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GunZ&SworD  作者: 聖庵
118/185

シーン 118

ネピリムと対峙しながらでも周囲の状況がある程度確認できるようになった。

加勢に来た若いハンターは一人で善戦している。

一目見た感想は戦闘のセンスが良いこと。

戦闘経験は少ないようだが、相手の短所をよく見抜き、的確な攻撃が出来ている。

戦い方はどちらと言えば地味で堅実なタイプだ。

自慢出来るような怪力や素早さは持ってはいない。

それでも、着実に成果を積み上げる努力家なのだろう。

そんな事を思う間にも、不用意に近付いたゴブリンの首を斬り落とし、戦闘を優位に進めていた。

将来有望なルーキーと言ったところか。


他の戦況も決して悪くない。

手強い相手にはチームを組んで取り囲み、それぞれが足りない戦力を補っている。

この戦い方ができるのはハンターならではだ。

一匹狼のバウンティーハンターならこうはいかない。

中でも目を引いたのは、バリージェイとグラウドンの兄弟だ。

彼らは自慢の怪力を生かし、近付いて来る敵を次々とねじ伏せている。

連携も取れているのでほとんど隙がない。

彼らの実力を大きく上回る怪物が相手でもない限り、心配は無用だろう。

むしろ、仲間でも不用意に近付けば攻撃に巻き込まれてしまう。

大声を張り上げ、砂埃を巻き上げて戦う様子は、どちらが怪物かわからないほど豪快な戦いぶりだった。


櫓から矢を射掛ける弓兵たちも善戦している。

射線上に味方が入らない細心の注意を払い、前線に押し寄せてくる敵を攻撃していた。

ピュレーも僕がアドバイスした通り、空から向かってくる敵の対処をしている。

一度にたくさん攻め込んでこない限り、前線が決壊する事はなさそうだ。

気になるのはその遥か上空。

ワイバーンやグリフォンなどを使役するグリーンドラゴンの存在だ。

空を見上げると、矢が届かない遥か上空を旋回している。

ただ、すぐに攻撃を仕掛けてくる様子はなく、状況で待機しながら戦況を監視している。

きっと、人間側の疲弊を待って攻撃を仕掛けようというつもりらしい。

少ない労力で大きな成果をあげようとしているように見えた。

元々、ドラゴンは狡猾で獰猛な種族だと恐れられている。

中でも長く生きたドラゴンは多くの経験と知識を学び、生き延びる術を熟知している。

グリーンドラゴンの様子とは別に、グリフォンやズーが散発的な攻撃を仕掛けてくるのは、本能的な攻撃衝動からくるものだろう。


改めて対峙するネピリムを見た。

利き手を負傷したためか、闇雲に攻撃しようとはせず、僕を睨みつけて機会を伺っている。

僕はといえば、不用意に動いたところを狙い撃とうとしているため、先ほどから膠着状態だ。

しかし、何かのきっかけでこの均衡が崩れるだろう。

そんな状況を知ってか知らずか、ネピリムを守るフォーモルが襲いかかってきた。

これまで何度も仲間が倒されるところを見ているはずなのに、臆する様子は一切ない。

むしろ、何も考えずに力任せの無謀な突進を見せている。

直線的な攻撃は、少し身体の軸を傾ける程度の動きで回避出来きる。

フォーモルは攻撃を空振りして体勢を崩した。

こうなってしまえば例え恐ろしい外見をしていようと、赤子の手を捻るよう背中を撃ち抜くだけだ。

自動小銃の弾は背中を貫通して心臓が破裂した。


「…この程度か?」


不意に独り言が漏れた。

気が付くと無意識に笑みを浮かべ、この状況を楽しんでいた。

前世では争いなんて嫌いだったはずなのに、転生してから、いつの間にか戦いが日常の一部になっていた。

こうなる事を望んでいたわけではないのに、持ち前の適応能力の高さを生かし、すでに疑問すら感じずにいる。

これが今の僕だ。

殺しを楽しむ醜悪な一面が心を支配している。

きっと、これは本当の僕ではないのだ。

