第7話 怪物
「貴方、は……?」
ギルバードを斬ったその女性に私は声をかけた。血まみれの姿のまま、彼女は剣についた血を拭き取りながら淡々と答える。
「無事に話せるのならよかった。確認も兼ねて。私はゼウス様の護衛のメリッサ。この格好の通り、普段は踊り子の振りをしている剣士。貴方は?」
「私は、道子。不生道子よ。ゼウスさんから聞いてるのなら……この世界にきたばかりでこの世界の地位なんてないわ」
「ああ、私の尋ね方も悪かったわ。立場なんて聞いてない。でもそう。この様子なら寄生の疑いはなさそうね。こいつから寄生を受けたんなら、このタイミングなら意識がない状態じゃないとおかしいし。ゼウス様、アリッサ、こっちへ来ても大丈夫よ」
彼女が通路の曲がり角に向かって声をかけると、ゼウスともう一人、やはりこちらもメリッサと同じ踊り子の衣装を着た女性が現れた。ゼウスが深々と頭を下げる。
「すまない。ギルバードは我々が請け負った仕事なのに、君を巻き込んでしまった」
「どういう、意味でしょうか? 私は貴方とここで別れてから、ずっと寝てたので事情がさっぱり……あっ……」
そこまで言って、私は先に彼にしなければいけないことを思い出す。頭を深々と下げた。
「その時は申し訳なかったです。どうも、自分でもわからないぐらい、その、気が立っていたみたいで……本当にすみませんでした」
ゼウスが頭を上げると今度は申し訳なさそうな表情を見せた。
「いや、私もあれは不審者としか思われないようなことをしてしまったと反省している。ところで……」
そう言い、私の腕をつかんだ。そこにはギルバードに傷つけられた傷があった。
「彼に、血を入れられたりしていないかい?」
「……感覚はありましたけど、その次の瞬間、燃えました……」
私は起きたことをそのまま伝えた。すると、彼は目を見開き、私の肩に手を乗せ興奮した様子で話し始めた。
「それは本当かね!? 魔素がない人間には寄生できない……この可能性はあったんだ! 君はそれを証明してくれたのだね!」
どうやら、相当な新発見だったらしい。そもそも魔素とは何なのか。私は聞いていない。だけど、この様子ではこの世界では重要な要素らしい。彼は私の肩から手を離すと今度は腕組みをしてぶつぶつと呟き始めた。
「いや、だが、これは異世界の人間だからこそ起きた現象である、とも……いや、だが、有能な薬師がいれば、この仮説が正しいか確かめることができそうだな……」
「ああ、ごめんねっ! リーダーはね、こうなっちゃうとちょっと止まらないから。悪い人じゃないんだ。悪い見た目はしてるけど!」
「アリッサ、軽口はその辺にしなさい。ゼウス様。私達の仕事は終わりました。彼女に事情を説明するのは良いのですが、先に仕事の報告を王へすべきです」
「ふむ……それもそうか。道子くんだったね。一緒に、グラムの所へ行かないか。ギルバードのことも、聞きたいだろう?」
そう言われて、初めてしっかりとギルバードの死体を見た。あの時、私はあの男の死体を直視できなかった。怖かったから。しかし、目の前で斬られた、この世界にきて初めて優しくしてくれた男性の死んだ姿は、直視できた。そして……涙の一つも、出てこなかった。ほんのわずかな時間だけど、優しくしてくれた人に対して私は、何も感じないというの?
「彼の遺体は、どうなるんですか」
何か言おうとして出た言葉はこれ。
「きちんと弔われるわよ。寄生体は、その生き物が死んだら一緒に死ぬ。寄生されたら、死んだ方がマシなのはそういう理由」
殺した張本人であるメリッサは吐き捨てるように答えてくれた。怒りが湧かないどころか、彼女の言い分に納得してしまった自分がいた。
そうか、こうして人は、怪物になっていくんだと、自分に対して嘲笑しながら、私は、ゼウスに対して無言で頷き、ついていった。




