シーン 117
前線の奮闘もあり、入口に近付く敵の数も少なくなってきた。
それでも、亜人や魔物を使役するネピリムとタラスクスは健在のまま。
機会さえあればいつ攻め込まれてもおかしくはない。
何より分厚い皮膚に覆われたタラスクスは、銃や剣との相性が非常に悪い。
頭以外の急所を狙おうにも、鎧のような皮膚が邪魔をしている。
ただ、以前の戦闘で炎に弱いという事を学んだ。
特に、口を大きく開けたところへ、爆発物を放り込み内側から焼いてしまえばいい。
前線を見るとクオルがかなり奮闘していた。
魔具の能力を極限まで抑えたまま、多くの敵を斬り伏せている。
ニーナから聞いた彼の噂によれば、大会でアルマハウドと戦ったのがいい薬になったらしい。
それまで魔具で高めた強靭な腕力を主体に、力任せの近接戦闘を得意としていた。
また、状況が悪くなれば“炎”に頼るという戦い方も出来る。
もちろん、それもかなり有効な戦法だが、炎を使った後の対処が課題になっていた。
リンカーではない彼は、能力を使った後の精神的な負担が大きく、長期戦向きの戦いを不得意と感じていた。
それでも、並みのハンターとは比べ物にならないほど強いのは確かだ。
その長所を活かしつつ、なるべく魔具に頼らない戦術を心掛けた。
また、能力を制限する事で、魔具に頼らない“タフさ”も身に付いた。
現在では能力に頼らず、必要に応じて最小限の能力を使っている。
同時に、戦い方が変わったおかげで、周りの状況を客観的に判断出来るようになっていた。
まだ熱くなりやすい性格がなくなったわけではないが、以前よりも目に見えて成長している。
「男爵様、敵の増援です。凄い…何て数だ…」
見張りを兼ねていた若い男が声をあげた。
視線の先には砂煙をあげて帝都に迫ってくる敵の集団が見える。
構成している亜人や魔物の種類はほぼ同じで、ネピリムとタラスクスの姿だけは見当たらなかった。
どこに潜んでいたのか疑問に思うほど数が多く、目視で数える範囲では百体を超えている。
「仕方ない、俺は下に降りて前線に向かう。さすがにあの数は対処出来ないはずだ」
「わかりました。ご武運を!」
「それとピュレー、お前は空から攻めてくる魔物の対処を優先してくれ。お前の弓ならグリフォンやズーにも対抗出来るはずだ」
彼女の弓は一般的な“短弓”とは違い、飛距離も貫通力もかなり高い。
標的をギリギリまで引き付け至近距離から放てば、人体なら矢が貫通するほどの威力だ。
これだけの威力があればグリフォンやズーとも渡り合う事ができる。
彼女に助言して櫓を駆け下りた。
前線では新しい敵を確認したギルドマスターが対応に追われていた。
それに伴い、少し陣形が変わっている。
腕に覚えのあるハンターは率先して前線に立ち、並み程度の実力者は後方で待機していた。
この布陣はギルドマスターの采配だ。
前線に欠員が出ればすぐに増援が可能で、町に入り込んだ敵への対応も可能にしている。
「男爵様、新手が現れました…」
指揮するギルドマスターも緊急事態に不安がっている。
元々、軍師としての才能には恵まれていないらしい。
どちらかと言えば年功序列と過去の功績で今の地位に就いたように思う。
経験のない出来事ということも重なって軽いパニック状態に見えた。
「上から確認した。物凄い数だが、一体ずつはそれほどでもない。取り囲まれなければ打つ手はある」
「前線の兵はかなり疲弊しております。さすがにこれほど苛烈な戦いは経験がありません。一体どうしたものか…」
「今は弱音を言っている場合じゃない。俺たちが負けたら町は全滅だ」
ここで防衛線が決壊すれば町は敵に蹂躙されてしまう。
町にいるほとんどの住民は武器を手にした事がない非戦闘員ばかりだ。
僕らが守らなくて誰が守れると言うのか。
見えないプレッシャーが重くのしかかった。
そんな間にも敵は町に迫っている。
頬を両手で強く叩き、自分を奮い立たせて前線に向かった。
上から見る様子と違い、現場は混乱の一歩手前で何とか持ち堪えている。
ただ、これ以上の損失が出れば一気に壊滅する危険性もあるほど、状況は芳しくない。
自動小銃を構え、力任せに前線を突破しようとするオークやフォーモルを倒していく。
一体ずつ相手にすれば問題ない。
対処する時間を抑えつつ、向かってくる敵を征圧していく。
元々、銃は“対人戦”に特化した武器だ。
相手に近付かず命を奪い取れるのは脅威と言っていい。
亜人の場合も人間を相手にするのとほぼ同じで、頭を撃ち抜けばほとんどの場合即死する。敵が脳漿をブチ撒ければ生死を確認する必要もない。
ただ、魔物については少し特殊で、頭以外の急所は若干の違いがある。
それでも、頭や心臓を正確に攻撃すれば、撃ち倒す事はそれほど難しくない。
前方から迫ってくるガルムに注意しつつ、前線のフォローに務める。
ガルムの特徴である俊敏性は、目を見張るものがある。
一トン近くある体重の巨大な狼が猛スピードで突っ込んで来た。
それこそ、速さだけなら高速道路を走る乗用車と比べてもいい勝負になるだろう。
射線上に仲間が居ないのと確認して、ガルムを蜂の巣にした。
いくら巨体を持つ魔物とは言え、急所に当たらずとも何発も弾を受ければ相応のダメージを受ける。
