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GunZ&SworD  作者: 聖庵
120/185

シーン 120

タラスクスが倒れた事で魔物の統制が乱れた。

亜人たちと同様、逃げ出す者もいる。

やはり指揮官を失ったのが原因と見て間違いはない。

ただ、この混乱に乗じて前線を越えようとする魔物の姿もある。

それでも、単騎だけで突破出来るほど甘い守りではない。

むしろ、タラスクスの死は、沈み掛けていたハンターたちの士気を再び燃え上がらせた。

皆それぞれ勝利の言葉を発し、自らを鼓舞している。

前向きな自己暗示は全体に波及していった。

心が変われば肉体にも反映される。

感情と密接な繋がりがあるエーテルとの相性もいい。

願いを具現化しようとする力は、普段以上の力を発揮する原動力になる。

戦場に居るほとんどのハンターが生き生きとしていた。


「誰か、彼を急いで安全なところへ!」


クオルに肩を貸して助けを呼んだ。

まだ戦いが終結したわけではない。

今までより攻撃の手は緩くなったが、それでも危険は続いている。

中には火事場泥棒のように、人間の虚を突こうと考える魔物もいた。

特に狡猾なのは“ラミア”と呼ばれる魔物だ。

上半身が裸の女性で下半身が大蛇の姿をしている。

ラミアは下半身を使って人間を絞め殺す恐ろしい魔物だ。

迂闊に近付けば巻き付かれ、着ている鎧ごと締め上げて肉団子にされてしまう。

ラミアの適切な対処法は、何より近付かないこと。

弓や槍など離れた場所から攻撃できる武器が良いとされている。

皆その事をよく理解しているため、ラミアを相手にするのは槍を持ったハンターだ。


「男爵様、私がその方を安全なところまで運びます!」


声をかけてきたのは、後方から増援に来た見習いのハンターだ。

僕よりも少し若い男だが、精悍な顔つきをしている。

まだハンターとして正式に認められたわけではなく、証となる紋章を身に付けていなかった。

それでも、前線まで飛び込んでくる勇気は評価できるだろう。

恐らく、この戦いを生き延びれば、正規のハンターとして認められる日もそう遠くはないはずだ。


「すまない。さっきの戦いで魔具を使い精神をすり減らした。きっと、明日まで目を覚まさないだろう。介抱を頼む」

「わかりました。この任、果たして見せます!」


名前も知らない見習いのハンターはそのままクオルを背負って走り出した。

体力に自信があるらしい。

きっと、前世の世界なら消防士や自衛官が適職だろう。

二人の姿が前線を離れ、安全なところまで行ったのを見届けた。

前線を見渡すと、亜人や魔物の数は確実に減っている事がわかる。

対するこちらの損失は先ほどから大して変わっていない。

負傷したバリージェイとグラウドンの事が心配になったが、別のハンターたちが協力し、すでに安全な場所に移されていた。


「残りは雑兵だ!気を抜かず一気に叩き潰せ!!」


年長者のハンターが大声を張り上げた。

残っているのはオークやガルムなど数体だ。

そして、最後の一匹になったガルムを複数で取り囲み、確実に仕留める事が出来た。

同時に周囲から歓声があがる。

勝利の勝鬨かちどきだ。

辺りには戦死したハンターの亡骸の他に、制圧した亜人や魔物の死骸があちらこちらに転がっている。

多くの敵が撤退した南の方角を見たが、新たに攻めて来る勢力は確認できなかった。

どうやら地上からの攻撃を防ぎきる事に成功したらしい。


残るは空からの攻撃だ。

空を見上げると、恐れたいた事が現実になろうとしていた。

ワイバーンやグリフォンを使役するグリーンドラゴンが旋回を止め、“ある場所”に向かって一直線に降下しているのが見える。

その場所は皇帝の住まいである宮殿だった。


