンと言う。
また、ワイバーンは一種類に付けられたら名称ではなく俗称になる。
ちなみに、目の前で居るのは“リントヴルム”というワイバーンだ。
「男爵様、我々ではこれ以上は持ち堪えられません!」
リントヴルムと対峙している兵士は槍と盾で応戦している。
しかし、不意に襲ってくる尻尾を恐れ、どこか逃げ腰だ。
攻撃を恐れず懐に入り込めば勝機はありそうだが、どうしても恐怖に心が支配され、踏み込みが甘くなってしまう。
「これ以上被害を拡大させるな!時間がない、俺が相手をする」
リントヴルムは全身を蛇のような鱗で覆われている。
蛇との違いは鱗が石のように硬いこと。
タラスクスほどではないが、斬撃や突きに強いため、それを貫いてダメージを与える必要がある。
鱗が石のように硬いのであれば、拳銃程度では歯が立たない。
自動小銃ならば拳銃よりも威力はあり、ダメージは期待出来るものの、両手で扱うため取り回しの面で不利になる。
ここはショットガンかマグナム弾を発射できる“M500”を選ぶべきだ。
この場合、至近距離まで近付く必要がある前者より、片手でも扱える後者が適任だろう。
素早く持ち替えてリントヴルムの前に立ちはだかった。
建物が邪魔をして身動きが取れない状態では、リントヴルムの脅威もいくらか少なくなる。
下手に暴れて建物を破壊される前に仕留めなければならない。
「男爵様、ドラゴンはあまり熱に耐性がありません!何か熱源があれば…」
「熱の他に何か弱点は?」
「後は打撃に弱いくらいです」
「…打撃か」
後方でアドバイスをくれる兵士と会話をしている間にも、リントヴルムは鋭い爪が付いた脚で襲いかかってきた。
元々、力が強い相手だけに、蹴られただけでも致命傷になる。
迫ってくる爪を紙一重でかわし、バランスを崩しながらも身体に弾を撃ち込んだ。
弾は身体の表面を覆う鱗を破壊する。
銃は金属の弾を高速でぶつける打撃武器だ。
衝撃が伝わる範囲が小さくても、その分貫通力が増しているため、何度も攻撃を繰り返せば倒せる可能性はある。
「き、効いてますよ!」
ようやく目に見えたダメージが与えられ、兵士たちに期待が広がっていく。
標的が動き回らなければ目を瞑っていても外す事はない。
爪と尻尾に注意しながら同じ場所に弾を放った。
何度も同じ場所を貫いた事で、弾はやがて貫通し、背中を抜けていった。
「つ、貫いた!」
「信じられん…」
「見ろ、リントヴルムが倒れるぞ!!」
兵士たちに歓声が広がる。
同時に巨体が倒れ、建物内に地響きが鳴り響いた。
それでもまだ息があり、苦しそうにしている。
このまま生かしておけば、いずれ脅威になる可能性がある。
銃口を頭に押し当て引き金を引き、完全に息の根を止めた。
「俺は陛下の元に向かう。負傷者の手当てを急いでくれ!」
「わ、わかりました!お気をつけて」
兵士たちに見送られ王の間を目指した。
奥へ進むたび禍々しい殺気が痛いほど伝わってくる。
ホリンズやセシルのように、不快感を伴った身体にまとわり付く殺気とは別ものだ。
気配の主に近付くと、鼻を突く異臭を感じた。
この臭いはグリプトンが口から吐き出す“酸”と同じだ。
近くにグリーンドラゴンが居ることが容易に想像できた。
王の間に通じる扉を開け放つと、目の前に巨大な緑色の物体が行く手を阻んでいる。
それがグリーンドラゴンだとすぐに気が付いた。
身体から温泉のような臭い、つまり、硫黄臭がしている。
「アルマハウド、無事か!」
「レイジ!?」
奥から返事が返ってきた。
姿はまだ見えないがどうやら無事らしい。
その声にグリーンドラゴンも反応した。
その場で身体を反転させて僕の方を睨んだ。
身体の大きさは先ほどのリントヴルムより倍近く大きい。
頭の先から爪先までの長さは十メートルほどあるだろうか。
ジャイアントを超える大きさの化け物と対峙するのはこれが初めてだ。
王の間は天井が吹き抜けになった構造で、地上からの天井までの高さは二十メートル近くある。
