第6話 目覚め
トントンっ
扉を叩く音が聞こえて目が覚めた。そこで初めて、私は自分が着替えもせずに眠ってしまったことに気が付いた。
「道子様、お目覚めでしょうか? お体は大丈夫でしょうか?」
ギルバードの声が聞こえる。私の体の心配をする声。……だが、私はその声に警戒感を持った。
一つ目。外が、暗い。窓から見える外の景色は暗く、まだ夜であることを告げていた。ただ、この世界にも昼夜の区別があるとするのなら、なのだけど。
二つ目。ギルバードの声が昼に聞いた時と少し違って聞こえた。どう違うかと言われると、はっきりと言語化はできないが、違うのだ。なんだか重たさが。
私はベッドから起き上がりながらギルバードに返事をした。
「ギルバードさん。心配ありがとうございます。目は覚めてます。少し待っていてもらえますか」
ひと眠りしてすっきりした、という所まではいかないが。感情的には落ち着いたような気がした。そこで改めて、今の状態を確認する。
体は思った通りに今は動いている。動いているけど、感覚が少し変。イメージ通りに動かしている、というより、イメージすると動いている。そんな感覚なのだ。昨日は突然あんなことになってしまったからこの感覚に戸惑ってしまったけれど……異常ではあるけど、慣れることは出来そう、と一旦飲み込むことにした。私の意志ではこの世界から出られないのだから。
どこまでが可能でどこまでができないのか、は正直分からない。だけど、扉の前で出会ったゼウスという人は何かを知っていそうだった。彼に一度会ってきちんと話をしよう。今ならたぶん大丈夫。酷い事をしてしまったし、きちんと謝らないといけないし。
ここまで確認して、一度深呼吸をした。大丈夫。寝る前ほど、酷くない。扉へと向かおうとして、自然と私の足がそこに放り出されていた剣の場所へと向かっていた。
寝辛いからって自分で剣を放り投げたことすら忘れているなんて。
……苦笑するとともに、警戒すべきと思ったことを思い出して剣を腰にぶら下げた。
そして、私は扉のノブに手を掛けて、扉を開けた。
「道子様、おはようございます。さあ、お目覚めの時間です」
そこに立っていたギルバードは傷だらけだった。しかし、ギルバードの声と顔が愉悦に歪むと、その傷口から血液が流れ出し、私に襲い掛かってきたのだ! ギルバードの血液が私の皮膚にベとりとまとわりつく。その生暖かい感触が私の皮膚を傷つけ、侵入しようと試みるのを感じた。そして、私の皮膚にチクリと痛みが走った次の瞬間。
「あああああああっ!」
ギルバードの血液が燃え上がり、悲鳴を上げて苦しみだした。一体、何が起きているというの!?
そこへドタバタと三つの足音が鳴り響いた。その一つは聞いたことがある音だった。……再び苦笑した。人の足音を聞いて、誰が来たかわかるなんて、この世界にきてから、私は本当に化け物になってしまったようね。
「ゼウスさんですよね! 来ない方がいいです。ギルバードさんが変です! ところで何故、ここへ?」
私は少し抵抗感はあったものの、ギルバードに対して剣を構えながら大声で声をかけた。足音の主は驚きながら立ち止まるのが分かった。
「そうか、それは手間が省けた。グラムに探してくれと依頼されていたんだ! 君が危険というのなら私はここに留まろう! 私の部下の剣士と闘士がいる。手伝いが必要か!」
正直、ギルバードとは戦いたくなかった。刃物を男の人に向ける。ああ、この世界に来る直前と変わらないじゃないか。私は……また、殺すの? 殺すしかないの? 寄生されたら基本的には助からない……グラムの話の濁し方から私はそう認識していたから、自然と選択肢が絞られた。いつ、ギルバードは寄生されたのだろう……
はっと、女性の姿が目に浮かんだ。もしも、あの時の彼女が既に寄生が完了してしまっていたのなら……そうしたら、これは……私が招いた事態なのでは……?
ゼウスに返事が出来なかった。そのまま、私はギルバードと向き合うことを選んだ。
ギルバードは肩で息をしていた。相当苦しかった様子で、まだ私の様子を窺っていた。お互い、一歩も動けない。
ギルバードが一歩前へ動いた次の瞬間。
横から勢いよく駆けだしてきた踊り子のような姿をした女性がギルバードに向かって二本の剣を振るう。
二本の剣から繰り出される剣舞ともいえる剣さばきはあまりに鮮やかで……不謹慎にも綺麗だった。ギルバードを見ていなければならないはずなのに、私の視線は彼女に釘付けになっていた。
気づけばギルバードは血を操る暇もなく、そのまま四肢を切断された状態で頭を一刀両断にされて、息絶えていた。