ストックホルム症候群に近い状態なのだろう。

自我が壊れないよう、恐怖と生存本能に基づいて自身にセルフマインドコントロールをかけている。

そうでなければ説明がつかない。

戦うのが好きだと認めたら、今までの僕を否定する事になるのだから。

しかし、この笑みは本当に作り物なのだろうか。

疑問に思えばきりがない。

戦場で余計な事を考えれば死に直結する。

ネピリムにも僕が抱いている感情が伝わったのか、それとも、隙を見せてしまったのか、取り巻きの亜人たちを先行させて襲い掛かってきた。


「男爵、危ない!!」


近くで声が聞こえた。

先ほど加勢に来た若いハンターのものだ。

ハンターは僕の前に立ちはだかり、ネピリムの攻撃を真正面から受けた。

彼の身体は宙を舞い、数メートル吹き飛ばされてようやく止まった。

僕は思わず棒立ちになった。

一瞬、何が起こったのか理解できず、頭の中が真っ白になった。

それでも、目の前から迫ってくる巨大な亜人の姿が目に入り、すぐに現実に戻った。

ネピリムの横薙ぎした棍棒をギリギリでかわし、攻撃の及ばないところまで下がって距離を取る。

近くには僕を庇って攻撃を受けたハンターが虫の息で倒れている。

すでに全身の骨が砕け、手足はありえない方向に曲がっていた。

幸い頭は無事だったため、即死にはならなかったらしい。

それでも全身を襲う激痛からか、表情は苦悶に歪んでいる。


「よ、よかった…」

「お前…何て事を…」

「ご無事で…何より…で…す…」


それが最後の言葉だった。

ハンターは息を引き取り動かなくなった。

こんな事は戦場ではよくある事だ。

だけど、僕の心はそんなに強くできてはいない。

例え名前を知らない相手でも、僕の身を案じてくれた気持ちには変わりないのだから。

その結果がこれだ。

自分の命を犠牲にして僕の盾になった。

これから先、有望なハンターとして名を上げていったであろう、若い命はこんなところで儚く散った。


「…うあああぁぁぁッ!!」


心の中で何かが音と立てて壊れた。

同時に頭に血が上り、周りの状況は一切見えない。

先ほどまでの余裕はどこにもなく、湧き上がる感情が心を満たしていく。

心を支配しているのは、目の前の巨人に対する憎悪だ。

気が付くと、“ソードオフショットガン”に持ち替え、ネピリムに突進していた。

対するネピリムは猛スピードで突っ込んで来る僕を迎撃しようと、棍棒を頭上高く振り上げている。

スイカ割りでもする子どものように、無邪気に醜い笑みを浮かべ、それを一気に振り下ろしてきた。

きっと、普段の僕なら絶対しない行動だ。

直線的な攻撃なら避けるのは簡単で、無駄なくかわしていたと思う。

だけど、この時の僕は何故かそれを真正面から受け止める覚悟で、回避する事なく飛び込んでいた。

結果、棍棒が直撃するギリギリのところ難を逃れ、ネピリムを守っていたオークを踏み台にして高く飛び上がった。

セシルほど高くは飛べなかったが、それでもネピリムの胸の高さまでは飛べた。

目の前に鉄で出来た鎧が見える。

地上までの高さは約五メートル。

足元にいるオークたちが少し小さく見えた。

ネピリムは僕の予想外な行動に対処が間に合わず、反撃や回避行動が取れなかった。

僕は空中という慣れない環境の中で、かつてないほどの速さで引き金を何度も引いた。

滞空時間は三秒もなかったと思う。

それでも、一秒間に五発という驚異的な連射は、鉄の鎧を撃ち砕き、最後に放った弾が心臓を破壊した。

落下の間際、激痛に苦しむネピリムがバランスを崩し、仰向けに倒れていく様子が見えた。


自由落下というものは実に気分が悪い。

フワリとした浮遊感は目眩さえ感じる。

ちょうどエレベーターが急加速と急停止した時のような、気持ちの悪い感覚に似ている。

それでも高さが五メートルから落ちる感覚はほんの一瞬で、身体を回転させて見事な着地を決めた。