見上げると天井には巨大な穴が開き、そこから青空が見えた。
穴の向こうには、宮殿に侵入しようとするグリフォンが旋回を続けている。
「アルマハウド、陛下は無事か?」
「私は無事だ」
「陛下、ご無事でしたか!今お助けします!!」
グリーンドラゴンの腹にマグナム弾を腹に撃ち込んで注意を引いた。
身体を覆う緑色の鱗は、一枚ずつが鉄のように硬い。
加えて、リントヴルムより生命力が強く、容易に倒せる相手ではなさそうだ。
それこそ、最強の生命体に相応しく、恐ろしい風貌と力を備えている。
何発か弾を撃ってみたものの、表面の鱗が何枚か剥がれ落ちた程度で、痛みを感じていないのか平然としていた。
すると、グリーンドラゴンは喉の辺りを動かし、口から強烈な酸を吐き出してきた。
身体に浴びればおそらくドロドロに溶けてしまうだろう。
咄嗟に後ろへ飛び退いて攻撃をやり過ごした。
僕が居た場所は酸を浴びて床が沸騰している。
以前戦ったグリプトンの酸よりも強力だ。
何発か撃ってわかったが、マグナム弾を放てる“M500”でもまるで歯が立たない。
ダメージが見込める銃となれば、残るは“ソードオフショットガン”で、そのためには至近距離から撃ち抜くしかない。
ネピリムの鎧さえ破壊したショットガンなら、鱗を破壊してダメージを与えられる可能性がある。
問題があるとすれば、爪の攻撃と不意な酸の攻撃に注意して近付くこと。
いくら自由に身動きが取れないと言っても、巨体に身体に押し潰されて…という事も考えられる。
「レイジ、コイツの注意を引いてくれないか!」
「わかった…やってみる!」
注意を引くだけなら手数の優れた自動小銃でも対応出来るだろう。
素早く持ち替え、高速で弾を放った。
自動小銃の弾ではマグナム弾よりダメージは小さい。
縮尺から考えても、象に対して親指大の小石を投げつける程度だろうか。
それでも、同じところを撃ち続ければやがて鱗は剥がれていく。
グリーンドラゴンは徐々に蓄積した痛みに耐えかね、突然暴れ始めた。
身体を左右に振ると、翼や尻尾が建物を支える石の柱を薙ぎ倒した。
そして、頭上から崩れ落ちる石がグリーンドラゴンにのしかかり、うめき声があがる。
僕は隙が出来たところを見逃さず、壁伝いに脇を通り過ぎアルマハウドと合流した。
「天井の崩壊が始まった。ここは危険だ!」
「陛下、お逃げください。ここは私が引き受けます」
「す、すまん…。死ぬんじゃないぞ!」
皇帝を壁伝いに移動させる。
グリーンドラゴンの狙いは皇帝のため、すぐに追おうとしていた。
しかし、皇帝は王の間に設けられたら隠し扉を通り、隣の部屋に脱出した。
「お前の相手は私だ!」
アルマハウドは叫びながら斬り掛かっていった。
グリーンドラゴンは皇帝を追おうとしていたため、隙だらけだ。
対するアルマハウドは、皇帝を守る必要がなくなり、自由に動けるようになったらしい。
剣を振り上げて猛然と駆け出した。
元々、アルマハウドの剣はドラゴンやジャイアントなど、巨大な相手を想定して作られている。
そのため、自分より何倍も身体が大きい相手を倒せるよう、刀身が長く重さを生かせるよう肉厚な仕様になっている。
普通、こんな剣は誰でも扱える代物ではない。
むしろ、怪力が自慢でもなければ、一度振るだけでも一苦労だ。
もちろん、それを振り上げてから一気に叩き付けるような使い方をすれば、使用者の腕が耐えきれずに壊れてしまう可能性もある
いくらテイタンを使って鋼鉄製よりも軽量化されているとは言え、常識では考えられない武器だ。
アルマハウドはそんな事は一切気にも止めず、いつものように剣を振り回している。
怪力と言う言葉で片付けられないその様子は、中身が中空の竹刀を振っているように軽やかだ。
斬撃はドラゴンの腹を直撃した。
同時に、バラバラと音を立てて鱗が剥がれ落ちていく。
彼はその様子を見て二度三度と剣戟を繰り返した。
