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GunZ&SworD  作者: 聖庵
114/185

シーン 114

廊下をしばらく進んだ先に複数の気配を感じる。

どうやら先ほど僕らを探していた斥候のようだ。

出口まで探して見つからなかったため、引き返してきたらしい。

彼らを倒さない限り外へ出られそうになかった。


「…どこへ行こうというおつもりですか?」


斥候と鉢合わせしてリーダーらしき男が問い掛けてきた。

まだ敵意は感じられないが、返答次第では無事に済みそうもない。

人の皮を被った化け物は表情を変えず、人形のように冷たい視線を投げかけてくる。


「何も聞かず退いてくれないか?」

「それは出来ぬ相談。我らにも大義がある故」

「大義…か。では仕方ない、強引に通らせてもらう!」


こちらが武器を構えた瞬間、キメラたちの身体を変化させた。

身体が骨格から変形し、徐々にマンティコアへと変わっていく。

僕は変身する途中のマンティコアに照準を合わせ、顔面に向けて数発弾を浴びせかけた。

キメラの変身が終わる前に頭を破壊し、二体同時に仕留める事ができた。

しかし、残りはまだ八体。

四人になった僕らは一人で二体を相手にしなければいけない計算だ。


「みんな、陣形を乱すな!中央を突破する」


僕らはアルマハウドを先頭にして敵陣に斬り込んで行った。

僕のポジションは最後尾。

殿を務めつつ、追っ手のキメラを始末するのが役目だ。

アルマハウドは大振りながらも鋭い剣裁きで、飛びかかってくるキメラを叩き落としていく。

サフラとニーナは彼の死角から攻めてくる敵に対し、それぞれの武器で応戦している。

ただ、サフラはリーチが短い短剣のため、キメラの攻撃をギリギリで処理しなければならない。

可能な限り彼女のフォローをしつつ、全体の様子を見渡した。

こちらの戦力は敵に比べて過剰にあり、押し負けるという事はない。

このまま力任せに進軍しても問題はなさそうだ。


「アルマハウド!歩みを止めるな、駆け抜けろ!」


呼び声に応じてアルマハウドは速度をあげた。

迫ってくるキメラも彼の気迫に怖じ気づき、攻めあぐねている。

守りが薄くなった所を突き、キメラたちの背後を取った。

ここまで来れば出口までは一本道だ。

ホシェットから“火薬玉”を取り出し、キメラの居る方へ思い切り投げつける。

この道具の利点は衝撃でも効果を発揮するところだ。

“炸裂弾”のように爆炎でダメージを与える代物ではないが、爆発音で相手を怯ませるのにちょうどいい。

案の定、キメラたちは目の前で爆発した火薬玉に驚き、一瞬の隙が生まれた。

僕らはそれを見逃さず、全速力で馬車の待つ出口を目指した。


途中、マンティコアとタラスクスを倒したフロアを通り過ぎたが、すでに死体は処理されていた。

あのまま放置していたら通行の邪魔で仕方がない。

微かに焦げた跡が残る現場を横目に追っ手に注意する。

しかし、マンティコアが追いかけてくる気配はない。

聞こえてくるのは僕らの足音だけで、不意に違和感と不安がこみ上げてきた。

同時に首筋の辺りに痛みを感じ、危険信号が発せられる。

その直感は正しく、前方に見覚えのある男女が待ち構えていた。


「どこへ行こうと言うんだい?」

「…ホリンズ」

「嫌そうな顔をするなよ。それに、警報音を聞いただろ?あの音に気付かないバカはいないよ」


彼の表情にはいつもの余裕がある。

まだ指輪の効果も持続しているため、魔具を使う事はできない。

ただ、仮に魔具が使えたところで、勝つ事はできないだろう。


「…俺たちをどうするつもりだ!」

「そんなに邪険にしないでくれよ。せっかく夕食を用意したんだ。帰る前にせめて食べて行ったらどうだい?」

「夕食…?あいにく、こっちはそんなつもりはない。そこを退いてもらう」

「僕は別にキミたちが帰ろうと構わないよ。それに、まだキミが仲間になるのを諦めたわけでもない。今は時期が悪かったと言うところかな?」

「どういうことだ!」


薄気味悪い笑みを浮かべている。

本当に何を考えているのかわからない男だ。

仮に考えている事がわかったとしても、その考え方に同調する可能性は皆無だろう。


「僕は寛大だよ?キミたちが考えて居ることくらいお見通しさ。まぁ、種明かしをすれば、あの部屋にカメラがあったんだよ」

「そう言う事か…。だが、何が起ころうと、何と言われようとお前の手助けをするつもりはない!」

「あれ…?嫌われちゃったかな。僕はキミを評価していると言うのにね。それにしても、この時間を選んだのはなかなか秀逸だよ。普通、深夜を狙うと思うからね。まんまと出し抜かれた気分さ」

「その割には対応が早かったな…」

「客人を見送るのは当然だろう?もっとも、全てモニタリングしていたからわかったことだけれどね。それに、今のキミを無理に説得して仲間にするつもりはない。期が熟したらまた誘うつもりだ。だって、仲間になったと見せかけて嘘を吐かれたら気分が悪いからね。ただ、これだけは覚えておいた方がいい。今から数日のうちに世界の支配構造は変わる。その時、キミはどう思うだろうね?」