気分は体操競技の鉄棒の選手だ。

同時に、周りから歓声があがった。

亜人たちを指揮していたネピリムが倒れた事で、前線の戦況は一気に好転していく。

強大な指導者を失ったゴブリンやオークたちは、もはや烏合の衆で、一部は背中を向けて逃げ出す者もいる。


「だ、男爵があの化け物をやった!?」

「し、信じられない…」

「男爵様、万歳ッ!!」


反応はそれぞれだが、僕の戦果を賞賛するものが大半を占めている。

ただ、これで終わったわけではない。

一時的に戦況が好転しただけだ。

まだ強敵となるタラスクスが後方で控えている。

しかし、ネピリムを倒した成果は大きく、亜人たちは統制を失ってバラバラの行動をしていた。

こうなってしまえば殲滅するのは難しくない。

ショットガンから自動小銃に持ち替え、浮き足立つ亜人を片っ端から撃ち殺し、辺りに死体の山を築いた。


「…敵は取ったぞ」


ポツリと呟いて僕の身を守ったハンターに報告した。

彼が生きていたなら、他のハンターたちと同様、僕を讃えていただろう。

命とは呆気ないものだ。

身代わりのコインを持っていなかったのは不幸としか言いようにない。

元々、コインは高価なものだ。

駆け出しから一人前になった程度のハンターでは、それを買う余裕もない。

それよりも、戦いを優位にする武器をいち早く揃えるのが一般的なのだから。

最後に小さく黙祷を捧げ、彼の魂を弔った。


ネピリムを倒して少し冷静さが戻った。

同時に、一瞬の出来事で蹴散らした亜人たちの死体が目に入る。

どんな思惑があろうと、人間に害をなす亜人は“悪”だ。

生きていてもロクな事をしない。

これはサフラを救った“あの夜”に誓ったこと。

今後、害を及ぼすであろう敵に容赦してはいけない。

忘れかけていた思いが心を支配し、胸が締め付けられた。


そんな僕の気持ちとは裏腹に、まだ統制が取れている魔物が襲い掛かってきた。

指揮官であるタラスクスが健在な魔物は、我先にと入口を突破しようとしている。

特に俊敏性が特徴のガルムは、ハンターたちの頭上を飛び越え、町を目指そうとする者もいた。

僕はそんなガルムを逃すはずもなく、自動小銃で背中を撃ち抜いた。

いくら巨体を持つ相手でも、弾さえ当たればダメージはある。

ガルムは一瞬動きが鈍くなり、攻撃した僕の方を振り向いた。

きっと、僕に構わず町を目指していれば前線を突破できたかもしれない。

むしろ、顔を見せたのは運の尽きだ。

間髪を入れず、顔面が原形を留めないほど弾を浴びせた。

その一発が眼球を貫通し、脳を破壊する。

ガルムは断末魔の悲鳴をあげて、真横に倒れこみ動かなくなった。


もはや躊躇いの気持ちはない。

例え、鬼神や悪魔と罵られようと、僕はネズミの一匹さえ町に侵入させるつもりはない。

固い決意を持って向かってくる魔物と対峙した。

一方、後方から迫る新たな増援に、亜人たちの姿はなかった。

どういう仕組みかわからないが、指揮していたネピリムが死んだ事と関係しているようだ。

ネピリムが死んだ直後、逃げ出そうとする亜人も居たため、彼らが望んで町を襲っていたのではないと想像がつく。

それが確かなら、魔物を指揮するタラスクスを倒せば、この戦いを終わらせることができるのではないか。

そんな期待を持ってしまう。

実際、タラスクスを倒すまでこの戦いは終わらないのも事実だ。


ネピリムが倒れたのを知ってか、それとも、何か別の考えがあってか、詳しい事はわからないが、タラスクスが前線に向かって駆け込んできた。

巨大なワニの怪物は水辺でなくとも活発に行動できるらしい。

その姿は装甲車のようで、立ちはだかるハンターたちを次々に跳ね飛ばしていった。

敵の紹介はこの“防衛戦”が終わった頃に掲載しようと思います。




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