弱ったところをハンターたちが襲い掛かり、確実に仕留めていった。
「グアァァッ」
突然、前線の左翼が亜人に突破され、守っていたハンターが命を落とした。
悲鳴がした方向を見ると、ネピリムが棍棒を振り上げ襲い掛かっていた。
何らかの理由で後方での待機を止め、戦闘に参加したらしい。
巨体は見上げるほど大きく、威圧的で恐怖すら覚える。
ネピリムは仲間を引き連れ、自身の周りを警護させながら、向かってくるハンターを棍棒で横薙にした。
甲冑を着たハンターでも軽々と数メートル吹き飛ばされ、鎧は原形を留めないほど変形している。
全身の骨もバラバラに砕け、手足がありえない方向に折れ曲がっていた。
まるで正面から自動車に衝突されたようだ。
ほぼ即死の状態で、助けようとする仲間もいなかった。
彼に手を差し伸べている間、他の守りが手薄になってしまう。
皆、それをよく理解しているため、僕も心を鬼にして彼の最期を見届けた。
「左翼の守りを固めろ!町への侵入を許すな」
別のハンターが手薄になった左翼の守りに入った。
しかし、一人ではネピリムの攻撃は止められず、一人二人と死傷者が増えていく。
僕は咄嗟に駆け出してネピリムの前に立ちはだかった。
遠距離から攻撃できる銃の利点を捨ててでも、これ以上先へ行かせるべきではない。
身の安全を犠牲にしてでもこの巨人を倒す覚悟だ。
ネピリムは僕の姿を見つけると、まるで蟻を見るような目で見下ろしてきた。
体長が七メートル近くあるため、顔がとても高い位置にある。
以前対峙したバレルゴブリンよりも巨大で、知恵も高いとなれば苦戦は必死だろう。
試しに自動小銃で攻撃を試みたが、棍棒を巧みに振り回し、弾を防いで見せた。
機転が利くところを見ると、ゴブリンやオークと相手にするのとはわけが違う。
それに、急所を守る鉄製の装備を身に着けているため、簡単にダメージを与えられそうにない。
ネピリムは僕の動きを観察し、棍棒を真横に引いて横薙ぎにしてきた。
見切れない速さではないが、ギリギリでかわした棍棒は、風切り音を伴って通り過ぎた。
当たればひとたまりもないだろう。
一撃必殺と言っても過言ではない。
攻撃を避けられたネピリムは再び棍棒を構え、攻撃態勢に入った。
それを援護するように僕の周りをゴブリンやオークが取り囲んでいく。
これもネピリムの戦術なのだろう。
思い切り振られた棍棒を今度は高く飛んでかわした。
すると、僕の近くに居た数対のゴブリンとオークが巻き添えを食らい、悲鳴をあげて肉塊に変わる。
仲間さえ平気で殺める残格さも併せ持っていた。
着地の瞬間、数発弾を撃ってネピリムの注意を引く。
僕を対処するべき敵と判断すれば町への侵入も遅くなる。
ターゲットを絞ったのを確認して再び対峙した。
まずは厄介な棍棒の攻撃をどうにかしなければならない。
避けられる攻撃ではあるが、万が一ということも考えられる。
幸い身体が大きいため、棍棒を握る手も大きい。
的としては十分に狙いやすい。
周りに張り付くザコに注意しながら手元を狙った。
一撃では大きなダメージにならなくても、積み重ねれば大きな力になる。
攻撃をかわしながら十発近く弾が命中すると、やがて右手から棍棒がこぼれ落ちた。
しかし、ネピリムはすかさず左手でそれを拾い上げ、すぐに攻勢に転じた。
この機転はゴフリンやオークにはなかったものだ。
それでも、利き手ではないためか、棍棒の扱いが右手よりいくらかぎこちない。
苦し紛れに振り回しているようにも見えた。
右手はダメージを受けて失血しているのが見える。
表情が歪んでいるところを見ると、痛覚は存在するらしい。
「男爵、加勢します!」
後方で待機していたハンターが増援にやってきた。
先ほど戦死した仲間の補充らしい。
チラリと見えた横顔はかなり若い印象で、実際には僕と同じくらいの年頃だろうか。
一人前のハンターとは言え、ジャイアントと対峙するのは初めてなのだろう。
武者震いをしているのが見える。
手にした獲物はハンターが好んで使う幅の広い長剣“ブロードソード”で、よく使いこまれていた。
「すまん、助けを借りる!キミは俺にまとわり付くザコを対処してくれ」
「わ、わかりました」
名前も知らないハンターは、短く応えて剣を構えた。
ゴブリンやオークはあまり俊敏なタイプではないため、その気になればすぐに振り切る事ができる。
今までもそのチャンスはいくらかあったが、そうしたところですぐに追いつかれ取り囲まれてしまう。
“いたちごっこ”になってしまうため、誰か専門に相手をする人材を必要としていた。
彼には少々重荷かもしれないが、危険があれば可能な限りフォローしてやればいい。
ネピリムを執拗に守るオークに狙いを定め、素早く頭を撃ち撃ち抜き、前方に駆け出して取り巻きを引き剥がした。
若いハンターは近くに居たゴブリンを容赦なく斬り殺すと、数匹のゴブリンとオークが彼に向かって行った。
全部引き受けてもらえなかったのは残念だが、文句は言っていられない。
いくらか自由に身動きが取れるようになったため、周りの状況もよく見えるようになってきた。
登場する“敵”の情報作成に着手しました。
完成したら“前書き”に掲載します。
ご意見・ご感想・誤字脱字の指摘等があればよろしくお願いします。