そう言い残しホリンズとセシルは突然姿を消した。

どういったトリックを使ったのかはわからない。

考えられるのは魔具の能力か、それともこの施設の設備によるものだろう。

二人が消えた事で退路が確保された。


「…消えた?」


三人はまるでお化けを見たような顔で、言葉もなく呆然としている。

僕も驚きこそしたが思考が停止するほどではなく、以外にも冷静な部分が残っていた。

周りを見渡してみたが僕らの他に誰も居ない。


「とりあえず気配は感じない。…今のうちだ」

「ヤツは…初めから我々を逃がすつもりだったのか?」

「どうやらそうらしいな」


ニーナは腑に落ちないといった顔をしている。

ただ、考えたところで彼の真意などわかるはずもなく、立ち止まっているだけ時間の無駄だった。

ただ、これが罠という事も考えられる。

細心の注意を払って移動した方がいいだろう。

気付いたら敵に囲まれていたなんて話では笑えない。

隊列を乱さないよう静かな廊下を移動した。


「不気味だね…」

「大丈夫だ、サフラ。今のところ危険はない」

「それにしても、何故ヤツは突然消えたんだ?私には理解できなかったが、キミにはわかったか?」


ニーナはホリンズたちが消えた方法をずっと考えていたらしい。


「確証はないが、きっと魔具の能力だろうな」

「じゃあ、急に現われる事もあるんじゃないのか?」

「確かに、その可能性は否定できないな…」


それは考えたくなかった事だ。

ホリンズが突然目の前に現れて危害を加えてこないとも限らない。

少なくともここを出るまでは気を抜く事はできず、帰路の最中でも安心は出来ないだろう。

いろんな事が感情を支配したが、それとは裏腹に、馬車を見つけるまで何事も起こらなかった。

出口に待たせていた馬車は無事だった。

特に目立った変化も見られず、僕らの帰りをひたすら待っていた馬の顔が印象的だ。

荷台の中を確認しても変わったところはない。

馬の調子を見たサフラの話では、コンディションに問題はないようだ。

このまま歩き出すことも可能だと付け加えた。


「…話が出来すぎだな」

「まだ気は抜けないさ。ただ、何もないならそれでいい。油断は出来ないが、こんなところは早く脱出しよう」


困惑している三人を何とか説得して帰路についた。

施設の外は真っ暗で視界もほとんどない。

出来れば松明を灯して明かりを確保したいところだが、烈火石の能力は封印されたままだ。

せめて月明かりでもあればとは思うものの、背の高い木々が邪魔をして夜空を見る事は敵わなかった。

普通、真夜中の森を歩くのはかなり危険な事で、どこか安全なところを見つけ、野営しなければならない。

それでも、ホリンズから少しでも離れたいという感情が勝り、誰も歩みを止めようと言う者はいなかった。

僕は手綱を握りながら来た道を正確に辿っていく。

幸いなことに道に出来た轍のおかげで道に迷う事はない。

もし、この轍がなければ、文字通り森の迷宮に惑わされ出口を見失ってしまうだろう。

安全のため、サフラとニーナは馬車の中で待機しつつ、アルマハウドは御者台の座席で剣を抱いている。

危険があればいつでも飛び出せる用意があった。


「…陛下に何と報告をしたものか」


いつになくアルマハウドが弱気だった。

今回の出来事があまりにも衝撃的で酷く困惑している。

特に、皇帝の側近であったセシルの裏切りは、衝撃以上に損失は計り知れない。

