第4話 無双
「きゃああああ!」
グラムが私にそう問いかけたタイミングで、外から悲鳴が聞こえてきた。
「ギルバード! 様子を見に行くのだ! バスパーは私と道子の警護だ」
グラムが素早く指示を出したのを聞き、私は制止した。
「いえ、私も見に行ってきます! ギルバードさん、一緒に行きましょう」
「道子……すまぬな。頼んだぞ!」
グラムは意外にもあっさり私の申し出を承諾した。しかしこれは、逃げだった。グラムの依頼。それは内容的には理解はできるものだったが。人を殺す。そう思った時に脳裏によぎったのはあの赤い血だまりだった。私には、人を殺す勇気なんてない。そのまま依頼を受けるかどうかはともかく、協力はしてあげたい。というより、しなければ戻れない。だけどこの内容は、無理だ。
玉座の間を出て悲鳴がした方向へ通路を駆けだした瞬間。物凄い勢いで周りの景色が飛んでいき、あっという間に突き当りまでついてしまった。
「道子様! お待ちください!」
言われて立ち止まり、ギルバードを待つ。……おかしい。私はそんなに勢いよく走るつもりではなかったのに。
「やめて、こないで!」
再び、悲鳴が聞こえた。ギルバードを待ってはいられない。
「ギルバードさん、先に様子を見てきます」
そう告げて、声を頼りに駆けだすとすぐに、鳥の化け物の群れが女性を襲っている姿を発見した。
しかしその光景は異常だった。
鳥の化け物たちは揃って口から液体のようなものをぶら下げ、それを女性の体にまとわりつかせていた。女性の口にもその液体が入り込み、女性は気を失ってしまっていた。気持ち悪い。これが、寄生体?
いずれにしてもとにかく、女性から引き離さなければ。でもどうやって?
その時、私は自分の腰にぶら下げているものの存在に気が付いた。玩具の剣。……だけど、さっき私が走った時に感じた違和感が、もしも重量に関しても起きていたのなら……
そう思い、私は鞘から剣を引き抜いた。剣なんて構えたことはないけれど、とにかく女性にまとわりついている、鳥の化け物から出ている触手のような液体を切らなければ。
失敗すれば、彼女の命に関わる。私は彼女を助ける手順を確認するようにイメージした。
まず、彼女の元へと駆けだす。液体に向かって剣を振る。鳥に向かってジャンプする。剣を振る。
最初とその次は、特に問題はないだろう。走るだけ、振るだけだから一個一個確認しながらでいい。でもジャンプして、空中で剣を振るって、タイミングがきちんとわかっていないと無理なのでは……? それに、ジャンプして、まではいいけれど、あの高さまで届くのかしら……? それに、この剣が本物だったら、結局、私は人こそ殺してないけれど、鳥は殺すということで……
そうこう考えているうちに、液体が妙な脈動を始める。もしかして……植え付けているの!? そうなると一刻の猶予もない。私は意を決して一歩を踏み出した。
その一歩は思った以上だった。私はたった一歩、踏み出しただけ。でもその一歩で私がイメージした彼女のそばへと移動ができてしまったのだ。嘘でしょ……
間近で見ると彼女にくっ付いた液体は彼女の肌を通して少しずつ、注入されているようだった。時間がない。私はその液体を一本一本丁寧に斬る……つもりだった。
相手は液体。柔らかいものを刃物で切る時は凄く力がいるから……そう思って私は全力で彼女と怪物の間の液体を切る様に剣を振り下ろす。
ズガッ!
すると、剣が触れた所だけでなく、その剣撃の軌道に沿って空間は斬られ、天井にまで斬撃の跡が残ったのである。結果として彼女にまとわりついていた液体は斬られた場所から消滅し、気を失った女性は解放された。倒れそうになった彼女を咄嗟に支えるために片手を差し伸べる。すると彼女はとても軽く、片腕で十分支えることができたのだ。どうなってるのよ……
鳥の怪物たちを見る。すると、怪物たちが怯んだ様子を見せていた。思わず苦笑する。そうよね、これだと、貴方達より私の方が怪物よね……
そして、鳥の怪物たちが外へと逃げようとしたその時だった。
「逃がしはしません!」
ギルバードが剣を投げた。その剣は鳥の怪物のうちの一匹に刺さり、その怪物は地上に落ちて息絶えた。
「道子様! 彼女を救うおつもりでしたら、一匹も残してはいけません! 寄生が成立する前であれば、生き残った寄生体を殺せば良いのです! 彼女の中に注入された寄生体を無力化できます!」
その言葉に反射的に体が動いた。
頭では殺したくなかった。たとえ鳥でも、もう殺したくなかった。
でも体は、助けたかったのだろう。助けられるものがそこにあるから。
気が付いたら、私はしゃがみ彼女を横に寝かせた後、その姿勢から立ち上がると同時に飛んでいた。鳥の怪物たちの頭上の天井に張り付くように足を天井に食いこませて着地すると、無意識に剣を振るった。さっきの剣撃でどこまで自分の剣が届くのか、まるで体が覚えたかのように。
そのたった一振りで、鳥の怪物たちは全て地に落ち、絶命した。
私は、天井から降りる。くるりと、まるで体操選手のように、綺麗に着地する。イメージしただけの動きが再現されることに、妙な胸の高鳴りを感じつつも、背筋が凍るような恐怖を感じた。