「ドラゴンが宮殿に突っ込むぞ!!」

「へ、陛下!?」


その様子を見ていたハンターたちの顔色が青くなる。

元々、ドラゴンは人知を超えた恐ろしい存在という認識が一般的だ。

いくら腕に覚えのあるハンターでも、ドラゴンに敵う者は例外を除いてほとんどいない。

そんな例外の一人にアルマハウドが入るのだが。

基本的な考え方として、ドラゴンを倒せる可能性を持つのは魔具に適合した“リンカー”だけだとされている。

それだけに、ほとんどの人間がドラゴンを見て萎縮してしまう。

幸い宮殿にはアルマハウドがいる。

彼が過去にグリーンドラゴンを倒した事があるのか、その点については不明だが、期待は持てるだろう。

それでも、一人で戦うより人数は多い方がいい。


グリーンドラゴンに気を取られていると、グリフォンやズーたちが集団で町へ下降を始めていた。

どうやらドラゴンの指示で攻撃命令が出たらしい。

戦力を分断する事で、邪魔するハンターたちを遠ざけようという作戦のようだ。

町には多くの非戦闘員たちがいる。

守るべき対象が多いほど、作戦の効果は大きくなる。


「急いで町に戻れ!手遅れになるぞ!!」


ハンターたちに紛れ一目散に町を目指す。

町の中は混乱していた。

すでに少なからず被害が発生し、グリフォンに殺された者、ワイバーンによって破壊された建物などが目に付いた。

一刻も早く町の安全を確保しなければ取り返しのつかない事になる。

我が家のことも心配だが、戻っていては宮殿にたどり着くのが遅れてしまう。

サフラとニーナに家を守るよう言いつけてあるため、後ろ髪を引かれる思いで宮殿を目指した。


途中、空から強襲してくるグリフォンとズーに遭遇した。

それぞれ気をつけるべき攻撃方法が違うため、戦い方には十分注意が必要だ。

特にズーが発生させる暴風は、地上の砂を巻き上げて視界が悪くなってしまう。

しかし、どちらも翼さえ使えなくなってしまえば恐ろしさは半減する。

常に走りながら銃を扱う場合、両手持ちが必要な自動小銃よりも、片手で扱える拳銃が向いていると思う。

自動小銃に比べ連射性能や威力が劣るのは気になるが、取り回しを最優先に考えて“M1911”に持ち替えた。

同時に襲ってくる魔物をギリギリまで引き付けたところで素早く翼を撃ち抜く。

どちらも対峙した事のある魔物のため、恐れる事はない。

地面に落ちたところへ容赦なく弾を連射して頭を破壊する。

ネピリムやタラスクスに比べれば大した問題ではない。

僅かな時間でグリフォンとズーを倒し終え、先を急いだ。


宮殿に近付くと異変に気が付いた。

城門の付近には多くの住民たちが群がって騒いでいる。

どうやら安全な宮殿に身を寄せようと殺到したらしい。

町の中で一番堅牢な建物は宮殿だと誰もが知っている。

住民たちは空から襲ってくる魔物たちを見て恐怖していた。

下手をすればパニックに繋がりかねない危険な状況でもある。

一度パニックが発生すると人間は予想外の行動を起こす。

自らの保身のために、他者を虐げても生き残ろうという感情が蔓延すれば、敵に殺されなくても、多くの死傷者が出る事は容易に想像できた。

ここは何としてもパニックが発生しないよう対処する必要がある。


「みんな、聞け!宮殿は危険だ!!ドラゴンがここを襲撃している」


僕の呼びかけを聞いて住民たちに不安が走った。

彼らはまだ入口での戦いが終わった事を知らない。


「し、しかし、外には大量の魔物が…」

「それなら心配ない。地上から攻めて来た亜人や魔物は全て制圧した!今は一刻も早く陛下をお護りする必要がある。みんな、道を開けてくれ!!」


僕が説得していると遅れてハンターたちが駆け付けてきた。

先頭に居たのはギルドマスターだ。

その姿を見て住民たちは状況を理解したらしい。

ギルドマスターが持ち場を離れているという事は、脅威が去ったという証明にもなる。