今後、誰が皇帝の守護をするのかなど、後任の人事が急がれる。

また、国防の要であったセシルは、帝都のセキュリティーにも精通している。

何かあった場合、彼女が真っ先にフランベルクを指揮して脅威を排除していた事を考えれば、今の状況はまさに国家の危機と言っても過言ではない。


「ヤツは事前にこうなるよう、かなり前から仕込んでいたと言っていた。つまり、以前から帝都の情報は筒抜けだったみたいだな」

「信じられん…あれほど陛下を信頼していたというのに、全て嘘だったとは…」

「お前も見ただろ?あれがセシルの本性だ。俺に言わせれば、ホリンズもセシルも初めて会った時から人間とは思えない化け物に見えた」

「セシルの強さは折り紙つきだ。以前にも言ったとおり、彼女に勝る人間は確認されていない」

「そう言ってたな。でも、それって“ゼロリンカー”って言うところに起因しているんだろう?」


ホリンズが明かした魔具の秘密によれば、事実上ゼロリンカーという者は存在しない。

実態はホリンズがセシル用に調整した魔具、つまり“レプリカ”が原因だ。

その言葉が本当なら、特定の個人に調整した魔具を使えば誰でも彼女のように能力が振るえると言う事になる。

問題はその調整を行える者が人間の中に居ないということだ。

つまり、魔具を作り出したエルフに直接依頼するしかない。

それを聞いてアルマハウドが眉間にシワを寄せた。


「…エルフか」

「確か、ドワーフと同様に敵対してるんだったな」

「敵対などと生易しいモノではない。ヤツらは魔物よりも質が悪いんだ。特に、魔具を持たない私とは非常に相性が悪い」


アルマハウドによれば、エルフとはここ半世紀ほど争いが絶えず、双方に多くの死傷者が出ている。

正確な統計があるわけではないらしいが、人間側の死者は数万人以上にのぼる。

対するエルフ側の死傷者は、人間側の半数以下と、圧倒的に少ない。

この違いは単に戦力の違いからくるもので、魔具の能力が使えるエルフは戦闘を優位に進めてきた経緯がある。


「じゃあ何か?北へ向かうより南へ向かう方が危険だって言うのか」

「そうだ。私に言わせれば、北での出来事は正直拍子抜けだった。だが、南は北ほど甘くない。エルフどもは我々を見つければすぐに攻撃を仕掛けてくる好戦的な種族だ」

「どうにかして和解の道はないのか?」

「それこそ、ドワーフとは話が違いすぎる。もし和解が出来たとすれば、それは奇跡だな」


アルマハウドはハッキリ言ってのけた。

それだけ自信があると言うことらしい。

僕としてはこの世界の常識が正しいとは思っていない。

だから、解決の糸口がどこかにあるのではと期待を持っている。

それが夢や幻ではないと祈りつつ、帝都への帰路を急いだ。

私事ですが、これから一年で最も忙しいシーズンが始まります。

今までのように毎日投稿できるのか非常に怪しいです。

それでも、ここまで毎日続けて来たので、あとは意地で乗り切ろうかと!


まぁ、身体を壊しても意味がないので、ほどほどにしつつ、極力毎日投稿していきます。

とりあえず、忙しくなる日が分かり次第、この場を借りて改めて報告しようと思います。




ご意見・ご感想・誤字脱字の指摘等があればよろしくお願いします。

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