まさに“ドラゴンキラー”の名に恥じない戦いぶりだ。
剣筋に一切の迷いを感じない。
むしろ、倒し方のセオリーをわきまえているような振る舞いだ。
しかし、当のグリーンドラゴンも一方的に攻撃を受けているわけではない。
何とか反撃しようと、鋭利な爪が付いた脚を突き出し、攻撃のリズムを崩そうとしている。
それでも、アルマハウドには大して効果がなく、脚ごと構わず斬り裂いていく。
これにはさすがのグリーンドラゴンもたまらず酸を吐き出して対応してきた。
床の石材すら溶かす酸は剣で受け止める事が出来ない。
僕らは後ろに飛び退いて酸をやり過ごした。
「…ふぅ、もう一息だ!」
「大丈夫か?無理をするんじゃないぞ」
アルマハウドは息が上がっていた。
さすがの彼でも、大剣を何度も振り回すのは大変らしい。
ゴブリンやオーク程度の相手なら一撃で斬り捨てる事が出来るが、ドラゴンのように外皮が硬い相手ともなれば話は別だ。
それでも、腹を覆っていた大部分の鱗は剥がれ落ちている。
こうなれば銃でもダメージを当てられるはずだ。
ドラゴンの身体は筋肉質で硬く締まっているため、貫通力の高い弾でなければ内臓を傷付ける事は出来ない。
「アルマハウド、後ろから援護する。出来る限り鱗を破壊してくれ」
「…わかった、やってみよう」
彼は深呼吸をして心を落ち着けると、距離を詰めて斬り掛かった。
先ほどの疲れを感じさせない動きには感心してしまう。
剣戟が繰り返され、鱗が剥がれ落ちていくのを確認し、自動小銃を構えた。
一撃の破壊力はショットガンに劣るものの、比較的遠距離から正確に攻撃出来る利点は大きい。
むしろ、近付けばアルマハウドの足を引っ張ってしまうため、近付く必要があるショットガンは適切ではない。
アルマハウドが射線上に入らない細心の注意を払いながら、剣戟の間を縫って引き金を引いた。
一発二発と弾が命中すると、ドラゴンはうめき声をあげた。
どうやら効いているらしい。
元々、銃は対人用に開発された武器だが、要所を押さえればドラゴンのような巨大な相手にも通用するようだ。
ドラゴンは慌てて背を向けた。
背中は腹よりも硬い鱗で覆われている。
そのため、アルマハウドの剣でも思ったようなダメージが与えられない。
ドラゴンはそれを理解しているようだ。
「…チッ、背中を鱗を破るのは骨が折れる。レイジ、尻尾に注意しろ!」
アルマハウドが注意を飛ばした瞬間、丸太のように太い尻尾が鞭のように振られた。
真横から飛んでくる尻尾を紙一重でかわすと、そのまま近くにあった柱を薙ぎ倒した。
空から無数の瓦礫が降り注ぐ中、尻尾の攻撃にも注意しなければならない。
これでは集中して攻撃することができず、天井の崩落が収まるのを待つしかない。
ドラゴンは一瞬、攻撃が止んだのを理解すると、周りの柱を手当たり次第に破壊し始めた。
どうやら使える頭がついているらしい。
尻尾を縦横無尽に振り回し、柱や壁を破壊していった。
「逃げろ、下敷きになるぞ!」
アルマハウドはドラゴンの攻撃をかわしながら、反撃の機会を窺い逃げようとしなかった。
やがて辺りは瓦礫と砂埃で視界が悪くなり、彼の姿が見えなくなった。
それでも、見えないところから剣を振り下ろす音が聞こえてくる。
だからと言って、援護射撃をしようにも姿が見えないため、無闇に発砲するわけにはいかない。
何も出来ずに立ち尽くしていると、砂埃の中から鈍い音が聞こえてきた。
同時にアルマハウドのうめき声が聞こえてくる。
「アルマハウド、無事か!?」
「く…来るな!」
返ってきたのは喉の奥から絞り出したような声だ。
その声には余裕が一切感じられない。
砂埃が収まるのを待つと、アルマハウドが膝をついて苦悶の表情を浮かべていた。
忙しい時期に入ったと言っても、雨の日は少し例外です。
ずっとこの調子ならいいですが、明日から晴れが続くみたいなのでどうなる事か…。
ご意見・ご感想・誤字脱字の指摘等があればよろしくお願いします。