彼も現状を理解したのか、僕の前に進み出た。


「皆の者、ここは危険だ!すぐにそれぞれの家に戻り、扉を固く閉ざすのだ!!家に戻るまでの護衛は我々が行う」


ギルドマスターの計らいで住民たちは冷静さを取り戻し、ハンターたちの指示に従い始めた。

彼らは安全を優先して順次家に帰される。

僕は急いで城門を潜り、宮殿の中に入った。

中は思ったよりも静かで、近くに人の気配を感じない。

それでも、建物の奥から禍々しい殺気が伝わってくる。

この主は恐らく入り込んだ魔物によるものだろう。

気配を辿って奥へ進むと、兵士が倒れていた。


「おい、大丈夫か!」


身体を起こして意識を確認したが、すでに息を引き取ったあとだった。

腹部には何か鋭利な物で刺された後がある。

顔色が紫色になっていたところを見ると、何らかの毒物によって死に至ったようだ。

近くを見渡すと別の兵士が倒れていた。

こちらも先ほどの兵士と同様、同じような症状で死亡している。


「…一体何があったって言うんだ」


理由がわからず苛立ちが募っていく。

皇帝は無事なのだろうか。

警護する兵士が死んでいたところを見ると、急に不安が湧き上がってくる。

皇帝という存在は、人間が秩序を保つために必要だ。

彼が死ねば人間たちに混乱が起きてしまう。

この襲撃はそれを狙ったものではないだろうか。

同時にある男の顔が脳裏を過ぎった。

“支配構造が変わる”と言っていたところを見ると、この襲撃を事前に計画していたのだろう。

亜人や魔物が南から攻め込んで来た事からも、ホリンズが関わっている可能性は十分に考えられる。

しかし、今はそんな事を気にしている場合ではない。

急いで皇帝の安否を確認し、安全なところへ移す事が必要だ。


宮殿のさらに奥へと進むと、何者かと戦っている音が聞こえてきた。

金属同士が激しく衝突する音は、すぐ近くで聞こえている。

音のする方へ向かうと、数名の兵士たちが巨大な“何か”と戦っていた。

それは、天井を突き破り城内に侵入したワイバーンだった。

良く見ると、ホリンズが使役していたものより身体が一回り小さい。

それでも、建物にギリギリ収まる身体は、少し動いただけで周りの構造物を破壊するほど強大な力を秘めている。


ワイバーンは少し飛び上がり、股の間から先端が“針状”になった尻尾を突き出した。

尻尾は兵士の持っていた盾を貫通すると、そのまま腹部に突き刺さった。

兵士は断末魔の悲鳴をあげ、その場にうずくまると、顔色が徐々に変色していく。

尻尾の先端には猛毒を生成する器官が付いている。

その毒は猛毒を持つコブラよりも強力で、耐性を持たない人間なら数分も経たないうちに死んでしまう。

刺された兵士は腹に開いた穴が致命傷になり、毒が全身に回る前に息絶えた。


「だ、男爵様…」


ワイバーンと対峙していた兵士の一人が僕に気が付いた。


「陛下は無事か!」

「は、はい。アルマハウド様がお護りしています。ですが、すでにグリーンドラゴンの侵入を許してしまいました」

「無事がわかればそれでいい。まずはこいつを片付けるぞ!」


ワイバーンが本当に恐ろしいのは空から襲ってくる場合だ。

その点、今は狭い建物の中に居るため、普段の能力を全て発揮する事が出来ていない。

それでも、ドラゴン特有の怪力は健在で、巨大な体格を生かした突進と爪による攻撃は脅威だ。

何より、盾すら貫通する尻尾は最も注意が必要で、一度でも身体に刺されば絶命は必死だろう。

今日で120話目。つまり、4ヶ月連続の毎日投稿です。

今日中の投稿が間に合うか不安でしたが、何とかなりました。


人間、やる気になれば何でもできる!(たぶん)




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